《あらすじ》
恋人への誕生日プレゼントに悩んだ少女――峯口結衣は、友人である三村あかりをアドバイザーに、ショッピングセンターでプレゼントを選ぶ。
〈作・フミクラ〉
【贈スト企画 参加台本】
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《登場人物紹介》
峯口結衣(みねぐち・ゆい)
彼氏への誕生日プレゼントを買いにショッピングセンターにやってきた学生。女性。
三村あかり(みむら・あかり)
友人である結衣の頼みで、買い物に付き合うこととなった学生。結衣曰く、イケメン。女性。
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《 本文 》
三村あかり
「これでいいんじゃない? 『三度の飯よりジャンバルジャン』2巻」
峯口結衣
「……」
三村あかり
「ほら、帯に『作者待望の2巻発売! アニメ化希望!』って書いてあるし。さっきネットで1巻を調べたらレビュー沢山ついてたし、面白いんじゃない?」
峯口結衣
「……あかりん、今日は何を買いに来たか判ってるよね?」
三村あかり
「結衣の彼氏さんへの誕生日プレゼントだよね」
峯口結衣
「どこの世界に、彼氏へのバースデープレゼントに読んだこともないマンガの2巻をあげる奴がいるの?」
三村あかり
「探せば割といると思う」
峯口結衣
「2度と探さないで」
三村あかり
「いや、まだ1回も探してないんだけど」
峯口結衣
「と・に・か・く! それはナシ。ありえない。あたし的には完全にナシ!」
三村あかり
「そんなに強く言わなくても……それで、何かいいのは見つかった?」
峯口結衣
「んー、一応ザッと見たけど……本はダメだね。興味あるかどうか判んないし、興味あったとしても、持っている可能性とか考えると……服やアクセサリーとかと違って2つ以上必要ないものだから」
三村あかり
「それは、来る前から判っていたはずでは?」
峯口結衣
「さぁ、オードブルはここで終了! メインディッシュの時間だ! 2階の雑貨屋に移動するぞ! ついてこい野郎共ー!」
三村あかり
「……あいあいさー」
❁
峯口結衣
「――と、いうわけで『何かコレ、彼氏へのプレゼントにピッタリなんじゃね?』みたいなやつがあったら持ってきてね! 予算は8000円以内」
三村あかり
「……ここまで来ておいて、今更だけどさ」
峯口結衣
「どしたの?」
三村あかり
「本当に、私が選んで良いの?」
峯口結衣
「良いの! あたしこういうセンスが全くない人だし、折角買ったのに彼をガッカリさせたくないから、あかりんに選んで欲しいの」
三村あかり
「それでも……やっぱりこういうのは、自分で選んだ方がいいと思うけど」
峯口結衣
「……じゃあ、一応あたしも探すから、あかりんも探して。そして良い感じのやつがあったら持ってきて」
三村あかり
「そういうことならいいけど。でも、何で私? 買い物とかだったら伊吹とかの方がセンスありそうだけど」
峯口結衣
「確かにブッキーはセンス良いけど……でもブッキーって、男っ気無いじゃん? 今まで彼氏いた話聞いたこともないし……こういう買い物は苦手かなと思って」
三村あかり
「……私も彼氏いないんだけど」
峯口結衣
「確かにあかりんもいないけど、ほら、あかりんはイケメンだから」
三村あかり
「……は?」
峯口結衣
「いや、ほら、顔がマジ美男子だから! タカラヅカだから! トップスターだから! 男子の気持ちも判るでしょ?」
三村あかり
「……」
峯口結衣
「え、何そのナマズみたいな顔。せっかくのイケメンが台無しだよ?」
三村あかり
「あのさ結衣……そんなわけなくない?」
峯口結衣
「あるよ! もっと自信持ちなよ! あかりんはイケメンだよ!」
三村あかり
「そっちじゃなくてさ……まぁいいや。イケメンが喜びそうなやつ選べば良いんだよね?」
峯口結衣
「うん! イケメン目線で選んで!」
三村あかり
「……私は別にいいけどさ」
峯口結衣
「ん?」
三村あかり
「同じような対応を他の女の子にしないようにね? 場合によっては大喧嘩になるから」
峯口結衣
「大丈夫! あかりんほどのイケメンは多分この先、一生現れないから!」
三村あかり
「さいですか」
❁
三村あかり
「はい、これはどう?」
峯口結衣
「……何コレ?」
三村あかり
「見ての通り、ムカデをモチーフにしたベルトのバックル」
峯口結衣
「……これ男子喜ぶの? あかりんこれ貰って嬉しい?」
三村あかり
「いや、私は嬉しくないけど、私が思うイケメンならヨダレ垂らして喜ぶと思う」
峯口結衣
