《あらすじ》
赤き月が浮かぶ夜。
魔力が蠢くその空間で、プライドとプライドをかけた、熱きバトルが幕を開ける!
〈作・海音ミヅチ(あまね・みづち)&フミクラ〉
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
《協力者》
【 ムッチ 】さん
【 璃月なお 】さん
【 レイク 】さん
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
《登場人物紹介》
巫千環(かんなぎ・ちわ)
年下女性。一人称「ウチ」。巫家の三女。
八ノ宮クララ(はちのみや・くらら)
年上女性。一人称「あたし」。八ノ宮家の長女。
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《 本文 》
巫千環
ババ抜き。それは、究極の心理戦。相手は八ノ宮(はちのみや)クララ。今まで何度も死闘を演じてきた、因縁の相手。
現在相手のターン。ウチの手札は3枚。相手の手札はわずか2枚。手札にあるジョーカー以外を引かれたら敗北が決まってしまう危機的状況。
だからこそウチは、あえてニヤリと、口元に笑みを浮かべる。
――相手の顔とトランプを何度も見比べるクララ。
八ノ宮クララ
「……」
巫千環
「悩んでいるねお姉さん。それもそうか。そっちの手札はわずか2枚。ここでそちらがジョーカー以外を引くことができれば、勝利が決まる正念場(しょうねんば)!」
「だから、間違ってもこんなところで、ジョーカーを引いて、ウチに逆転を許すわけにはいかない! あははは、どれを引きますかー? お姉さん」
八ノ宮クララ
「……追い詰められているくせに、ナマ言うじゃない小娘! ……いいわ。怖いもの知らずな子犬ちゃんのために、奥の手を出してあげる!」
巫千環
「奥の手?」
――クララの雰囲気が少し変わる。それに合わせて千環も。
八ノ宮クララ
「知っているわよね。あたしが――日本の魔術師の頂点。一二神葬(じゅうにしんそう)に名を連ねる八ノ宮家の長女。八ノ宮クララだってことは……!」
巫千環
「……ッ! まさか……!」
八ノ宮クララ
「そう、使わせてもらうわ! 代々八ノ宮に伝わる禁忌の力!」
――クララ、目を見開く。
八ノ宮クララ
「《エイトパレスイービルアイ》!」
巫千環
「目が、光って、これって……!」
八ノ宮クララ
「邪眼(じゃがん)」
巫千環
「……まさか、八ノ宮の邪眼って!」
八ノ宮クララ
「その反応……どうやら知っているようね。まぁ、ここにいる時点であなたも魔術師の端(はし)くれ。当然か。知っての通り八ノ宮の邪眼はトレース型。その目を見たものは、思考を全て読み取られてしまう!」
巫千環
「しまっ……!」
八ノ宮クララ
「今更(いまさら)目を逸(そ)らせても遅いわよ、子犬ちゃん。くふっ、なるほどね。ジョーカーの位置は捕捉(ほそく)したわ。あたしの手札は現在2枚。これでジョーカー以外を引けば、次のあなたのターンで、あたしの勝利が決定する!」
巫千環
「……い、イカサマだ!」
八ノ宮クララ
「何とでも言いなさい。こういうのはね、勝てばいいのよ。勝てば。そもそも魔術師同士の戦いで、イカサマは褒め言葉って、スクールで習わなかったのかしら、子犬ちゃん。あなたのジョーカーがあるのは1番右端。だからあたしはそれを避けて、……真ん中を引く! ……ドロー!」
巫千環
「……」
八ノ宮クララ
「くふふ、くふふふふふ――勝った! これで、あたしのしょう……なんですって? これは……ジョーカー!?」
巫千環
「……ふふふ」
八ノ宮クララ
「何を、笑っているの……!?」
巫千環
「ふふふふははあはははははははは――! 破れたり、八ノ宮クララ!」
八ノ宮クララ
「……まさか、あなたも……!」
巫千環
「そう。隠していたけど、実はウチも一三神葬(じゅうさんしんそう)――」
