《あらすじ

 トラックに轢かれて命を落としてしまった少女は、
 生と死の狭間の場所で、異世界行きを告げられる。

〈作・フミクラ〉
【贈スト企画 参加台本】

    
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《登場人物紹介》

雲雀瞳(ひばり・ひとみ)
学習塾に向かう道中、トラックに轢かれて命を落とした学生。女性。

女神(めがみ)
不慮の死を遂げた人間を、異世界へと送る仕事を天から任された女神。女性。
  
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《 本文 》
 

女神
「こんにちは、女神です」

雲雀瞳
「あ、こんにちは」

女神
「雲雀瞳(ひばり・ひとみ)様。あなたは本日午後5時21分。トラックに轢(ひ)かれてお亡くなりになられました」

雲雀瞳
「え?」

女神
「覚えていませんか? ヒバリ様は、学習塾に向かう道中――」

雲雀瞳
「……思い出した。確かに私は塾に向かう最中、トラックに轢かれて……っていうか、え、亡くなった? 死んだってこと?」

女神
「はい」

雲雀瞳
「じゃあここは……」

女神
「いわゆる彼岸(ひがん)と此岸(しがん)の狭間(はざま)。そちらの言い方では三途(さんず)の川などと呼ばれる場所です」

雲雀瞳
「ごめんなさい、ヒガンもシガンもサンズノカワも知らないっす」

女神
「なら……あの世に行く前にみんなが通る場所と、お考え下さい」

雲雀瞳
「なるほど?」

女神
「というわけで、ヒバリ様はお亡くなりになりました。ご愁傷様(しゅうしょうさま)です」

雲雀瞳
「そんな事務的な言い方――あ」

女神
「どうしました?」

雲雀瞳
「判った! この展開どこかで見たことあると思ったんだ! 夜中にやってたアニメだ!」

女神
「……アニメ?」

雲雀瞳
「あれでしょ! 今から異世界行くんですよね!」

女神
「せ、正解です」

雲雀瞳
「やっぱりー! そういうことかー、なるほどなー……これ夢かー!」

女神
「いえ、不正解です」

雲雀瞳
「え、異世界行くんじゃないんですか?」

女神
「それは正解なんですが、夢というのは不正解です」

雲雀瞳
「え」

女神
「ヒバリ様は正真正銘お亡くなりになりました」

雲雀瞳
「……ガチで?」

女神
「ガチです」

雲雀瞳
「リアルガチで?」

女神
「リアルガチです」

雲雀瞳
「クランベリーガチで?」

女神
「ちょっと意味が判りませんが、クランベリーガチです」

雲雀瞳
「……そうなんだ」

女神
「……」

雲雀瞳
「ごめんなさい。悲しまなきゃいけないのかもしれないけど、まだ実感がないから何とも言えないです」

女神
「突然のことですからね。仕方のないことです」

雲雀瞳
「あと私、日頃からいつ死んでもいいと思ってたから、ショックがないのかも」

女神
「……」

雲雀瞳
「それで、異世界行くんですよね?」

女神
「ええ。ヒバリ様は不慮(ふりょ)の死を迎えたため、別の世界でその命の続きを生きられる権利を得ました」

雲雀瞳
「へぇ。何か得した気分」

女神
「ただし、条件付きで」

雲雀瞳
「条件?」

女神
「ヒバリ様は異世界からの救世主として、とある国の王に召喚されるという流れで異世界に転移します。そしてそこで王は言います『魔王を倒せ』と」

雲雀瞳
「あー、はい、判りました」

女神
「……飲み込みがお早いですね」

雲雀瞳
「アニメでもそんな感じの展開だったし。そんで魔王を倒した後は辺鄙(へんぴ)な村で自給自足してりゃあいいんですよね?」

女神
「その後に関しては、どうぞご自由に。……それにしても、理解が早くて助かります」

雲雀瞳
「アニメのおかげです」

