《あらすじ》

 ヒーローに敗北したヴィランは傷を癒し、リベンジを誓う。

〈作・フミクラ〉

 

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《協力》 チャット生成AI & 画像生成AI

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《登場人物紹介》

グラスハンマー

破壊と力を求める野心的なヴィラン。
超人的な筋力を持っており、一撃で建造物を粉砕したり、鋼鉄をへし折ったりするぞ! 強者を求め、それに力で勝利することを至上の喜びとする戦闘狂だ!
表の顔はキャニオニングのガイドさんだ!
男性。

サンバースト

様々な格闘術を習得し、優れた戦闘技術を持ったヒーロー。
身体能力を高める特製の戦闘用スーツを装備して戦う彼女は、数日前にエンバーバーグに配置されたガーディアンヒーローの1人だ! まっすぐな正義の心を持っているぞ!
女性。

ナイトメディカ

闇の力を用いた特殊な医療術を用いて仲間を救う、医者のヴィラン。
かつては優れた医師であり、人々の命を救うことに情熱をかけていたが、ある事件によって闇の力に触れ、その力に魅了されてしまったらしいぞ!
性別不詳。


オニオン

サンバーストが所属するヒーロー兼タレント事務所【アーク】の3代目社長。
強力なヒーロー能力を持っていると噂されるが、その戦いを見た者は誰もいないらしいぞ!
ナイトメディカからは『銀ピカ』と呼ばれているんだ。この話には出てこないぞ!
男性。

 

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《 本文 》

 

――アメリカ コロラド州 エンバーバーグ 某診療所
――医療用ベッドに横たわるグラスハンマーと、その傍らに立つナイトメディカ。

グラスハンマー
「すまねぇな。おかげで助かった」

ナイトメディカ
「まったくです。医者が僕じゃなかったら、君は今頃、墓の下ですよ」

グラスハンマー
「吹くんじゃねぇよ。そこまで大袈裟な話じゃないだろう」

ナイトメディカ
「身体中傷だらけのアザだらけ。脾臓(ひぞう)と37本の骨を派手に破壊され、うちにたどり着くと同時に意識を失ったというのに……よくもまあそんな強がりが言えますね」

グラスハンマー
「おいおいメディカよ。人間にはいくつの骨があると思ってんだ?」

ナイトメディカ
「いくつですか?」

グラスハンマー
「知らないのか?」

ナイトメディカ
「はい。いくつですか?」

グラスハンマー
「……2万本ぐらい?」

ナイトメディカ
「さすがグラスハンマーさんですね。僕は未熟者なのでその100分の1ほどしかないんですよ。どうやってそんなに増やしたんですか? ドラッグ? ドラッグかな?」

