《あらすじ》

 恐るべき魔神――冥王グラボロス。
 その長きに渡る封印がついに解かれた。
            〈作・璃月なお&フミクラ〉
  
  
  
    ☨☪☨☪☨☪☨☪☨☪

《協力者》

【 おーし 】さん
【 レイク 】さん

  

    ☨☪☨☪☨☪☨☪☨☪


  

《登場人物紹介》

おはぎ(おはぎ)
冥王グラボロスの封印を解いた人間。性別未定。

冥王グラボロス(めいおう・ぐらぼろす)
封印されていた魔神。性別未定。

  
    ☨☪☨☪☨☪☨☪☨☪
  
  
  

《 本文 》
  

冥王グラボロス
「我(われ)を――」
「この冥王(めいおう)グラボロスの封印を解いた愚者(ぐしゃ)は……貴様か?」

おはぎ
「……はい、私が封印を解いた賢者(けんじゃ)――おはぎです」

冥王グラボロス
「判っているのだろうな? 封印石(ふういんせき)の封印を解き、封じられている魔神を解放するという意味を」

おはぎ
「ある程度は」

冥王グラボロス
「それはつまり、調伏(ちょうぶく)の儀(ぎ)――解放者と封じられている魔神との一騎打ちが始まるということだ。我と貴様の一騎打ちがな」

おはぎ
「そうですね」

冥王グラボロス
「貴様が勝てば、我は貴様の使い魔となるが……我が勝った時、つまり貴様を殺した暁(あかつき)には、自由になった我が、世界に解き放たれることとなる」

おはぎ
「ですね」

冥王グラボロス
「……判っているのか?」

おはぎ
「はい」

冥王グラボロス
「真(まこと)か?」

おはぎ
「真ですよ」

冥王グラボロス
「……もう一度確認するが、今から貴様は我と戦うことになるのだが……真に判っているのか?」

おはぎ
「判ってますよ。バカにしてるんですか?」

冥王グラボロス
「いや、そういうわけないではないが……ではなにゆえ、このような場で封印を解いたのだ?」

おはぎ
「このような場?」

冥王グラボロス
「ここ……風呂場だよな?」

おはぎ
「そうですね」

冥王グラボロス
「家の」

おはぎ
「はい」

冥王グラボロス
「だよな」

おはぎ
「はい」

冥王グラボロス
「……なにゆえ、風呂場で我の封印を解いた?」

おはぎ
「それには深い理由がありまして」

冥王グラボロス
「何だそれは」

おはぎ
「まず、冥王さんが封じられていた石を手に入れた経緯(いきさつ)なんですが」

冥王グラボロス
「我を封印したのはあの【千樹観音(せんじゅかんのん)】ことイーリー・チシルだ。あの大魔導師(だいまどうし)が我を……冥王グラボロスを封じた封印石をぞんざいに扱うはずがない。きっと何重(なんじゅう)にも封印魔法をかけ、厳しく管理していたことであろう」
「奪ったか、それとも譲(ゆず)り受けたか。どちらにしても並大抵(なみたいてい)のことではない――そう考えるとなるほど。ぼんやりした凡骨(ぼんこつ)だと思っていたが……貴様、なかなかの曲者(くせもの)と見たぞ」

おはぎ
「いや、石はリサイクルショップで手に入れたんですけど」

冥王グラボロス
「……リサイクルショップ?」

おはぎ
「テレビで玄関に金色のものを置くと運気が上がると聞いたので、リサイクルショップで金の悪魔像を買ったんです」

冥王グラボロス
「逆に運気悪くならないか?」

おはぎ
「そしたら、石がおまけでついてきて」

冥王グラボロス
「おまけ? 何故そのような……」

おはぎ
「お店の人から聞いたのは、一週間前に有名な魔導師が大量の封印石をその店に売りにきたそうです。確か名前は……さっき冥王さんが言っていた――」

冥王グラボロス
「イーリー・チシルか?」

おはぎ
「はい。その人です。でも、最近封印石は全く売れないから、お店は買い取りを拒否したらしいんですね。するとその魔導師さんは床に大の字で寝そべって、買い取ってくれるまでここを動かないって駄々(だだ)をこねたそうなんです」

