《あらすじ》

 集い、勝ちあがった世界各国のハンドスピナーたち。
 史上最も熱い、世界大会の幕が上がる!

〈作・レイク&フミクラ〉
【第1回しなコン! 応募台本】

 

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しなコン!】とは

『声と物語が人をつなぐ、声劇コンベンション』をテーマとした声劇リアルイベント――こえコン!
その『こえコン!』が主催する、声劇シナリオの公募企画です。
詳しくは下記の公式サイトからご確認ください。

こえコン! – 声と物語が人をつなぐ、声劇コンベンション
https://koe-con.net

 

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《登場人物紹介》

レン
回崎レン(カイザキ・レン)日本代表。性別未定。

テイラー
テイラー・スピンダー。アメリカ代表。性別未定。フェイザーと兼ね役推奨。


琳旋風(リン・スウェンフォン)。中国代表。性別未定。

ダニ
ダニ・スピンホップ。ブラジル代表。性別未定。

ニコ
ニコ・スピンチュエリ。イタリア代表。性別未定。

ジャン
ジャン・スピンバンバ。コンゴ代表。性別未定。

コールマン
審判&実況。性別未定。

フェイザー
■■代表。性別未定。テイラーとの兼ね役推奨。

 

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《本文》

レン
 名が呼ばれた。
 光(ひかり)に向かって足を進める。
 進んだ先にあるのは、普段スポーツの大会などが行われる、スタジアムのステージ。
 歓声が鼓膜をたたく。席を埋め尽くした観客たちの声だ。
 その声に背中を押され、過去の戦いと同様に、ステージに設置された5メートルの、飛び込み台のような塔に向かう。
 円を描くように等間隔にそびえ立つ、5つのうちのひとつ。正面に大きな赤の文字でAと書かれた塔に。
 備え付けられた階段を上り、頂上に立つ。
 やがて目線の先に、小生と同じように名を呼ばれた者たちが並んだ。
 彼らは歴戦の勇士。このハンドスピナー世界大会の決勝に勝ち上がった兵(つわもの)達。

コールマン
「各々方(おのおのがた)準備は整いましたね。では、決めましょう。この世界で最も強いハンドスピナーを!」

レン
 やがて、開始の合図が告げられる。
 小生たちは、自らの機体をバトルポジションにセットし、

コールマン
「――3(スリー)、2(ツー)、1(ワン)――」


「応龍(インロン)、ワイルドスピン!」

ダニ
「カーニバルエクスプロージョン、ワイルドスピン!」

ニコ
「レガートループ、ワイルドスピン!」

ジャン
「ムロイマンボ、ワイルドスピン!」

レン
「弧法師(こぼうし)、ワイルドスピン!」
 世界最強を決める戦い。その幕が上がった。

 

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コールマン
「さぁ、決勝戦の火蓋が切られました。実況は私、コールマン。解説はアメリカ代表のテイラー・スピンダーでお送りいたします」
「さて、スピンダー」

テイラー
「テイラーでいい。何の因果か、俺と決勝の連中はラストネームが似通っているからな」

コールマン
「では、選手たちのことも、今回はファーストネームで呼ぶこととしましょう。では気を取り直してテイラー。元優勝候補として、この決勝戦、どのような戦いが予想されますか?」

テイラー
「そうだな。どいつもこいつも一癖も二癖もある連中だ。誰が強いとは一概(いちがい)には言えないが……順当にいけば、ブラジルのダニが王座を戴冠(たいかん)するだろうな」

コールマン
「というのは?」

テイラー
「あいつは出場者の中でもフィジカルが頭ひとつ抜けている。ハンドスピナーにおいて、フィジカルは地味に重要な要素だ。実力が拮抗(きっこう)した時、その差が、そのまま勝敗に繋がることも珍しくない」

