《あらすじ》

魔法学校の植物園で雑草駆除作業を行っていた、とある魔女の弟子。
そんな彼のもとに、元同門のおはぎが訪れます。

〈作・フミクラ〉

  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

《登場人物紹介》

おはぎ
破門された魔女の弟子。性別未定。

の弟子
破門されていないの弟子。男性。

   ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
 

《 本文 》
 

おはぎ
「や、久しぶり」

の弟子
「最後に会ったの一ヶ月前ですよね」

おはぎ
「え? 一ヶ月も空いてたら久しぶりでしょ」

の弟子
「その感覚あるんですね」

おはぎ
「どういうこと?」

の弟子
「いえ、三日前にぼくを訪ねてきた変態ダークエルフが『三ヶ月なんて久しぶりの枠に入らへんよ』と抜かしてたので、おはぎさんもそんな考えなのかな、と」

おはぎ
「何でそのダークエルフと私が同じ考えだと? 人をなんだと思ってるの?」

の弟子
「人畜無害の皮を被った異常者」

おはぎ
「ひどっ! バニラ様に言いつけてやる!」

の弟子
「そのバニラさんから言われたんですよ『あの子は人畜無害の皮を被った異常者だから気をつけなさい』って」

おはぎ
「えへへ、それほどでもないよ」

の弟子
「情緒どうなってるんですか?」

おはぎ
「まあ、それは置いといて。前に話したこと覚えてる?」

の弟子
「前に話したこと……最近の曲はリズムが独特で歌いづらいって話ですか?」

おはぎ
「歌いやすい曲、探してくれた?」

の弟子
「探してませんよ。面倒くさいし」

おはぎ
「面倒くさいなら……仕方ないか」

の弟子
「物分りがいい」

おはぎ
「と、その話じゃなくて、シャーロット杯の後にカードゲームやったって話」

の弟子
「ああ。覚えてますよ。初戦敗退の人たちでやったんですよね」

おはぎ
「そうそう。その後にさ、今度はきちんとしたバトルしようって話になって」

の弟子
「確か【千樹観音】さんがセッティングしてるんですよね……ああ、そうか。そろそろそのバトルの日なんですね」

おはぎ
「そうなの。イーリーさんがセッティングしてくれててね……ガチ憂鬱」

の弟子
「前に話したときは結構ワクワクしてませんでした?」

おはぎ
「あの時はね。ただ、その予定日が近づいてくるとさ、なんか行きたくないなーって。めんどくさいなーって」

の弟子
「その気持ちはなんとなく判りますけど……」

おはぎ
「だから、行かないでおこうと思う」

の弟子
「欠席するってことですか?」

おはぎ
「いや、欠席しちゃうと、自動的に最下位になっちゃうでしょ」

の弟子
「おはぎさんってそんな順位にこだわる人でしたっけ?」

おはぎ
「あまりこだわりがないと言っても、最下位にはなりたくないのですよ。別に1位じゃなくていいんだけど、2位でも3位でも4位でもいいんだけど、最下位になるのは違うのですよ」

の弟子
「まぁ、なんとなく判ります」

おはぎ
「そもそも、約束を破るのは仁義に反してるし、だから欠席をする気はないんだ」

の弟子
「でも今さっき、行かないでおこうと思うって……」

おはぎ
「というわけで、ここからが本題!」

の弟子
「ババン!」

おはぎ
「私に化けて、代わりに参加してきて」

の弟子
「嫌です」

おはぎ
「君が私になりすませば、欠席扱いにはならないでしょ」

の弟子
「なるでしょ」

おはぎ
「万が一最下位になったとしても――君が勝てなかったんだとしたら、きっと私でも同じ結果になってただろうなと諦めがつくし、いいアイディアだと思わない?」

の弟子
「思いません」

おはぎ
「なんでよ?」

の弟子
「出た、異常者」

おはぎ
「ひどっ!」

の弟子
「バニラさんが言ってた」

おはぎ
「えへへ、それほどでもないよ」

の弟子
「……用件はそれだけですか?」

おはぎ
「何そのビジネスライクな質問。学生なんて時間有り余ってるんだからさ、先輩の雑談にくらい付き合ってよ。そして先輩になりすまして戦ってきてよ」

の弟子
「学生と言っても、ぼくはあのクソったれ教室の一員。やることが山積みなんです。今もここの雑草駆除の途中ですし――雑談はまだしも、わざわざ遠方に出向いてなりすまして戦うとか、そんな時間はありません」

おはぎ
「……ああ。そうか。そうだったね。君は、薬草学のコルディアン・バスチーの生徒だったねぇ」

の弟子
「なんですか、その含みのある言い方」

おはぎ
「シャーロット杯でさ、大活躍だったよね。バスチー先生」

の弟子
「いや、それほどでもなかったですよ。2回戦敗退でしたし」

おはぎ
「あのメンバーでベスト8に残ることは大活躍でしょう。すごいよね、バスチー先生。……本当に、生徒を見る目がある」

の弟子
「……何が言いたいんですか?」

おはぎ
「そのままの意味だよ。シャーロット杯に参加したコルディアン・バスチー。あれは……君だよね?」

の弟子
「っ!」

おはぎ
「魔法で上手く化けたつもりかもしれないけど、残念。君の先輩であるおはぎさんの目は騙せないのでありました。キラリン☆」

の弟子
「……」

おはぎ
「このことがバレたら、君はどうなるかな。いや、君だけじゃない。コルディアン・バスチー、学校、それどころか君が師事するバニラ様や君の妹にも多大な迷惑がかかるかもしれないねえ」