冥王グラボロス
「イーリー……」

おはぎ
「このままでは他のお客さんの迷惑になるということで、仕方なくお店は石ひとつにつき、1マダルで買い取ったんですって」

冥王グラボロス
「ちょっと待て……1マダル? イーリーはそれで納得したのか?」

おはぎ
「したんじゃないですか。買い取れてますし」

冥王グラボロス
「イーリー……」

おはぎ
「お店は石を買い取ったものの、先ほど言ったように近頃は封印石の需要(じゅよう)がないですから。どうしようか迷ったあげく、お店で200マダル以上のお買い物をした希望者に、ランダムで一つプレゼントすることにしたんですって」

冥王グラボロス
「200マダルって……我はちょっと高めのタバコか……」

おはぎ
「最近は200マダルじゃタバコも買えませんよ」

冥王グラボロス
「……それにしても貴様、よく希望したな」

おはぎ
「それは勿論(もちろん)。もらえるもんはもらっておきます」

冥王グラボロス
「……」

おはぎ
「それで、もらった後なんですけど。石には『めーおー入り』と雑(ざつ)に彫(ほ)られていたので、中に冥王さんが入っていることは事前に判っていたんですね」

冥王グラボロス
「想像以上にぞんざいな扱いだった……」

おはぎ
「せっかくもらったんだし、封印を解くぞーって思っていたんですが」

冥王グラボロス
「だんだん心がしんどくなってきた」

おはぎ
「でも、冥王って、冥界の王って意味ですよね?」

冥王グラボロス
「……? ああ、そうだ。それがどうした?」

おはぎ
「イメージなので怒らないでくださいね。あくまで私個人のイメージなので」

冥王グラボロス
「回りくどいな。怒らぬゆえ、話してみよ」

おはぎ
「なんか、冥界って――臭そうじゃないですか」

冥王グラボロス
「…………は?」

おはぎ
「名前の響き的に暗くてジメジメしてそうというか、ニオイがキツそうというか……ほぼ下水道?」

冥王グラボロス
「違う!」

おはぎ
「判ってますよ違うのは。ただ、イメージの話ですから」

冥王グラボロス
「イメージだとしても貴様、下水道って貴様……」

おはぎ
「え、下水道バカにしてるんですか?」

冥王グラボロス
「いや、バカにはしていないが……」

おはぎ
「いいえ。客観的に聞いてその言葉は完全に下水道を下に見てましたよ。下水道なだけに」

冥王グラボロス
「我は、別にそんなつもりは」

おはぎ
「そんなつもりがなかったとしても、冥王さんの言葉で下水道くんは傷ついたはずです。言葉は時に何よりも恐ろしい凶器になるんです。冥王さんはその凶器で傷つけたんです。――謝ってください」

冥王グラボロス
「謝る……だと? 我が、下水道にか?」

おはぎ
「当然です。それとも、冥王さんは自分の過(あやま)ちを認めることのできない器(うつわ)の小さな魔神なんですか?」

冥王グラボロス
「そんなことはない! 我の器(うつわ)は魔神イチだ!」

おはぎ
「では、謝罪を」

冥王グラボロス
「……ここでか?」

おはぎ
「はい。排水溝に向かって、その奥にいる下水道くんに対して、心からの謝罪を」

冥王グラボロス
「(咳払い)下水道よ。我は無意識に貴様を侮辱(ぶじょく)する発言をしてしまったらしい……すまない」

おはぎ
「『すまない』じゃないでしょ。『申し訳ございませんでした』もしくは『ごめんなさい』でしょ」

冥王グラボロス
「あ、ああ。――申し訳ございませんでした」

おはぎ
「もっと頭を下げて」

冥王グラボロス
「――申し訳ございませんでした」

おはぎ
「声が小さい」

冥王グラボロス
「――申し訳ございませんでした!」

おはぎ
「……んー、多少偉(えら)そうな感じは抜けてませんが……いいでしょう。許してあげましょう」

冥王グラボロス
「なにかおかしい気がする」

おはぎ
「気のせいですよ。というわけで判ってくれましたか?」

冥王グラボロス
「……何がだ?」

おはぎ
「冥王さんの封印をバスルームで解いた理由」

冥王グラボロス
「ニオイがキツそうだから……か?」

おはぎ
「そうです。さすがに部屋の中では、ね?」

冥王グラボロス
「……というか、家の中で魔神の封印解くのって変ではないか?」

おはぎ
「え?」

冥王グラボロス
「封印されている魔神の大きさにもよるとは思うが、いや、それでなくとも戦うわけであるし……魔神の封印を解く場合、屋外(おくがい)の広い場でやるのが一般的だと思うのだが」