コールマン
「なるほど。では、そういう目線で見ると最も不利なのは……日本のレンですかね?」

テイラー
「ああ。と、言っても、ハンドスピナーは何が起こるか判らない競技だ。俺の予想は参考程度に聞いておけ」

コールマン
「さすがですね」

テイラー
「さすが? ダニが?」

コールマン
「いいえ、あなたがですよ。テイラー」

テイラー
「俺?」

コールマン
「フィジカル強化のドーピングで失格になっただけのことあって、説得力が違う。さすがです」

テイラー
「え、もしかして俺、再びつるし上げられるために呼ばれたの?」

コールマン
「おっと、そのダニが何か仕掛けるようです!」

 

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ダニ
「楽しいな、楽しいな、楽しいな。大会が始まって、オイラのアドレナリンはドバドバだよ! 君らもそうだろ?」

ジャン
「然(しか)り」

レン
「当然! 世界大会の決勝でアドレナリンが出てない方がどうかしてる!」

ニコ
「やめてくださいよ。これでも冷静に努めてるんですから」


「アドレナリン?」

ダニ
「同じ気持ちで嬉しいよ! そんな君たちにオイラからのプレゼントだ! ――踊れ、カーニバルエクスプロージョン!」


「す、すごい回転アル!」

レン
「見間違いか? ダニの姿が、ゆらゆら揺れて」

ジャン
「熱気だ。あのハンドスピナーが回転するごとに、凄まじい熱気を生み出し、奴の周りの空気を歪ませ、その姿を揺れているように見せているんだ」

ニコ
「確かにハンドスピナーは回転する時に熱を放出します。それにしたって、限度ってものがあるでしょう!?」

ダニ
「カーニバルはこれからさ! ――浮かれ騒げ、サンバ・フリック!」

 

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コールマン
「なんと! ステージに突然サンバダンサーの群れが現れました! しかもその数は、ざっと見ても百は超えています! 警備は一体何をしているんだー!」

テイラー
「よく見ろ」

コールマン
「はい?」

テイラー
「あれは、幻覚だ」

コールマン
「幻覚? いや、でも私テイラーと違ってクスリとかやってませんよ?」

テイラー
「俺もやってねえよ!」

コールマン
「ドーピング」

テイラー
「いや、それは幻覚作用のないタイプのやつだから」

コールマン
「さいですか。それで、何故そんな幻覚が?」

テイラー
「ダニの機体から発せられる熱気が、会場の空気と混ざり合い、蜃気楼(しんきろう)が生まれ、そこに奴の心象風景が投影されたんだ」

コールマン
「では、このダンサー達はダニが生み出した蜃気楼だと?」

テイラー
「ああ、そうだ」

コールマン
「……あの、すみません」

テイラー
「なんだ」

コールマン
「蜃気楼って、そういうやつでしたっけ?」

テイラー
「ああ、そういうやつだ!」

 

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ニコ
「別にダンサー達がこちらの機体の回転を弱めているわけではありませんが……これは……」


「神聖な戦いの舞台で、派手な連中が踊り狂っているのは、気が散るアル!」

レン
「しかも、あのダンサーが現れてから、ダニの機体の回転数がぐんぐん上昇してる!」

ジャン
「やはり、自己強化系の技か……!」

ダニ
「その通り! オイラのサンバフリックは、発動したが最後。ダンサー達が消えるまで、回転数が上がり続ける! 上がった回転数はより強い熱を生み出し、蜃気楼を強め、ダンサーの数を増やし続ける! 永久機関だ!」

レン
「くっ! お前ら何とかできないのか!? このままじゃ、あいつのひとり勝ちだぞ!」

ニコ
「残念ながら……」

ジャン
「人に問う前にキサマはどうなんだ」

レン
「できたらやってる!」

ジャン
「ふぅ……仕方ないな。ジャンに任せ――」


「熱い、鬱陶しい、ウザったい!」

ジャン
「いや、適任がいるようだ」


「ここは強者のみが立てる聖域アル。部外者は出て行くネ。解放するヨ、応龍(インロン)!」
 
「凍てつけ、龍神咆哮(ロンシェンパオシャオ)!」

 