グラスハンマー
「っ! 知ってんじゃねぇか!」

ナイトメディカ
「と、茶番はここまでにして」

グラスハンマー
「身勝手の極みだな」

ナイトメディカ
「ヴィランですからね」

グラスハンマー
「何も言えねえ」

ナイトメディカ
「それで、いったい何があって、こんな怪我を?」

――間

グラスハンマー
「…………ようやく、見つけたのさ」

ナイトメディカ
「何をですか?」

グラスハンマー
「敵を」

ナイトメディカ
「敵?」

グラスハンマー
「俺が全力を出しても壊れない。いや……逆に俺のほうが壊されるかもしれない。拳を交わすたびに生きていることを実感できる。そんな――最強の敵をな」

ナイトメディカ
「……」

グラスハンマー
「今まで俺の前に立ったヒーローを名乗る三流どもとは明らかに格の違う相手――本物のヒーローってやつと、ついに出会えたのさ」

ナイトメディカ
「……つまり君がボロボロだったのは、その本物のヒーローとやらにやられたってことですか?」

グラスハンマー
「ああ。だが次はそうはいかねえ」

ナイトメディカ
「次って……再戦する気なんですか?」

グラスハンマー
「当然だ。リベンジしない理由がねえ。そうだろ?」

ナイトメディカ
「……あきれた」

グラスハンマー
「ア?」

ナイトメディカ
「僕の治療をもってしても全治1週間はかかる重症を負ったというのに、そんな風に目を輝かせて……これだから戦闘狂は」

グラスハンマー
「悪いな。俺は馬鹿だからよ、こういう風にしか生きられねえのさ」

ナイトメディカ
「こういう風にしか生きられない……ね」

グラスハンマー
「ああ。我ながら、不器用な生き方だと思うけどな」

ナイトメディカ
「……」

グラスハンマー
「愚かな男だと笑ってやってくれ」

ナイトメディカ
「……さっきから気になっていたんですけど、グラスハンマーさ」

グラスハンマー
「なんだ」

ナイトメディカ
「なんか……カッコつけてますよね?」

グラスハンマー
「……え?」

ナイトメディカ
「いや、ですから、カッコつけてますよね? 心当たり、ありますよね?」

グラスハンマー
「……」

ナイトメディカ
「ありますよね?」

グラスハンマー
「……あるけど」

ナイトメディカ
「やっぱり」

グラスハンマー
「……」

ナイトメディカ
「最初の方から、何かこわいなー、空気作ってる気がするなー、自分に酔っている感じがするなー、こわいなこわいなーと怯えていたら、『不器用』と『生き方』のキラーコンボを発動するんですもん。危うく友達辞めるところでしたよ」

グラスハンマー
「そこまで? え、そんな不快だったのか?」

ナイトメディカ
「不快っていうか、何か恥ずかしかったですよね。スイッチ入れてるよこの人。って感じ」

グラスハンマー
「……」

ナイトメディカ
「僕知ってますよー。普段の君知ってますよー。バレてないと思ってますかー? 無理ですよー。バレバレですよー。っていうか負けたくせにカッコつけてるのマジで意味不明ですよー。でも気持ちよさそうだしエサを投入してあげますよー。『これだから戦闘狂は』……うはぁっ、食いついてきたー。母さん、今日は大漁ですよー!」

グラスハンマー
「性根が腐ってやがる……!」

ナイトメディカ
「ヴィランですからね」

グラスハンマー
「何も言えねえ」

ナイトメディカ
「ま。そもそもヴィランはカッコつけてなんぼだから、別にいいんですけど」

グラスハンマー
「『別にいい』レベルのイジリじゃなかったと思うんだが」

ナイトメディカ
「そんなことは――」

グラスハンマー
「どうした?」

ナイトメディカ
「侵入者です」

 

――診療所の壁が破壊され、サンバーストが病室に足を踏み入れる。

 

サンバースト
「見つけたわよ、グラスハンマー!」

グラスハンマー
「……は?」

サンバースト
「言ったでしょ。私――サンバーストがこの町に来たからには、あなたの悪行(あくぎょう)もこれまでだって!」

グラスハンマー
「お前、マジか……」

サンバースト
「フフ、逃げきれると思った?」

ナイトメディカ
「……これはひどい」

サンバースト
「ん? どちらさま?」

ナイトメディカ
「……ナイトメディカ。医者のヴィランです」

サンバースト
「ヴィラン!? まさか、私が来ることを予測して待ち伏せていたってこと!?」

グラスハンマー
「んなわけねぇだろ」

サンバースト
「いいわ。私はサンバースト。エンバーバーグのガーディアンヒーロー! 相手が2人がかりだろうと負けるつもりはありません! さぁ、まとめてかかってきなさい!」