女神
「――では、勇者ヒバリ・ヒトミよ」

雲雀瞳
「あ、はい」

女神
「その扉を開け、異世界に旅立ちたまえ!」

雲雀瞳
「……」

女神
「……」

雲雀瞳
「……」

女神
「え、いや――その、目の前まっすぐにある白くて大きい扉を開け、旅立ちたまえ!」

雲雀瞳
「……」

女神
「……特にドアノブとか回さず、前に軽く押せば開くタイプの扉を開け、旅立ちたまえ!」

雲雀瞳
「いや、ちょっと待って下さい」

女神
「どうしました?」

雲雀瞳
「あの……何も無し?」

女神
「ん?」

雲雀瞳
「いや、アニメでは」

女神
「アニメでは?」

雲雀瞳
「異世界行く前に、魔王を余裕で倒すだけの何かスゴイ能力を女神様的な人から贈られていたんですけど……そういうのは?」

女神
「いえ、うちはそういうのは……」

雲雀瞳
「やってないんですか!?」

女神
「はい」

雲雀瞳
「うそでしょ……あ、そうか。異世界に送られた後で、何かスゴイ能力が身についているパターンのやつ?」

女神
「いえ、そんなパターンもありませんが」

雲雀瞳
「は? じゃあ、え……シンプルな私? シンプル瞳? シンプル瞳で異世界転移パターン?」

女神
「ええ、シンプル瞳で異世界転移パターンです」

雲雀瞳
「それで、魔王を倒せと」

女神
「そうです」

雲雀瞳
「もしかして魔王って、あんま大したことない?」

女神
「まさか。その世界で最も凶悪で強い生き物ですよ。国壊しまくり、生物滅ぼしまくり」

雲雀瞳
「それを、シンプル私に倒せと」

女神
「はい。そうなります」

雲雀瞳
「……」

女神
「……」

雲雀瞳
「……無理でしょ」

女神
「そう言われましても、うちは創業以来これでやらせてもらってますので」

雲雀瞳
「悪しき伝統に縛られた企業はいつか瓦解(がかい)します! 今すぐに改善を!」

女神
「……いいですか、ヒバリ様。無理なものは無理なのです。大人になってください」

雲雀瞳
「こっちが悪いの!?」

女神
「そもそも、その魔王を倒せるだけのスゴイ能力? を与えるってどうやってですか? そういうマシーンでもあるんですか?」

雲雀瞳
「いや、それは知らないけど。女神なんだから何とかできるんじゃ――」

女神
「出た! 『女神だから』! 勝手に全能感(ぜんのうかん)抱(いだ)くのはそっちの勝手ですけどね、全ての女神が何でもかんでもできると思わないで下さい」

雲雀瞳
「う……じゃあ、能力じゃなくてもいいから、魔王攻略に役立つアイテム的なものとかは?」

女神
「アイテム的なもの?」

雲雀瞳
「えっと、ほら、何でも斬れる剣とか、どんな攻撃にも耐える盾(たて)とか、つけるだけで力が何十倍にもなるグローブとか」

女神
「(ため息)ヒバリ様」

雲雀瞳
「はい」

女神
「現実的に考えて下さい。そんなもの、あるわけないでしょう?」

雲雀瞳
「え、なんで私今、非現実代表みたいな存在に現実を諭(さと)されてるの?」

女神
「あまりゴネると、異世界転移もさせませんよ? はい。判ったら、大人しく扉開けて、異世界へゴー!」

雲雀瞳
「……」

女神
「ゴー!」

雲雀瞳
「……」

女神
「ゴーゴゴー!」

雲雀瞳
「……行きません」

女神
「は?」

雲雀瞳
「私、異世界には行きません。このままあの世に行きます」

女神
「ご冗談ですよね? 異世界に行けば命の続きを生きられるんですよ?」

雲雀瞳
「生きられると言っても、結局魔王に殺されるじゃないですか。いや、それどころか、魔王に会う前に命を落とすかもしれない。どっちにしても、過酷(かこく)な世界へ死にに行くために生き返るくらいなら、このままあの世に行きます。そもそも私、そこまで生に執着(しゅうちゃく)があるわけじゃないし」