ダニ
「っ! オイラのダンサー達が消えていく!? いや、回転も弱まって――蜃気楼が、消えた……」


「龍神咆哮(ロンシェンパオシャオ)はお前とは逆、冷気を生み出す技。蜃気楼ごとかき消し、技を無効にしてやったアル」

ダニ
「アハッ! 面白いね、面白いね、面白いね! じゃあ、君とオイラ、熱気と冷気の力勝負といこうよ!」


「タイマンでなら、それもいいネ。でも、これは5人制のサバイバルマッチ。ふたりで潰しあっても、残りのハイエナどもが喜ぶだけアル」

レン
「ハイエナって」

ジャン
「チッ……!」

ニコ
「冷徹と呼んでもらいたいですね」


「時に冷徹、さっきからコソコソ何をしているアルか?」

ニコ
「……はい?」


「しらばっくれても無駄アル。お前からずっと感じているネ。不穏な回力(かいりょく)を」

ジャン
「ジャンも感じている。キサマ、この戦いが始まってからずっと何か仕込んでいるな」

レン
「そうなのか!?」

ダニ
「なになに、面白いことかな?」

ニコ
「ふっ、ふふふふふふ、ふははははははは! いいでしょう! 教えてあげましょう! 見せてあげましょう! この僕の最高の煌(きらめ)きを! 開闢(かいびゃく)せよ、レガートループ!」
 
「絢爛光臨(けんらんこうりん)――レネッサンス・フュージョン!」

  

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コールマン
「イタリア代表のニコが光に包まれたと思ったら、その身体には、光を放つ金の装甲が! あれは一体どういうことですかテイラー!?」

テイラー
「おそらく、ニコの機体、レガートループの技だろう」

コールマン
「それは見ていれば豚でも判ります」

テイラー
「え、あ、だよな」

コールマン
「私が聞いているのは、どんな技かってことです」

テイラー
「おそらく、ダニと同じく自己強化系の能力――いや、俺の経験上、ダニの奴よりももっと強力なもの。煌(きらめ)きと言っていたことから推測するに、あの装甲の輝きが増せば増すほど、機体の回転数が上がる、といったところだろうな。ああいうのがシンプルに一番強ぇんだ」

コールマン
「なるほど、瞬時にそこまで見抜くとは、さすが腐っても優勝候補ですね」

テイラー
「褒めてんの? けなしてんの?」

 

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ニコ
「ご覧ください! 目にお焼け付けください! 僕の勇姿を!」


「レガートループの回転数が上がって……は、ないアルな」

ジャン
「……キサマら、機体に異常は?」

ダニ
「ん? 特に」

レン
「感じないな」


「同じく」

4人
「「「「?」」」」

ニコ
「ふふふ、ふははははははははは! 愉快ですね! 痛快ですね!」

レン
「まさか、小生たちが気付いていないだけで、すでに何らかの攻撃を!?」


「どこアル。どこに何をしたネ!?」

ダニ
「五感を澄ませて探るんだ! 手遅れになる前に対処しなきゃ!」

ジャン
「上辺だけのハリボテだと捨て置いたが、まさか、最も警戒すべき毒虫だったとは……!」

ニコ
「ふふふ、レネッサンス・フュージョンは、機体が回転している間、最高にカッコいい装甲を顕現(けんげん)させ、所持者――つまり僕をクールに着飾るレガートループの必殺技! さぁ、慄(おのの)きなさい。俯瞰(ふかん)で見て、誰が主役に見えるか想像しなさい!」

レン
「……ん?」

ニコ
「どうしましたか?」

レン
「装甲が出て、それで?」

ニコ
「とは?」

レン
「いや、その先は? 回転が早まるとか、相手の機体にダメージを与えるとか」

ニコ
「そんなオプションはありませんが……え、駄目ですか?」

レン
「いや、駄目ってわけでもないんだけどさ」

ニコ
「だけど?」

レン
「もっと凄いことが起こると思っていたから……」


「尻すぼみアル」

ダニ
「ガッカリ」

ニコ
「知りませんよ!」 

 