おはぎ
「そんな……外で悪臭(あくしゅう)をまき散らせって言うんですか? そんな人の迷惑になること……冥王さんって常識ない魔神?」

冥王グラボロス
「……我がおかしいのか?」

おはぎ
「間違いなく」

冥王グラボロス
「そうか……すまなかった」

おはぎ
「言いましたよね? 謝るときは」

冥王グラボロス
「申し訳ございませんでした!」

おはぎ
「いいでしょう。許してあげましょう」

冥王グラボロス
「なにかおかしい気がする」

おはぎ
「気のせいですよ。それよりも冥王さんに朗報(ろうほう)です。冥王さんは、世間(せけん)が思っているより臭くありませんでした。良かったですね」

冥王グラボロス
「……冥王が臭いというのは世間一般の総意(そうい)なのか?」

おはぎ
「そうですよ?」

冥王グラボロス
「先ほど、私個人のイメージと言ってなかったか?」

おはぎ
「え、言ってませんよ?」

冥王グラボロス
「……そうだったか?」

おはぎ
「ええ」

冥王グラボロス
「真か?」

おはぎ
「ええ、真ですよ」

冥王グラボロス
「……そうなのか」

おはぎ
「ええ」

冥王グラボロス
「そうか。それにしても、世間の総意か……だから、誰も名乗ってなかったのか……」

おはぎ
「名乗る?」

冥王グラボロス
「いや、なんでもない」

おはぎ
「なんでもないことないでしょう。なんですか、名乗るって」

冥王グラボロス
「……」

おはぎ
「なんですか?」

冥王グラボロス
「……この冥王という称号(しょうごう)は、自分で付けたのだが」

おはぎ
「自分で?」

冥王グラボロス
「ああ。1797年から『機龍(きりゅう)アルビス』や『閻魔(えんま)おとろし』など、魔神達はそれぞれ名前の上に自ら称号をつけることとなったのだが――これは早い者勝ちと言うか、付けた者勝ちと言うか。他の魔神とは被ってはいけないという決まりがあってだな――」

おはぎ
「……」

冥王グラボロス
「我はどのような称号にしようかと考えたところ……『王』や『神』は付けたいな、と」

おはぎ
「ぶはっ……!」

冥王グラボロス
「笑った?」

おはぎ
「いや、いやいやいや、全然。全然笑ってませんよ」

冥王グラボロス
「そうか……なら、いいけど。それで、『王』や『神』がつく言葉を辞書で調べたのだが――」

おはぎ
「――っ!」

冥王グラボロス
「……笑いをこらえてないか?」

おはぎ
「っ、そんなわけないじゃないですか! さぁ続きを」

冥王グラボロス
「あ、ああ。……だが、『神』がつく言葉は軒並(のきな)み名乗られていて、『王』がつく言葉もさほど残っていなくて……そんな中、冥王が使われていないことに気が付いたのだ」

おはぎ
「それに気付いたとき、メチャクチャ嬉しかったんじゃないですか?」

冥王グラボロス
「ああ……確か、飛び跳(は)ねて喜んだな」

おはぎ
「――っ!」

冥王グラボロス
「どうした?」

おはぎ
「いや、なんでもないです。続けて」

冥王グラボロス
「そうか。……冥王が使われてないことに気付いた我は、その日のうちに魔神役場(まじんやくば)に書類を提出した。認可はそれから1時間後に下りた。その時は、最高の称号を手に入れたと思っていたのだが……お祝いにエクレール・オ・ショコラを食べたのだが……まさか、臭そうと思われていたとは……」

おはぎ
「まぁまぁ、気を落とさないでください。大丈夫。実際会えば冥王さんが臭くないことにみんな気付きますよ」

冥王グラボロス
「……そうだろうか?」

おはぎ
「間違いなく」

冥王グラボロス
「そうか……良かった。感謝する」

おはぎ
「どういたしまして。――ということは、冥王さんって、本当に冥王ってわけじゃないんですね」

冥王グラボロス
「ああ。これはあくまで称号だ。我だけではなく他の魔神達、例えば、海神(かいじん)クラーケンも本当に海の神というわけではないし、雷王(らいおう)ロックも本当に雷(かみなり)の王というわけではない」