女神
「え、ちょっ……困りますよ!」

雲雀瞳
「……何で?」

女神
「え?」

雲雀瞳
「何でそっちが困るんですか?」

女神
「いや、あの、それは……」

雲雀瞳
「私が異世界に行かなくても別に女神様には……もしかして、なんか貰(もら)ってます?」

女神
「そ、そそそそそそんなわけないじゃないですか!」

雲雀瞳
「じゃあ、いいじゃないですか。異世界には行きません。あの世に行きます」

女神
「……」

雲雀瞳
「……」

女神
「……参りました。降参です」

雲雀瞳
「何がですか?」

女神
「貰ってます」

雲雀瞳
「やっぱり」

女神
「一応弁解しておくと、不正なものじゃないですからね。きちんとしたお給金(きゅうきん)ですからね!」

雲雀瞳
「……ふーん」

女神
「あ、その目! 信じてないでしょう」

雲雀瞳
「そりゃあ、ねえ」

女神
「本当です。正真正銘、これが天から与えられた私の仕事なんです!」

雲雀瞳
「異世界への人身売買が?」

女神
「じ、じん――失敬な!」
「いいですか? 人々の死は、常に天によって管理されています。しかしイレギュラーはあります。突然の死。天の予定にない死者は、天国にも地獄にも送られず、現世を彷徨(さまよ)うこととなり……場合によっては悪霊と呼ばれる呪いとなって、生者達を襲うこととなります。そうなれば、また予定にない死者が生まれ、悪霊となり――と、悪循環(あくじゅんかん)が続いてしまいます」

雲雀瞳
「だから、その予定にない死者を蘇(よみがえ)らせて異世界に送る、と」

女神
「自殺者はまた別なのですが、それ以外の方は、そうなります。ヒバリ様が暮らしていた世界以外にも、世界は無数にあります。そしてその世界達は常に、別の世界からの救世主を求めていますから」

雲雀瞳
「やっぱ人身売買じゃん。しかも、質(タチ)の悪い」

女神
「違うって言ってるじゃないですか! チャンス。そう、チャンスですよ! 異世界の方にも、予定外の死を迎えてしまった方にも、チャンスを与えたのです!」

雲雀瞳
「……チャンスって……うさんくせー。結局いらないから他のところに押しつけてるだけじゃないですか」

女神
「そんな言い方」

雲雀瞳
「実際そうでしょ? 逆の立場で考えてみて下さいよ」

女神
「逆? 異世界側で?」

雲雀瞳
「そうです。王様が召喚するってことは、それだけ魔王ってやつの支配に苦しんでいるってことでしょう? 召喚のためにきっと何かしらの準備もしたはずです。もしかしたらその準備のために財(ざい)を投げ打ったのかもしれない。知らんけど」

女神
「知らないんだ」

雲雀瞳
「話のコシを折らないで」

女神
「え、ごめんなさい」

雲雀瞳
「そんな手間暇(てまひま)をかけて準備したのに、召喚された救世主が、何の力も持っていない、やる気もない、ただの可憐(かれん)な美少女だったらどう思いますか?」