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コールマン
「『ダニと同じく自己強化系の能力』」

テイラー
「……」

コールマン
「『いや、俺の経験上、ダニの奴よりももっと強力な……あの装甲が輝けば輝くほど、機体の回転数が上がる能力とみて間違いないだろう』」

テイラー
「……」

コールマン
「『ああいうのがシンプルに一番強ぇんだ』」

テイラー
「……」

コールマン
「さすがですね」

テイラー
「イタ公! お前のせいで蛇みたいな奴に絡まれてんだけど! クソみたいな必殺技キメてんじゃねえよテメェ!」

 

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ニコ
「だから知らないって言ってるでしょうが! 揃いも揃って人の必殺技をけなさないで頂きたい!」
「それに、いいんですよこれで。必殺技に頼らずとも、僕はイタリア人です。皆さんとは基礎回力が違う」

レン
「どういうことだ」

ニコ
「僕らイタリア人は、ピザを作る時や切る時、パスタを食べる時など、普段から食生活に回転が入り込んでいる。ゆえに、イタリア人の平均回力はどの国よりも高く――その中でも僕の回力はトップクラス。なので、技に頼らずとも、あなたたちに勝つことことくらい、容易(たやす)い」

ジャン
「戯言(ざれごと)を」

ニコ
「ちなみに、僕は生まれながらに相手の回力を視(み)ることの出来る魔眼(まがん)の持ち主です。特別に教えてあげると、皆さんの回力は僕の3分の1程度しかありません。そんな貧弱な回力で僕に勝てると思いますか?」

レン
「3分の1!?」


「お前、嘘ついてるネ。生活に回転があることが回力に影響するのならば、最も回力があるのは朕(チン)のはずアル。常に周囲の気の流れを読み、弧(こ)を描くように受け、流すよう、幼少の頃より育てられた。そんな朕がお前の3分の1の回力しかない? その軽い口、縫(ぬ)い合わせてやろうか、ペテン師」

ダニ
「オイラも、生まれた頃から近くにボールがあった。だから回力は君たち2人にも負けていないはずだよ。負けていたとしても3分の1はさすがにサバの読みすぎだ。違う?」

ニコ
「……騙されて怖気(おじけ)づいてくれるかと思ったのですが、そう上手くはいきませんね。ご名答。3分の1の回力は、レンさんとジャンさんの2人だけ。僕ら3人の回力はほぼ同じですよ」

レン
「え?」

ジャン
「あ?」

ニコ
「ん? どうしました?」

レン
「いや、え、うそうそうそ。また嘘ついてる。小生とジャンも同じくらいだよな? お前らと一緒くらいの回力だよな?」

ニコ
「いえ、ガチですけど。別におふたりとも、生活に回転が入ってませんよね?」

レン
「それにしたって、3分の1は言いすぎだよな?」

ニコ
「言い過ぎじゃないですよ。数値で言うと、僕らが大体120万回力で、レンさんが36万、ジャンさんが44万回力ですから」

レン
「……え、小生たちって、どうやって決勝まであがったの?」

ニコ
「それは、こっちが聞きたいと言うか……」

ダニ
「きっとすごい頑張ったんだよ! 知らんけど!」


「無駄口を叩くのは終わりネ。回転もそろそろ弱まってきた。決着、つけるアルよ2人とも」

ニコ
「いいでしょう!」

ダニ
「望むところさ!」

レン
「蚊帳(かや)の外!? ジャン、ふたりでハンドスピナー協会に抗議しようぜ! 回力差別で仲間はずれにされたって!」

ジャン
「……五月蝿(うるさ)い」

レン
「ジャン?」

ジャン
「ブンブンブンブン五月蝿いんだよ、羽虫(はむし)ども。回力だ? そんな生まれや育ちで決まるもので王者になれると、本気で思ってんのか?」

ダニ
「……っ!」

ジャン
「ハンドスピナーバトルで最も大事なのは、回力なんてものじゃない。バトルを勝つために積み上げた力と技――努力と執念だ」

ニコ
「努力と、執念」

ジャン
「ジャンの積み上げた力、見せてやるよ。目覚めろ、ムロイマンボ」

「蝕(むしば)め、ンズィラ・ヤ・ンカミカ!」

 