八ノ宮クララ
「一二」
巫千環
「……一二神葬の一角にして頂点! 巫(かんなぎ)家の三女! 巫千環(かんなぎ・ちわ)だったのさ!」
八ノ宮クララ
「カンナギ、チワ……よく見たら、身体の周りを包むその青い魔力……まさか、呪術集団(じゅじゅつしゅうだん)朧(おぼろ)をわずか8歳で壊滅(かいめつ)させたと言われている、巫家の最高傑作【青の光環(こうかん)】巫千環(かんなぎ・ちわ)……!?」
巫千環
「おやおやぁ? どうやら思っていたよりウチは有名人だったみたいだね」
「この力はウチの家系に古くから伝わる力! その名も……えーっと……《ハイパーカンナギブロック》!」
八ノ宮クララ
「……だっさ」
巫千環
「……昔の人が付けた名前だから、ウチのセンスとは全く関係のないその力は、自分に向かって放たれた魔術の構成式の一部を瞬時に書き換え、自分には全く害のないものへと変異させる! もちろんそれが八ノ宮の邪眼によるものでもね!」
八ノ宮クララ
「まさか、あたしの邪眼が……防がれるだなんて……!」
巫千環
「これで、ウチの手札は2枚。そっちの手札は3枚! 策に溺(おぼ)れたね、お姉さん! 形勢逆転だ!」
八ノ宮クララ
「ターンエンド……いいわ。子犬らしく吠え面かかせてあげる。あたしには、邪眼以外にも奥の手があるのよ」
巫千環
「まだ、奥の手が……?」
八ノ宮クララ
「まさか、攻めの手段しかないと思っていたの? あなたにも《ハイパーカンナギブロック》があるように。あたしにもあるのよ。防衛手段がね!」
「『纏(まと)え纏え、蠢(うごめ)く世界は刻(とき)を止め、奏(かな)でる旋律(せんりつ)は汚泥(おでい)と化す。人の行く末(すえ)知るのは蛙(かえる)。下呂(げろ)下呂下呂下呂グアムグアムグアム。犇(ひし)めけ、規則(きそく)の庭――《イージスガーデン》』!」
巫千環
「……」
八ノ宮クララ
「……」
巫千環
「……? 何が、変わったって言うの?」
八ノ宮クララ
「まぁ、ものは試し。引いてみなさいな」
――眉を潜めながら、相手のカードを見る千環。
巫千環
「……」
八ノ宮クララ
「悩んでいるようねチワワちゃん。いいことを教えてあげる。この、左端のカードはダイヤのQ(クイーン)。これを引くことが出来れば、あなたの勝ちが決まる」
巫千環
「そんなハッタリに惑わされるわけ――」
八ノ宮クララ
「何ならひっくり返してあげましょうか? ほら」
――クララ、1番左のカードを裏返して、千環に見えるようにする。
巫千環
「なっ……!」
八ノ宮クララ
「どうぞ、引けるものなら、お引きなさい」
巫千環
「……何のつもりか知らないけど、ウチはみすみす目の前の勝利を見逃すようなバカじゃないよ! ドロー――ッッッ!?」
八ノ宮クララ
「あらぁ? どうしたのかしら? 手が止まっているわよ?」
巫千環
「……な、何で……見えているのに、これを引けば勝てるのに……引けない! 引きたくない……!?」
八ノ宮クララ
「くふふふふふ――これが、あたしのもう一つにして最大の奥の手《イージスガーデン》! 相手ではなく、一時的に世界のルールを少しだけねじ曲げる力。今の世界のルールは、ババ抜きで、1番左側のカードを引き抜くことができなくなる!」
巫千環
「くあああああああああああああ――!」
八ノ宮クララ
「はーい、頑張ってー、チワワちゃーん」
巫千環
「なんで、もう少しなんだ! もう少しで引けるのに――!」
八ノ宮クララ
「その“もう少し”を、今の世界は許さない」
巫千環
「どぁああああああ、ああああァァァァ――!」
――千環。勢いよく左のクイーンではなく、真ん中のカードを引く。
巫千環
「……ジョー……カー……!」
八ノ宮クララ
「あら、残念だったわね。真ん中は大ハズレ。これで仕切り直し」
――千環、カードを混ぜる。
巫千環
「くっ……ターンエンド!」
八ノ宮クララ