女神
「…………可憐な美少女?」

雲雀瞳
「何か文句あります?」

女神
「いえ、ごめんなさい。ないです。そうですね、確かにそれは、うん……」

雲雀瞳
「ショックですよね。落ち込みますよね。全然チャンスではないですよね? ほぼ詐欺(さぎ)ですよね?」

女神
「……はい」

雲雀瞳
「詐欺はいけませんよね?」

女神
「……はい」

雲雀瞳
「判っていただけましたね! では、はい! あの世に送って下さい」

女神
「いや、ですから……それはできなくて……」

雲雀瞳
「なら、いいですよ。現世を彷徨うってやつで」

女神
「それを許しちゃうと、私が上に怒られちゃいますので……」

雲雀瞳
「えー、じゃあどうするんですか?」

女神
「ですから……異世界に……」

雲雀瞳
「耳取れてるんですか? それとも脳みそ? 言いましたよね。詐欺はいけないって」

女神
「……それでも、私の仕事なので……」

雲雀瞳
「(ため息)女神様は、絶対に私を異世界に送らなきゃいけないんですね?」

女神
「申し訳ありませんが、はい……」

雲雀瞳
「仕方ない、か。じゃあ――何か下さい」

女神
「は?」

雲雀瞳
「だから、何か下さい」

女神
「いや、ですから、そのスゴイ能力とかアイテムとかは……」

雲雀瞳
「判ってます。だから、そういうのじゃなくていいから、何か下さい」

女神
「……良いんですか?」

雲雀瞳
「仕方ないでしょう。異世界行きは変えられないみたいだし……でも何ももらえないまま行くのはやっぱり癪(しゃく)なので、ガラクタでも何でもいいから下さい」

女神
「ありがとうございます。では、えっと……これで」

雲雀瞳
「……何ですかこれ?」

女神
「リップクリームです」

雲雀瞳
「それは判ってるんですけど……せめて、新品くれませんか?」

女神
「すみません。新品は今もってなくて」

雲雀瞳
「そうですか。じゃあ引っ込めて下さい。ていうか、新品出したとしても納得しませんけどね!」

女神
「ええ!?」

雲雀瞳
「ええ!? じゃない! 今から魔王への戦いに向かう人にリップクリームって。リップクリームって!」

女神
「でも、ガラクタでも何でもいいって……」

雲雀瞳
「あんなの建前(たてまえ)じゃボケ! 私がそこそこ納得のいくもん持ってこんかい!」

女神
「ひぃ、暴君(ぼうくん)!」

雲雀瞳
「うっせぇ! 異世界いかねぇぞ? いいのか? 悪霊になっちまうぞ?」

女神
「……判りました。うう、では、これを……」

雲雀瞳
「これは……?」

女神
「セクシーサンタのコスプレ衣装です」

雲雀瞳
「……何でもいいですけど、何でこんなもの持ってるんですか?」

女神
「私には一人息子がいるのですが」

雲雀瞳
「お母さんなんですか?」

女神
「はい、と言ってもバツ2のシングルでして――」

雲雀瞳
「へぇ、意外ですね」

女神
「離婚した夫はどちらもどうしようもないほどのクズだったんですけど……あ、この話聞きます?」

雲雀瞳
「いや、そこまで踏み込みたくないです。それで、息子さんがどうしたんですか?」

女神
「あ、はい。その息子の誕生日が12月25日。クリスマスの日でして……去年の彼の誕生日。息子の友人達を集めてクリスマスを兼ねたバースデーパーティを開いたんです」

雲雀瞳
「……まさか」

女神
「その時、盛り上がるかなと思って、コレを着たのですが」

雲雀瞳
「エグッ!」

女神
「それ以降何故か、息子がグレてしまいまして」

雲雀瞳
「あらら」

女神
「あんなに良い子だったのに。何故……」

雲雀瞳
「息子さんって何歳ですか?」

女神
「15です」

雲雀瞳
「キツッ!」

女神
「キツ?」

雲雀瞳
「判ってますよね? そもそも、これをここに出した時点で判ってますよね? 息子さんがグレた理由」

女神
「いえ、何が何だかサッパリです」

雲雀瞳
「ご愁傷様です」

女神
「痛み入ります」

雲雀瞳
「いえ、女神様じゃなくて、息子さんに」

女神
「えぇ……」

雲雀瞳
「さて、話を戻して。これは使い道のない荷物になるだけですし、はっきり言って邪魔なので、いりません」

女神
「使い道はないって……着ればいいじゃないですか」

雲雀瞳
「そんな勇気はない」

女神
「冬用に作られているから、意外と生地(きじ)はしっかりしてますし、防寒(ぼうかん)にもなりますよ?」

雲雀瞳
「そんな布面積少ない服を着てまで暖(だん)をとるくらいなら、私は凍(こご)え死ぬ」

女神
「そうですか。暖かいのになぁ……」

雲雀瞳
「もっとちゃんと価値のあるものを下さい。今出した2つって、思い切って捨てちゃってもいいか、くらいのものじゃないですか。そういうのじゃなくて、女神様が今も大事に持っているようなものを下さいよ。こちとら魔王と戦う勇者様なんだから」