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コールマン
「ジャンの機体から黒い霧のようなものが噴出し、会場を包み込みました! これは、いった……ッ!」

テイラー
「大丈夫か、コールマン」

コールマン
「駄目、無理、しんどい。寝ていいですか?」

テイラー
「仕事しろ」

コールマン
「そうは言いますけど、本当にきつくて……この霧のせいでしょうか」

テイラー
「間違いなく、な。観客も、出来るだけ吸わないように適当な布で鼻と口を抑えろ。最悪、気ぃ失うぞ」

 

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ダニ
「吐き気がする……冷や汗が止まらない……何だい、これは……」


「視界が……かすんできたアル」

ニコ
「……毒、ですか?」

ジャン
「まさか。毒を盛るだなんて、そんな卑怯なことはしないさ。言ったろ。積み上げた力だって。これはジャンが血の滲む努力によって身に着けた技だ」

ダニ
「努力……技……」

ジャン
「うちは、代々闇の精霊を使役する呪術師の家系でな。その術をハンドスピナーの技として転用したというわけさ。たえまぬ努力でな!」

ニコ
「めちゃくちゃ、生まれや育ちで、手に入れたもので、戦ってるじゃないですか」

ダニ
「呪いも、十分卑怯な、気がするよ」


「呪術を、努力って、言われても、全然、しっくり、こない、アル」

ジャン
「揚げ足取りはみっともないぞ。この技は、闇の精霊の力を借りて、黒霧を発生させる。黒霧を吸い込んだものは、血圧が急低下し脳貧血を起こす。どんな大男でも、2分ほどで失神だ。お前らは、いつまでもつかな?」

ニコ
「……まさか、機体ではなく、人に直接害を与える技を、す、る、なんて……!」


「ドン、引き、アル」

ジャン
「何とでも言え。勝てば官軍(かんぐん)なんだよ。羽虫ども」

レン
「――確かに、勝てば官軍だ。でも、こんな勝ち方、つまんなくないか?」

ジャン
「……キサマ、何故平然としている」

レン
「お前に精霊の加護があるように、小生にも加護があるのさ」

ジャン
「加護?」

レン
「神の加護がな!」

ジャン
「神だと?」

レン
「ああ。小生の姉は巫女のバイトを3ヶ月やっていた。巫女とは神に仕えるもの。神に愛されるもの。その加護を受けるものだ! そして、その親族である小生もまた、神の加護を受けるのは、自明の理である!」

ジャン
「そ、そうなのか? すごく乱暴なことを言っているような……」

レン
「言っていない!」

ジャン
「日本では、神社でバイト巫女を3ヶ月やっただけで、神の加護を得られるのか? しかも、その親族まで」

レン
「神社じゃない」

ジャン
「なに?」

レン
「コンカフェだ!」

ジャン
「逆にバチが当たるんじゃないのか!?」

レン
「神さまの器(うつわ)がそんなに小さいわけないだろ! 侮辱(ぶじょく)するな!」

ジャン
「えぇ……」

レン
「とにかく、その呪い、打ち破らせてもらうぞ。――起き上がれ、弧法師(こぼうし)!」
 
「神の息吹を感じろ。がらぴいがらぴい――かざぐるま!」

 