「さて、どれかしら。――右……左……真ん中」
巫千環
「……」
八ノ宮クララ
「右……左……真ん中」
巫千環
「……」
八ノ宮クララ
「右……真ん中……左……左……。フフッ、身体は正直ね。全部判ったわ」
巫千環
「……!」
八ノ宮クララ
「ドロー! …………ターンエンド! さぁ、あなたのターンよ」
巫千環
「……何で普通に間違えてジョーカー引いたのに、そんな優雅ぶってんの?」
八ノ宮クララ
「うるさいわね! でも問題ないわ。あたしにはまだ《イージスガーデン》があるから。このターンをしのいで、必ず次のターンで勝利を決める!」
巫千環
「悪いけど、そうはさせない」
「確かに《イージスガーデン》はすごい力だ。でも残念だったね。ウチにだって奥の手はまだ残っている! これは、一二家の頂点に立つ巫(かんなぎ)の中でも、使えるものがほとんどいない、最高レベルの結界魔術!」
八ノ宮クララ
「……あなたが、それを使えると?」
巫千環
「ウチを誰だと思っているの? ウチは、巫家最強の魔術師……巫千環(かんなぎ・ちわ)だ!」
八ノ宮クララ
「ッ!」
「《纏え纏え、轟(とろど)く波の流れは緩(ゆる)やかに変わり、千手(せんじゅ)の川は――》」
巫千環
「その程度の防御魔術では大した効果はのぞめないし、効果があったとしても、今更もう遅い! この魔術は、こうやって、右手の中指を人差し指に絡ませるワンアクションで成立する! 巫(かんなぎ)固有結界魔術《言祝ぎ(ことほぎ)》――起動!」
八ノ宮クララ
「……!? なんて、膨大で暴力的な魔力……! 空気が――世界が無理矢理青に変わっていく……!」
巫千環
「この世界に取り込まれた相手は、魔術が使えなくなる上、自らの意志を失い、ウチの質問に何でも正直に答えてしまう!」
八ノ宮クララ
「あなたのような小娘が、そんなメチャクチャな術……」
巫千環
「それができるから、ウチは巫千環なんだ」
八ノ宮クララ
「……ッ!」
巫千環
「では質問。八ノ宮クララさん、ジョーカーの場所はどこですか?」
八ノ宮クララ
「ぐッ……言うわけ……ないでしょう……!」
巫千環
「さすが八ノ宮の長女……常人離れした魔力耐性(まりょくたいせい)だ。でも、2度目はどうかな? 重ねて問います。八ノ宮クララさん、ジョーカーの場所はどこですか?」
八ノ宮クララ
「ぎっ――ぐっ――……くふふふ……寝言は……寝て言いなさい……野良犬!」
巫千環
「あっははははは――流石だよ八ノ宮クララ! まさか2度も耐えるなんて思わなかった。でも、きっと次はない。さらに重ねて問います。八ノ宮クララさん、ジョーカーの場所は――どこですか?」
八ノ宮クララ
「ぐっ……あ……あああぁあああああああああああああああ――!」
――クララ、ガクンと頭を落とすと、ゆっくり顔を上げ、無感情に答える。
八ノ宮クララ
「1番……左です」
巫千環
「へへへ、サンキュー、クララちゃん! じゃあ、引いちゃうね」
八ノ宮クララ
「……はい、どうぞ」
巫千環
「ドロー!」
――千環、1番左のカードを引く。
八ノ宮クララ
「……え」
巫千環
「7のペアが完成! リベレーション!」
八ノ宮クララ
「……ちょっと待って」
巫千環
「ん?」
八ノ宮クララ
「あたしは、1番左にジョーカーがあるって言ったはず。なのに何で、そのジョーカーがあるはずの――1番左のカードを引いたの?」
巫千環
「……八ノ宮クララ。ウチは、アンタのことを過小評価していない。それどころか最強の敵だと思っている。だから信じることにしたんだ。ウチの《言祝ぎ(ことほぎ)》もきっと防ぐって。それを利用して、ジョーカーを引かせようとする、ってね」
八ノ宮クララ
「カンナギ……チワ……!」
巫千環
「ターンエンド! さぁ、ラストターン! ウチの手元に残ったこの1枚。どうぞ、お引きなさい」
八ノ宮クララ
「……」
巫千環
「……」