女神
「もうほぼ盗賊(とうぞく)じゃないですか……」

雲雀瞳
「はい。ほぼ盗賊です」

女神
「(ため息)……でも確かに、ヒバリ様の言うことは、もっともですね……」
「これだけは渡したくありませんでしたが……仕方ありませんね…………どうぞ」

雲雀瞳
「ゲッへっへっへ、何だ、何かあるんじゃねぇか」
「……これは、勾玉(まがたま)?」

女神
「はい……」

雲雀瞳
「手作りっぽいですね……」

女神
「はい……身につけているだけで効果を発揮する、唯一無二の特別な勾玉です。現世の価値基準で語らせていただくと、1億積んでも私は譲(ゆず)らないでしょう」

雲雀瞳
「いちお……!? もしかしてこれ……持っているだけで魔法が使えたりするとか?」

女神
「違います」

雲雀瞳
「じゃあ、力が何倍にも――」

女神
「なりません」

雲雀瞳
「死者を復活さ――」

女神
「できません」

雲雀瞳
「……どういう効果があるんですか?」

女神
「この勾玉は……身につけているだけで、心が温かくなります」

雲雀瞳
「……んん? んー……そうですか?」

女神
「これは」

雲雀瞳
「これは?」

女神
「これは、息子が小学4年生の時に、体験学習で私のために作ってくれた勾玉なんです」

雲雀瞳
「……」

女神
「『お母さん、いつもありがとう』って」

雲雀瞳
「……」

女神
「『仕事で忙しくてあまり会えないけど、これをボクだと思って持っていて欲しい』って」

雲雀瞳
「……」

女神
「『いつも一緒にいるから』って!」

雲雀瞳
「……」

女神
「だから、これを身につけていると、あの子がいつも応援してくれている気がして、心が温かくなるんです……」

雲雀瞳
「……メガさん」

女神
「メガさん?」

雲雀瞳
「女神様の略です」

女神
「ああ、なるほど……」

雲雀瞳
「メガさんね、私が言ってる価値があるっていうのは、そういう方面のアレじゃないんですよ」

女神
「えぇ……」

雲雀瞳
「何で引いてるんですか? ……え、判らないですか?」

女神
「何が何だかサッパリです」

雲雀瞳
「……ご愁傷様です」

女神
「息子にですか?」

雲雀瞳
「いえ、今回はメガさんにです」

女神
「あ、どうも、痛み入ります」

雲雀瞳
「……とにかく、これも結構です」

女神
「でも、これより上のものは……」

雲雀瞳
「……そうだメガさん、上の人に連絡を取ることできませんか?」

女神
「上司ですか? 一応とれますけど……」

雲雀瞳
「じゃあ、今のこの状況を伝えてもらえませんか? なんかこれ以上ふたりで話していてもらちがあかない気がするので」

女神
「……それも、そうですね。少々お待ち下さい。―――もしもし、はい。お疲れ様です。女神の岩田です」

雲雀瞳
「岩田なんだ……」

女神
「実は――」

  

女神
「お待たせしました、ヒバリ様。そして、おめでとうございます」

雲雀瞳
「おめでとう?」

女神
「上司に確認をしたところ、特別措置(とくべつそち)が認められ、ヒバリ様が現在心の底から望んでいるものをひとつプレゼントすることとなりました!」

雲雀瞳
「え、本当ですか!? 確認してみるものですね!」

女神
「ですよね! では、ヒバリ様」

雲雀瞳
「はい」

女神
「――――さようなら。お元気で」

  

雲雀瞳
 その言葉を合図に、足下からおびただしい量の黒い泥(どろ)が噴出(ふんしゅつ)し、私の身体はそれに飲み込まれ、一瞬で意識を失った。
 意識を失って、どれだけの時間が経ったのかは判らない。
 1秒だったのかもしれないし、数日かかったのかもしれない。
 やがて意識が戻った私は、自然と目を開ける。
 視界に入ってきたのは、病室の白い天井と、私が寝ているベッドのかたわらに座った、不安そうな母の顔。
 母はこちらと目が合うと、その顔をぐしゃぐしゃにして、笑いながら泣いた。
 
 死んだと聞かされた時。
 メガさんのところでは1度も涙なんて出なかったのに。
 その母のぐしゃぐしゃな顔を目にした瞬間、私の頬(ほお)を熱いものが伝って、喉(のど)の奥から、出したこともない嗚咽(おえつ)が漏れ出た。
 きっと、私も母と同じく、ぐしゃぐしゃの顔をしているのだろう。
 
 本当に、確認してみるものだ。