ニコ
「レンの機体から出た風が、霧を全て吹き飛ばした……」


「っ、死ぬかと思ったアル。助かったネ」

ダニ
「ありがとう、レン」

レン
「構わんよ」

ジャン
「……まだだ。まだ別の呪いを……!」

レン
「やってもいいけど、すぐにかき消すぞ。小生はお前にとっての天敵だ。それは、理解してるだろ」

ジャン
「くっ……!」

レン
「そして、他の3人にとっては、お前が天敵だ。その呪いに対抗する手段を誰も持っていない。そうだよな」

ニコ
「……何が仰(おっしゃ)りたいんですか?」

レン
「簡単だよ。この戦いは、一度仕切りなおして、技なしで決着をつけようぜ」

ジャン
「技なし?」

レン
「ああ。技を発動させることなく機体の回転を見届ける。クラシックルールでな」

 

――間

 

ダニ
「君に助けられなかったら負けていたんだ。いいよ、それで」

ニコ
「僕は元よりそのつもりでしたからね。願ったり叶ったりです」


「望むとこネ。どんなルールでも負ける気はしないアル」

レン
「……お前は?」

ジャン
「……いいだろう。負けても呪うなよ。回力自慢ども」

レン
「そういうわけなんだけど、審判的にはどうですか?」

コールマン
「無論です。仕切りなおしましょう」

 

――間

 

コールマン
「では、改めまして――3(スリー)、2(ツー)、1(ワン)――」


「応龍(インロン)、ワイルドスピン!」

ダニ
「カーニバルエクスプロージョン、ワイルドスピン!」

ニコ
「レガートループ、ワイルドスピン!」

ジャン
「ムロイマンボ、ワイルドスピン!」

レン
「弧法師(こぼうし)、ワイルドスピン!」

 


「回れ!」

ダニ
「回れ!」

ニコ
「回れ!」

ジャン
「回れ!」

レン
「回れぇぇぇぇぇぇぇ――!」

 

――間

 

コールマン
「長い、長い戦いでした。その決着が今!」

 


「出し尽くしたアル。後悔はないネ」

ダニ
「すごいヤツだと思っていたけど、まさかここまでとは……」

ニコ
「久し振りに、熱く、楽しいバトルでした」

ジャン
「チッ……羽虫が。まぁいい。今回は譲ってやるよ」

レン
「決勝戦をこの5人で戦えて、本当に良かった!」

 

コールマン
「第22回ハンドスピナー世界大会王者は――――ブラジル代表。ダニ・スピンホップ!」
 

ダニ
「今日は最高の一日だよ! みんな、ありがとう! 我ながら、スゴイな、オイラってやつは!」

 

   @ @ @ @ @

 

コールマン
「準備が出来次第、表彰式に移りたいと思います。――さて、テイラー、今回の決勝も大熱戦でしたね」

テイラー
「……大熱戦? あれが、か?」

コールマン
「……どういうことですか?」

テイラー
「そうか。あの程度で大熱戦なのか。――想像以上にレベルが低いんだな、お前たちは」

コールマン
「え……」

ダニ
「……」

ジャン
「なに?」

ニコ
「聞き捨てなりませんね」

レン
「誰のレベルが低いって?」

テイラー
「聞こえなかったか? 回力わずか120万程度のゴミども」


「反則をした卑怯者の分際で、よく吠えるネ」

テイラー
「反則? ああ。――くくく、くははははははははは! そうか、まだ気づかないのか」

ジャン
「っ! キサマ、誰だ」

コールマン
「誰って……」

レン
「テイラーじゃないのか? アメリカ代表の」

ダニ
「テイラーじゃないよ。最初からずっと。そこにいるのは、テイラーの姿を借りたナニカだ。そうでしょ?」


「ナニカ?」

テイラー
「ほう、さすが精霊持ちと優勝者だな。最低限の見る目はあるらしい」

 

コールマン
「熱っ……!」

レン
「テイラーの足元から火柱が上がってその身体を包んだと思ったら、一瞬で消えて……別の人間になった!?」

ジャン
「魔術の類(たぐい)か!?」

 