八ノ宮クララ
「……」
巫千環
「……いいよ。引きたくなかったら、引かなくて」
八ノ宮クララ
「……なんですって?」
巫千環
「ウチにもその気持ちは判る。自ら負けを認めるのは、簡単なことじゃ――」
八ノ宮クララ
「くふ、くふふ、くふふふふふはははははははは――!」
「ナメないで下さる? あたしは、八ノ宮家の長女――いえ、あなたの最強の敵! 八ノ宮クララよ!」
「負けを認められなかったから引くのを躊躇(ためら)った」
「そんな無様なこと、するわけないでしょ」
「単純に、どういう風に引こうか考えていただけ」
「いい? この程度の敗北なんて、あたしにとっては次の勝利の糧(かて)でしかないの」
「覚えていなさいあたしの敵。あたしはもっと強くなって、今度は必ずあなたを打ち砕く……!」
巫千環
「あはっ、あはははは――さすがウチの敵! 返り討ちにしてやる!」
八ノ宮クララ
「またね、チワワちゃん。ドロー!」
「Q(クイーン)のペアが成立! リベレーション! と、同時に、相手の手札が0になったことにより、この勝負、最後までジョーカーを所持していたあたしの敗北が決定! よって勝者は――巫千環(かんなぎ・ちわ)!」
「おめでとう、良いバトルだったわ……」
♥♦♠♣
巫千環
「はい、ウチの勝利ー! イェーイ!」
八ノ宮クララ
「……やっぱ負けると腹立つし、最後に何で自分に勝った相手のこと讃(たた)えなきゃならないのか……何度やっても理解に苦しむわね」
巫千環
「まぁまぁまぁまぁ、それがカードバトラーの流儀だから」
八ノ宮クララ
「別にあたしカードバトラーじゃないんだけど」
巫千環
「それよりさぁ、なんなのあの魔術がナンタラカンタラって」
八ノ宮クララ
「チワワちゃんがそれ言う? その前の対戦で、恐竜人間設定をぶち込んできたチワワちゃんがそれ言う? それに比べたら魔術師設定なんて、簡単でしょ? 事実、合わせてこれたじゃない」
巫千環
「いや、合わせられたけど……あと、途中のクイーンを表にするのはずるいよ! あんなことやられたら、流石に引けないじゃん!」
八ノ宮クララ
「やっぱりね。チワワちゃん真面目だから」
巫千環
「真面目とかじゃなくて……それとダサいって言うのやめて! 心が折れるから!」
八ノ宮クララ
「ごめんね……でも実際ダサかったから」
巫千環
「そうだったとしても声に出さないで! あと、人にそんな風に言えるほど、クラ姉のネーミングセンスも良くないからね!」
八ノ宮クララ
「そんなわけないじゃない。はい、じゃあもう1戦」
巫千環
「いやいや、もうやめようクラ姉。今回のでもう15戦目だよ。いつまでやるんだって……」
八ノ宮クララ
「13戦目の時も、その前も、さらにその前も、あたしが同じように言っても、チワワちゃん譲らなかったじゃない。『負けたまま終わるのは嫌だー』って言って」
巫千環
「いや、だから、ウチ勝ったし、終わろう? クリスマスイブだよ? クリスマスイブの夜だよ? 聖夜だよ? 絶対女2人でババ抜きやる時間じゃないでしょ」
八ノ宮クララ
「ふざけないで。チワワちゃん以上に、あたしは負けず嫌いなの。それに、どうせ用事なんてないんでしょ? さぁ、やるわよ」
巫千環
「うへぇ」
――クララ、トランプをシャッフルして配る。
巫千環
「彼氏ほしいな。サンタさん、プレゼントしてくれないかな……」
八ノ宮クララ
「あたしは男よりも、お金がほしいわ」
巫千環
「あー、ほしいねー、お金。今外にいるイチャップルをボコしたら、1組につき、誰かいくらかお金くれないかなー」
八ノ宮クララ
「……物騒(ぶっそう)なこと言わないの。そんなことにお金を払う頭のおかしな人がいるわけないでしょ。……それで、1組いくらほしいの?」
巫千環
「こんなところにいたんですね! あたおかサンタさん!」
八ノ宮クララ
「冗談よ。さぁ、16戦目スタンバイOK! バトルスタート!」