ナイトメディカ
「タイム」

サンバースト
「え?」

ナイトメディカ
「おい、筋肉おじさん」

サンバースト
「何よタイムって」

グラスハンマー
「なんだ、死神博士」

サンバースト
「タイムって何よ」

ナイトメディカ
「あの小娘が、君が待ち望んでいた敵ですか?」

サンバースト
「無視してんじゃないわよ。タイムって」

グラスハンマー
「あー……そうだ」

サンバースト
「そうだ、じゃなくて、あなたも聞きなさいよグラスハンマー!」

ナイトメディカ
「ドアがあるにも関わらず、壁を破った蛮族(ばんぞく)が、君の相手ですか?」

サンバースト
「バンゾク?」

グラスハンマー
「それは俺も予想外というか……」

サンバースト
「この程度で予想外? 考えが甘いんじゃないの?」

ナイトメディカ
「世間知らずにもほどがあるあの阿呆(あほう)が、本物のヒーローとやらなのですか?」

サンバースト
「アホですって……!?」

グラスハンマー
「後で厳しく注意しておきます」

サンバースト
「何なのよあなた。さっきから黙って聞いていれば偉そうに私のことを小娘だのアホだの……アホと言ったほうがアホなんだからね!」

グラスハンマー
「サンバースト」

サンバースト
「何よ」

グラスハンマー
「一生のお願いだ。少し黙っていてくれ」

サンバースト
「な……!?」

ナイトメディカ
「僕のも使うので二生分のお願いです。お口にチャックして巣にお帰りくださいベイビー」

サンバースト
「――ッ! 何で私が敵であるあなたの言うこと聞かなきゃいけないのよ! もう我慢できないわ! 勝負よ!」

ナイトメディカ
「本気で言ってます?」

サンバースト
「本気に決まってるじゃない!」

グラスハンマー
「あのな、サンバースト。俺はお前にボコられたせいで安静にしなきゃいけない。ナイトメディカはそもそも非戦闘系ヴィランだ。だから――」

サンバースト
「だから何? どんなヴィランが相手でも差別することなくブチ倒し捕まえる。それがヒーローってものでしょ?」

グラスハンマー
「差別とかじゃなく、分別(ふんべつ)をわきまえろって言ってんだよ。不意打ちで敵のアジトに乗り込むって……お前よ」

サンバースト
「何か文句あんの?」

グラスハンマー
「……あ? ……もしかしてお前」

サンバースト
「何よ?」

グラスハンマー
「……ヒーローになって何年目だ?」

サンバースト
「8日目だけど?」

グラスハンマー
「8日目……そうか……だからか」

ナイトメディカ
「おい、こけゴリラ」

グラスハンマー
「なんだ、コンクリートもぐら」

ナイトメディカ
「いくらお気に入りの相手だからといって『だからか』で済ませていい問題ではないはずですよ」

グラスハンマー
「そうは言うけどよ……」

ナイトメディカ
「ヒーロー協会に報告すべき――いや、さっきガーディアンヒーローがどうこう言ってたな。ということは事務所は【アーク】か。あの銀ピカのとこだったら協会通さず、直で報告するのがいいか」

サンバースト
「うちの事務所に報告? なんでヴィランのあなたが」

グラスハンマー
「いいか、サンバースト。よく聞けよ。……不意打ちで敵のアジトを襲撃する行為は――マナー違反だ」

サンバースト
「マナー違反……? そんなマナー、聞いたことないわよ?」

ナイトメディカ
「規則として定められているわけではなく、暗黙の了解というやつです」

サンバースト
「はァ? なにそれ?」

ナイトメディカ
「なにそれ、ときましたか。少し考えれば鳥でも判ると思うのですがね」

サンバースト
「あなたずっとムカつくわね」

ナイトメディカ
「ヴィランですからね」

サンバースト
「……それズルくない?」

グラスハンマー
「ヒーローはただの正義の味方じゃない。市民の希望で平和の象徴だ。その自覚はあるか?」

サンバースト
「え、ええ。当然じゃない。ヒーローになると決めたときから、そうなる覚悟は――」

グラスハンマー
「なら、何故今お前はここにいる?」

サンバースト
「……え? だから、平和を脅(おびや)かすあなたを捕まえるために――」

グラスハンマー
「お前が憧れる、なりたいと思っていたヒーローは、満身創痍(まんしんそうい)の相手を襲撃する、そんな卑怯者なのか?」

サンバースト
「――っ!」

グラスハンマー
「もしこのやり方で俺を捕まえて監獄(かんごく)に送ったとしよう。それでその後、市民連中にどう報告するつもりだ?」

サンバースト
「どうって……」

グラスハンマー
「アジトに乗り込んで、すでに虫の息だった治療中のグラスハンマーをさらにボコボコにして捕まえました。そう言うのか?」

サンバースト
「そんなこと」

グラスハンマー
「言えるわけないよな。そんな、ヒーローの風上(かざかみ)にも置けないようなことをやった、なんて」

ナイトメディカ
「しかも君は、この診療所の所有者が僕だということも知らなかった。グラスハンマーがいるという理由だけで、見ず知らずの医療施設に侵入し、さらに破壊行為まで行った。これがヒーローのやることですか?」

サンバースト
「うっ……」

ナイトメディカ
「ちなみに、不意打ちで敵のアジトを襲撃する行為は、ヒーローだけでなく、僕らヴィラン側も禁止としています。それはヴィランではなくゲスな小悪党のやることですから」

サンバースト
「ゲスな小悪党……」

グラスハンマー
「判ったか? 自分がどんな失態を犯したのか」

サンバースト
「……」

グラスハンマー
「だがまぁ、俺もこんなことで、最大の敵となりうる相手を失いたくない。だから、これに懲(こ)りたら――」

サンバースト
「……つまり」

グラスハンマー
「ん?」

サンバースト
「つまり、私のこの失敗をなかったことにするためには、あなたたちの口を封じなければならないってことね!」

グラスハンマー
「なんでそうなる!?」

サンバースト
「問答無用! 2人まとめてここでブチ消す。まずはあなたからよ! ――サンライトバースト!」

グラスハンマー
「メディカ!」

ナイトメディカ
「ダークバリア」

――ナイトメディカとサンバーストの間に透明な障壁が現れサンバーストの攻撃を防ぐ。

サンバースト
「なっ……! 防いだ!? 私のサンライトバーストをこんなに簡単に……!? あなた、非戦闘系ヴィランだって」

ナイトメディカ
「そうですよ。普段の僕は羊にも劣る戦闘力です。しかし、この場では――僕が作った僕のための、ダークエナジーが満ちたこの診療所の中では――これくらい、片手間(かたてま)でできます」