おはぎ
「……なんか、夢のない話ですね」

冥王グラボロス
「すまない」

おはぎ
「じゃなくて?」

冥王グラボロス
「申し訳ございませんでした!」

おはぎ
「いいでしょう。許してあげましょう」

冥王グラボロス
「なにかおかしい気がする」

おはぎ
「気のせいですよ」

冥王グラボロス
「そうか……なら、いいけど……。それよりも、調伏(ちょうぶく)の儀――一騎打ちを始めるとしよう」

おはぎ
「あ、そっか」

冥王グラボロス
「時間は無制限。どちらかが死亡(しぼう)。もしくは降伏(こうふく)。それ以外の決着はない」

おはぎ
「死亡って……」

冥王グラボロス
「殺す、ということだ」

おはぎ
「そうは言いますけど。これって、私にとっては冥王さんを使い魔にする戦いなんですよね? 殺しちゃったら使い魔に出来なくないですか?」

冥王グラボロス
「問題ない。調伏の儀においての死は、本物の死ではない。決着が着いた瞬間に、双方の肉体は儀式の前の状態に戻ることとなっている」

おはぎ
「あ、じゃあ、どっちも本当に死ぬことはないんですね」

冥王グラボロス
「だが、儀式の最中に受けるダメージは本物で、その間の死も本物だ。結果的に死なないからといって甘く見ていると、文字通り痛い目にあうぞ。……降伏するなら今のうちだ」

おはぎ
「心配してくれるんですか?」

冥王グラボロス
「無論だ。我は冥王グラボロス。手加減は出来ぬゆえ」

おはぎ
「怖いこと言うなぁ……でも、忠告ありがとうございます。じゃあ私からも、ひとつ忠告いいですか」

冥王グラボロス
「何だ?」

おはぎ
「ついうっかり――自滅しないように気をつけてくださいね」

  
    ☨
  

おはぎ
「我、勝者なり」

冥王グラボロス
「まさか、こんなことが……!」

おはぎ
「実は私、破門(はもん)されたものの、あの大魔女バニラ・アンブローシア様の元弟子なんですよ。だからそこそこ魔法は使えたりするのでした……油断しましたね。キラリン☆」

冥王グラボロス
「いや、魔法って言うか……あれ、魔法だったのか?」

おはぎ
「というわけで、冥王さんは今日から私の使い魔です」

冥王グラボロス
「……そうだな」

おはぎ
「意外とすんなり受け入れてくれるんですね」

冥王グラボロス
「調伏(ちょうぶく)の儀によって破れた者が、勝者の軍門(ぐんもん)に下るのは至極当然の規則(きそく)。その規則に逆らうなど、三流の魔神のすることだ」

おはぎ
「フゥー! 格好いい! ……ところで、使い魔って基本的にどんな感じなんですか?」

冥王グラボロス
「どんな感じ?」

おはぎ
「いや、今まで使い魔がいた経験がないので、どういう風に扱えばいいのか判らなくて」

冥王グラボロス
「そういうことか。……使い魔は基本的に、普段はこの世界とは別の世界にいる」

おはぎ
「別の世界?」

冥王グラボロス
「判りやすく言うと魔神界だ。そこで生活し、マスターに呼び出された時には、一定量の魔力と引き替えにこの世界に現界(げんかい)し、手助けを行う」

おはぎ
「なんか、24時間営業の便利屋さんみたいな感じなんですね」

冥王グラボロス
「便利屋……そうだな。そうだ。確かに便利屋みたいなものだ」

おはぎ
「呼ぶときって、どんな風に呼べばいいんですか?」

冥王グラボロス
「そうだな……」
「『魂の集う冥界の王よ』」
「『我の声に応えたまえ!』」
「『光差す世界に漆黒と混沌を与えたまえ!!』」
「『冥王グラボロス――召喚!』」
「――これでどうだろうか」