フェイザー
「俺はフェイザー――火星代表のハンドスピナーだ」

レン
「フェイザー!?」

ニコ
「火星代表!?」


「こいつ、毒電波受信してるアルか!?」

フェイザー
「その反応。なんだ、知らないのか? これよりひと月後、16の星の代表チームによる、ハンドスピナー宇宙大会が行われる」

ダニ
「そうか。そのために君はテイラーに化けて、オイラたちを偵察していたんだね」

レン
「ひと月後!?」

ニコ
「宇宙大会!?」


「間違いない! こいつ、まだクスリやってるアル!」

フェイザー
「ご名答だチャンピオン。だが、その必要はなかったらしい。お前らでは、我々の前にも立てないだろうからな」

ニコ
「どういう意味ですか」

フェイザー
「そのままの意味だ、魔眼(まがん)持ち。トーナメントの組み合わせから見て、お前たちと我々火星チームが当たるのは決勝戦。今のお前らの実力では、万が一にも勝ち残ることはできない」

ダニ
「そんなに強いのかい? 他の星の人たちは」

フェイザー
「最弱といわれる金星代表でもその平均回力は2000万を超える」

ニコ
「に、2000万!?」

フェイザー
「120万程度ではしゃいでいる――」


「ていうか、お前魔眼で回力を見れるんじゃなかったアルか? なんでこちらサイドで新鮮に驚いてるネ」

ジャン
「それは、ジャンも思ってた。キサマこそ一番に見抜けよ」

ニコ
「あ、この目は、睡眠前に回力が見たい人を事前に予約して、目が覚めたとき、その予約していた人の回力だけを見ることができるシステムなので」

ダニ
「へー、そうなんだ。魔眼ってそういう準備みたいなのが必要なんだね」

ニコ
「はい。僕のものに限らず、基本的に魔眼や邪眼と呼ばれているものの大多数は前日からの予約が必須なんです」

レン
「結構面倒くさいんだな」

フェイザー
「……話は済んだか?」

ジャン
「気にせず続けろ。ちゃんと話は聞いている」

フェイザー
「そうか――120万程度ではしゃいでいるお前達とは根本的なレベルが違うんだ。ちなみに、我々火星代表の平均回力は――13億だ」


「…………ないわー」

レン
「判る。そこまでいかれると、何かもう驚くっていうか、引く」

フェイザー
「……何はともあれ、ひと月後、宇宙イチのハンドスピナーが決まる。せめて一回戦の金星相手くらいは善戦できるよう、足掻いてくれよ。下等種族」

ニコ
「みなさん、空を見てください!」

ダニ
「あれは……ハンドスピナー型のUFO!?」


「あ、UFOから光が伸びて、火星人を吸い込んだアル!」

レン
「火星人を回収したUFOが、一瞬で遠くのほうに飛んでった!」

 

コールマン
 そうして、フェイザーと名乗った異星の者は、去っていきました。
 ひと月後の宇宙大会という、不穏な言葉を残して。

 

――間

 

ダニ
「宇宙大会かー。どんなハンドスピナーが相手なのかな。楽しみだね、みんな!」

ニコ
「のんきですね。と、言いたいところですが、僕も同じ気持ちです」

ジャン
「足を引っ張るなよ。羽虫」


「朕たちに喧嘩をうったこと、骨の髄から後悔させてやるネ」

レン
「そうだ。小生たちが、地球人こそが、最強のハンドスピナーだ!」

 

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コールマン
 長い世界大会が終わり、舞台は宇宙へと移る。
 果たして、5人の戦士達は、勝ち上がることができるのか。
 その結末を知るものは、まだ、いない。

 

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コールマン
「なんだかんだあって、宇宙大会決勝で土星チームを破り、宇宙王者となった地球代表チーム」
「打ち上げで向かったサイゼリヤで彼らを待ち構えていたのは、史上最大の試練だった」
「果たして彼らは、その試練を打ち破ることができるのか!?」

ダニ
「次回『難解奇怪! キッズメニューの間違い探し!』」

レン
「次回も、ワイルドスピン!」

 

 

《了》