サンバースト
「なら、何度でも!」

ナイトメディカ
「何度打ち込もうと無駄です。それよりも落ち着いてください、サンバースト。それとも――タスミン・ダルトン。そう呼んだほうがいいですか?」

サンバースト
「――ッ!? どうして、私の名前を」

ナイトメディカ
「名前だけではありません。身長、体重、年齢、出身地に家族構成。現在通っている大学や、そこでスポーツ科学を専攻していること。11歳年上のお兄様の影響からヒーローを志(こころざ)したことなども知っていますよ」

サンバースト
「なんで……」

ナイトメディカ
「言いましたよね。僕は医者のヴィラン。皆様知ってのとおり、医者は――自らが住んでいる町の住民の個人情報を、一通り網羅(もうら)している!」

グラスハンマー
「いや、知らない。なにそれ怖い」

サンバースト
「確かに、お医者さんだったら私のことを知っていても何ら不思議じゃないわ……!」

グラスハンマー
「え、本気で言ってんのか? いや、言ってるな……こーわっ」

ナイトメディカ
「もし君がこのまま僕らとの戦いを続行するのであれば、僕は僕が知っている君の情報と、診療所への襲撃の経緯(けいい)を、各方面に拡散します。――片手間(かたてま)でね」

サンバースト
「くっ……!」

ナイトメディカ
「ですが、その突き出した拳を引き、今すぐこの場から立ち去るのであれば……この件には目をつぶり、襲撃のことも個人情報も、一切漏らさないと誓います」

サンバースト
「……ヴィランの言葉を信じろと?」

ナイトメディカ
「さぁ? 僕の言葉が信じられず、このまま戦い続けたいのであれば別にそれでも構いませんよ。この診療所内であれば僕は無敵ですし――1人のヒーローを社会的に殺せるわけですから」

サンバースト
「……もし、あなたの言葉が真実だったとして、あなたにとって1つも得がない提案をどうして?」

ナイトメディカ
「得ならあります。患者のストレスを軽減できる。医者として、なかなかの利得(りとく)だとは思いませんか?」

サンバースト
「患者?」

ナイトメディカ
「そこの、グラスハンマーのことです」

グラスハンマー
「……ちーす」

ナイトメディカ
「どうしますか? ヒーローをやめる覚悟で戦いますか? それとも、ヒーローを続けるために立ち去りますか?」

 

――間

 

サンバースト
「……判りました。今日のところは見逃してあげる。命拾いしたわね、グラスハンマー!」

グラスハンマー
「見逃してあげるっていうか、命拾いしたのは俺じゃなくてお前……」

サンバースト
「アァ”!?」

グラスハンマー
「判った判った、命拾いしました。わー助かったぞーう」

サンバースト
「今度私の前に立ったとき、それがあなた達のヴィランとしての命日になるから。覚悟しておくのね」

ナイトメディカ
「達って……僕もですか?」

サンバースト
「当然でしょ。あなたもヴィランなんだから」

ナイトメディカ
「最悪。ヴィランやめようかな」

サンバースト
「足を洗うなら早いうちにね。――じゃあ、またね。グラスハンマーと…………ドクターハシビロコウ?」

ナイトメディカ
「……はい。足元にお気をつけてお帰りください」

サンバースト
「あと……壁を壊してしまったことは――すみませんでした!」

 

   ▼

 

グラスハンマー
「名前間違われてたけど、訂正しなくてよかったのか?」

ナイトメディカ
「いいですよ、もう何でも」

グラスハンマー
「……お疲れ」

ナイトメディカ
「そう思うなら、多めに治療費払ってください。何ですかあの生き物。なんとか引かせることができましたが……あと一撃、同じ技を受けていたら、間違いなく僕は死んでいましたよ」

グラスハンマー
「言ったろ。本物のヒーローだ、って」

ナイトメディカ
「馬鹿言わないで下さい。純正のバーサーカーの間違いでしょう」

グラスハンマー
「そうとも言う」

ナイトメディカ
「……とりあえず、今やるべきことをやっておきましょうか」

グラスハンマー
「今やるべきこと?」

ナイトメディカ
「まず外に出ます。ベッドを車椅子に変形させますね」

グラスハンマー
「? おう」

 

   ▼

 