おはぎ
「長いな」

冥王グラボロス
「……そうか。では、前半の詠唱(えいしょう)はやめ『冥王グラボロス召喚!』だけでいこう」

おはぎ
「いや、それでも長いです」

冥王グラボロス
「そ、そうか……では、仕方ない。『来い、冥王グラボロス!』これでどうだろうか」

おはぎ
「それでもー、ちょっと長いかなー」

冥王グラボロス
「『来い』だぞ? 2文字だぞ? それすらも長いというのか?」

おはぎ
「というか、長いのは冥王グラボロスの部分ですよねー、ちょっと略してもいいですか?」

冥王グラボロス
「……言われてみれば確かに長いかもしれないな。……良かろう。貴様は我がマスターだ。好きな呼び名で呼ぶが良い」

おはぎ
「ありがとうございます。じゃあ……『下道(したみち)さん』で」

冥王グラボロス
「したみち――?」

おはぎ
「はい。下道さんです。下水道の下(げ)に下水道の道(どう)で、下道さんです」

冥王グラボロス
「名前にかすってすらいないのだが……というか貴様これ、下水道から引っ張られているだろう」

おはぎ
「そうですよ。異論(いろん)ありますか?」

冥王グラボロス
「いや、それはあるけど……マスターは貴様だ。受け入れよう」

おはぎ
「じゃあ、呼ぶときは『下道さん、おこしやす』って言いますね」

冥王グラボロス
「おこしやす?」

おはぎ
「何か異論でも?」

冥王グラボロス
「…………いや、いいけど」

おはぎ
「これからよろしく、下道さん」

冥王グラボロス
「……承知した、我がマスターよ。危機に陥ったとき、滅(めっ)すべき敵対者が目の前に現れたとき、我を呼ぶが良い」

おはぎ
「はいはーい」

冥王グラボロス
「……我のマスター、軽すぎないか?」

  
    ☨
  

おはぎ
「下道(したみち)さん、おこしやす」

冥王グラボロス
「2日ぶりだなマスター。敵はどこだ。この冥王グラボロスが滅(めっ)してやろう」

おはぎ
「というか、ちょっと夕飯の材料買いに行ってくれませんか?」

冥王グラボロス
「……夕飯?」

おはぎ
「そう。仕事の帰りに買ってくる予定だったんだけど、忘れちゃって」

冥王グラボロス
「いや、それくらい自分で行け。魔神はスーパーに行かない」

おはぎ
「あ、下道さんコンビニ派? でもコンビニで食材買うと結構高いんですよ?」

冥王グラボロス
「そういうことじゃない。使い魔とは基本的に戦いのために呼び出すものだ。使いっぱしりに使うな」

おはぎ
「使い魔なのに?」

冥王グラボロス
「使い魔の『使い』はそういう意味の使いではない」

おはぎ
「えー、ケチんぼ」

冥王グラボロス
「いや、ケチとかじゃない」

おはぎ
「冥王はケチんぼってブログに書いてもいいですか?」

冥王グラボロス
「……なんだ、ブログって?」

おはぎ
「ブログ知らない? あ、そうか。ブログって下道さんが封印されている間に現れた文化なんですね……。えっと、簡単に言うと、世界中の人が見られる日記です」

冥王グラボロス
「世界中? そんなことができるのか?」

おはぎ
「今はそういう時代なんです。いいですか? 書き込んでも」

冥王グラボロス
「…………やめろ」

おはぎ
「じゃあ、買い物に?」

冥王グラボロス
「判った。行こう。何を買ってくればいい?」

おはぎ
「んー、何となくしか決めてないし、値段も見なきゃいけないんで……一緒に行きましょうか」

冥王グラボロス
「マスターも行くのか? ……では我は帰ってもいいだろうか?」

おはぎ
「駄目です。荷物持ちして下さいよ。私の使い魔なんだから」

冥王グラボロス
「……荷物持ちって。我、冥王なんだけど」

おはぎ
「あ、今荷物持ちをディスりましたね。全国の荷物持ちに謝って下さい」

冥王グラボロス
「なんだ、全国の荷物持ちって。そして別にディスったわけでは……」

おはぎ
「下道さんがそう思っていても、その発言に荷物持ち達は深く傷ついたはずです。それとも下道さんは、悪意がなければどんな悪いことをしてもいいと思っている最低の魔神なんですか?」

冥王グラボロス
「……どこに向かって謝ればいい?」

おはぎ
「えっと、あっち?」

冥王グラボロス
「――荷物持ちの諸君。我は諸君らを心ない言葉で傷つけてしまったようだ……すまない」

おはぎ
「じゃなくて?」

冥王グラボロス
「申し訳ございませんでした!」

おはぎ
「いいでしょう。許してあげましょう」

冥王グラボロス
「なにかおかしい気がする」

おはぎ
「(微笑)……気のせいですよ」