の弟子
「くっ……」

おはぎ
「彼女らのためにも、代理参戦――してくれるね?」

の弟子
「……」

おはぎ
「……」

の弟子
「……判りました。参戦します」

おはぎ
「よくぞ言っ――」

の弟子
「――とはならない」

おはぎ
「えー、なんでよ」

の弟子
「なんでよも何も、既にみんなにバレてますし。ネットニュースになりましたし」

おはぎ
「怒られた?」

の弟子
「一応副学長から叱られはしましたが、初戦突破したこともあり、どちらかと言えば褒められました」

おはぎ
「バスチー先生やバニラ様からは?」

の弟子
「以前話した通り、その二人が悪ノリしてぼくを大会に参加させたんです。もし怒ってきたらブチ切れますよ」

おはぎ
「それもそうか。くっそー。上手くいくと思ったんだけどなー」

の弟子
「諦めて、ご自身で戦ってきてください」

おはぎ
「どうしても駄目?」

の弟子
「駄目ですね。面倒くさいし」

おはぎ
「面倒くさいなら……仕方ないか」

の弟子
「物分りがいい」

おはぎ
「なら代わりにクリステルに――」

の弟子
「あいつを危険な目に合わせたら、おはぎさんと言えど許しませんからね」

おはぎ
「判ったよー。もー、自分で戦うよー」

の弟子
「ご武運を」

おはぎ
「じゃあ、忙しそうだし、帰るとしましょうかね。よく学び、ほどよく遊び、健全に生きたまえ、学生くん」

の弟子
「今度来るときは手土産のひとつでも持ってきてくださいね」

おはぎ
「可愛くない後輩だなぁ。誰に似たんだか」

の弟子
「冗談です。何も持ってこなくていいので、またいつでもお越しください」

おはぎ
「可愛い後輩だなぁ。誰に似たんだか」

の弟子
「それと、次回こそお越しの際は、事前に連絡してください。席と紅茶の準備くらいならできるので」

おはぎ
「連絡ですわね。判りましたわ。では次に訪れる時にはケーキでも持ってきましてよ。優雅なお茶会にしましょうですわ。ですわで~すわ」

の弟子
「イジってたってバニラさんに伝えておきますね」

おはぎ
「イジってないから。リスペクトだから。リスペクトからのイジりだから」

の弟子
「イジってんじゃん」

おはぎ
「おのれ罠を仕掛けたな。まさかこんな狡猾な男になってしまっていたとは。これは一門の一大事。バニラ様に言いつけなきゃ」

の弟子
「出た、異常者」

おはぎ
「ひどっ!」

の弟子
「バニラさんが言ってた」

おはぎ
「えへへ、それほどでもないよ。――と、いつまでも遊んでる場合じゃないね。自分で戦わなきゃいけなくなっちゃったし、イグリダード行かなきゃ」

の弟子
「イグリダード?」

おはぎ
「イグリダード博物館。聖天の剣借りてくんの」

の弟子
「そんな国宝クラスのもの、貸してくれないと思いますよ」

おはぎ
「私なのに?」

の弟子
「意味不明が過ぎます」

おはぎ
「可能性はゼロではないってこと。というわけで、またね――ヘイゼル。ヘイゼル・シュガーバニラ」

の弟子
「なんでフルネーム?」

おはぎ
「そっちの方がカッコよく聞こえるでしょ?」

の弟子
「なんとなく判ります」

おはぎ
「というわけで、そっちも同じようにやってね」

の弟子
「あ、はい」

おはぎ
「またね、ヘイゼル。ヘイゼル・シュガーバニラ」

の弟子
「はい、また。おはぎ…………おはぎさんって下の名前なんでしたっけ?」

おはぎ
「ん? 破門されたからないけど?」

の弟子
「なんで同じようにやれと言ったの!?」

おはぎ
「ノリ?」

の弟子
「……苦手だわー」

おはぎ
「あ、それ。昔君の師匠にも言われたよ」

の弟子
「バニラさんですか?」

おはぎ
「いや、もうひとりのほう」

の弟子
「……そうですか。……おはぎさんのこと、苦手で良かったです」

おはぎ
「本人が目の前にいるのに、よくそんなひどいこと笑顔で言えるね。怖いわー、野蛮だわー、シュガー門下」

の弟子
「えへへ、それほどでもないよ」

おはぎ
「やり返された!?」

 

 

《完》

 

   ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おはぎの驚いた顔を見て、魔女の弟子は、いつかの魔女のように口の端を吊り上げて笑いました。

 他人に巻き込まれ、その度に愚痴をこぼしつつ、彼はこれからも生きていきます。
 自分のために。妹のために。周りのために。そして、自分を愛してくれたひとりの魔女のために。
 過去を偲び、未来を夢見て、ふたりの魔女の弟子は、これからも今を歩んでいきます。
 しっかりと。しっかりと。

 

 《了》