グラスハンマー
「それで、どうして外に出たんだ?」

ナイトメディカ
「勿論(もちろん)こうするためです。――ポチっとな」

 

――ダークメディカがスマホを操作すると、診療所が爆炎に包まれ、崩壊する。

 

グラスハンマー
「はぁ!? お前のアジト、滅茶苦茶爆発してるぞ!」

ナイトメディカ
「はい。緊急自爆装置を起動したので」

グラスハンマー
「何で!?」

ナイトメディカ
「敵にアジトを知られてしまった、ということもあるのですが――合図したらここ押してください」

 

――ナイトメディカ、自身のスマホをグラスハンマーに手渡す。

 

グラスハンマー
「スマホの……カメラ?」

 

   ▼

 

ナイトメディカ
「はい、今!」
「――撮れましたか? うん、バッチリですね」

グラスハンマー
「……その写真――崩壊した診療所の前で地面に膝をついて頭を抱えてるお前の後ろ姿のその写真。一体どうするつもりだ?」

ナイトメディカ
「すごい説明台詞ですね。当然ブログに投稿するんですよ。サンバーストにアジトを襲われ破壊された被害者として、尾ひれはひれをふんだんにつけてね」

グラスハンマー
「お前よ」

ナイトメディカ
「ちなみに、サンバーストの個人情報は、すでにWIKIにページを作り全世界に公開済みです」

グラスハンマー
「……友人ながらドン引きだわ」

ナイトメディカ
「彼女に言ったように、不意打ちで敵のアジトを襲撃する行為はマナー違反。そういうことに1番厳しいのはヒーローでもヴィランでもなく、実はただの一般市民だったりしますからね。これは荒れますよ。護るべき市民の手によって、報(むく)いを受けろサンバースト。――ぐへへへへへ――ぐへへはははははは――!」

グラスハンマー
「……相変わらずゲスな小悪党みてぇな笑い方してんな」

ナイトメディカ
「ヴィランですからね」

グラスハンマー
「何も言えねえ」

ナイトメディカ
「ぐへへはははははははははははははははHAHAHAHAHAHAhahaha――!」

 

   ▼▽▼

 

――2週間後
――エンバーバーグ 繁華街 ランブルウィード

サンバースト
「宣言したとおり、今日があなたのヴィランとしての命日よ」

グラスハンマー
 ナイトメディカの目論見(もくろみ)は外れた。
 サンバーストは、ナイトメディカがブログに件(くだん)の投稿をする前に、3枚の文章画像を自身のユンスタグラムに投稿した。
 その内容は、メディカのアジトに侵入したこと。その壁を壊したこと。そして俺たちに説教されたことと、それらについての謝罪。
 サンバーストのユンスタと、ナイトメディカのブログ。2つの内容の食い違いに多少世間がザワつき、特定班(シーカー)と呼ばれる連中によって、メディカの嘘が白日(はくじつ)の下(もと)に晒(さら)された。
 結果、ナイトメディカの方が炎上し、サンバーストはむしろ、知名度と人気を上げ――風の噂によるとファンクラブまで出来たらしい。メディカがアップしたWIKIのページがその人気の後押しとなっているとのことだから、皮肉なものだ。

ナイトメディカ
『い、いいじゃないですか。人々からのブーイングを浴びてこそヴィランですからね。ええ、ええ。計算通りですよ、計算通り。ブーイング、キモチイイー』

グラスハンマー
 友人が涙目で口にしたその強がりを、俺は一生忘れないだろう。
「命日ねぇ。悪ぃな、俺は今まで他人の予定通りに動いてやったことがねぇんだ。勿論、今回もな」
「――思う存分壊しあおうぜ、ヒーロー!」

サンバースト
「後悔なんて残せないくらい、完膚(かんぷ)なきまでにブチ砕いてあげるわ、ヴィラン!」

グラスハンマー
 互いに必殺技の構えをとる。
 さぁ、リベンジマッチだ。

サンバースト
「――サンライトバースト!」

グラスハンマー
「――ハンマーデストラクション!」
 2つの力がぶつかり、空気が悲鳴を上げる
 肉が、骨が、血が、命が、歓喜に震える。
 俺は今――生きている。

 

   ▽

 

グラスハンマー
 3時間後。
 ベッドに横たわる俺に向かって、ナイトメディカがため息を落とした。

ナイトメディカ
「これだから戦闘狂は」

グラスハンマー
「……ヴィランだからな」

ナイトメディカ
「そんな言い訳が通用すると?」

グラスハンマー
「理不尽!」

ナイトメディカ
「ヴィランですからね」

グラスハンマー
「何も言えねえ」

 

《おまけ》