「あたしでも判るよ。これは彼氏喜ばない。戻してきて」
三村あかり
「やっぱり」
峯口結衣
「やっぱり!?」
❁
三村あかり
「はい、これは?」
峯口結衣
「何コレ」
三村あかり
「大きいカブトムシのぬいぐるみ」
峯口結衣
「いや、それは見て判るんだけど……いらないでしょ?」
三村あかり
「私はいらないけど、イケメンなら涙流して喜ぶと思う」
峯口結衣
「ごめん、戻してきて」
❁
三村あかり
「いいの見つけたよ」
峯口結衣
「……一応聞くけど、何ソレ?」
三村あかり
「昆虫フィギュアのセット。全部で27種類のフィギュアが入ってるんだって!」
峯口結衣
「……へー」
三村あかり
「しかも値段は2500円! 結構クオリティ高く作られているのに、この値段は安い!」
峯口結衣
「……ふーん」
三村あかり
「プレゼントのひとつとして」
峯口結衣
「いらん」
三村あかり
「え?」
峯口結衣
「……あかりん。こういうの好きなの?」
三村あかり
「いや、私はどちらかと言うと嫌いだけど、イケメンなら狂喜乱舞確実だから」
峯口結衣
「あかりんが思うイケメンって田舎の小学3年生なの?」
三村あかり
「だって……自分が知っているイケメンってこんな感じだから」
峯口結衣
「じゃあ、もうイケメンのことは考えなくていいから、あかりんが単純に欲しいもの持ってきて」
三村あかり
「それでいいの?」
峯口結衣
「うん。そっちがいい。絶対に」
三村あかり
「判った。待ってて」
❃
三村あかり
「はい」
峯口結衣
「……綿棒?」
三村あかり
「うん。うち、綿棒が残り少なくなっていて、そろそろ補充しなきゃなと思っていたからさ」
峯口結衣
「あのさ、あかりん」
三村あかり
「なに?」
峯口結衣
「今日は買い物に付き合ってくれてるし、お礼としてそれくらいは買ってあげるけど、そういうことじゃない」
❁
三村あかり
「これでどうだ」
峯口結衣
「これは……シュシュのセット?」
三村あかり
「うん、結構可愛いくない?」
峯口結衣
「うん、可愛いね。ただ、おれの彼氏はシュシュしねぇんだわ」
❁
峯口結衣
「戻してこい」
三村あかり
「まだ何も言ってないけど」
峯口結衣
「言わなくても判るよ。その手に持ってるやつでしょ。お祭りとかで売られている大きいバネ」
三村あかり
「これ、階段をリズミカルに下りるらしいよ」
峯口結衣
「だから何!? それ戻して一旦集合!」
❁
峯口結衣
「あかりん軍曹、今のところ0点だよ。あかりん軍曹」
三村あかり
「そうは言いますが、結衣大佐が言ったんでありますよ? 私が単純に欲しいもの持ってこいって」
峯口結衣
「言ったよ、言ったけどさ。それにしたって、ひどいラインナップだよ?」
三村あかり
「そんなに言うなら、結衣の彼氏さんの情報教えてくれない? 見ず知らずの相手へのプレゼントは、さすがに難しすぎる」
峯口結衣
「……確かにそれもそうか。ちょっと待ってね。えっと……ほら!」
三村あかり
「……」
峯口結衣
「……またナマズみたいな顔してどうしたの?」
三村あかり
「……派手っぽく見えるから勘違いされがちだけどさ」
峯口結衣
「ん?」
三村あかり
「結衣って、内面重視だよね」
峯口結衣
「え? どういうこと」
三村あかり
「……優しそうな彼氏さんデスネ」
峯口結衣
「そうでしょ! ふふふ、惚れちゃダメだぞ」
三村あかり
「あ、あはは。じゃあちょっとその彼氏さんに合うもの選んでくるね」
❃
三村あかり
「はい」
峯口結衣
「何コレ? クリスマスのリース?」
三村あかり
「いや、注目してほしいのは、そこに散りばめられた」
峯口結衣
「……どんぐり?」
三村あかり
「そう!」
峯口結衣
「……」
三村あかり
「……」
峯口結衣
「ブタじゃねぇわ!」
三村あかり
「ん?」
峯口結衣
「アタシの彼氏、ブタじゃねぇわ! ただちょっと幸せが体に残りがちなだけ!」
三村あかり
「いや、別にそういうわけじゃないんだけど。じゃあ――これは?」
峯口結衣
「フライトキャップと、丸いサングラスと、つけヒゲ?」
三村あかり
「……」
峯口結衣
「……」
三村あかり
「……」
峯口結衣
「飛ぶ方のブタでもねぇわ! おう、お前やってんな! 人の大事な彼氏捕まえてやってくれてんな!」
三村あかり
「3点で1万円ジャスト!」
峯口結衣
「予算8千円だっつうの!」
三村あかり
「じゃあ――これは?」
峯口結衣
「これ……えっと、何コレ? 落ち葉とか集めるやつ?」
三村あかり
「そう。熊手(くまで)」
峯口結衣
「熊手……えっと……誰の彼氏が坊さんだ!」
三村あかり
「違う。今までの流れ」
峯口結衣
「だよね、そうだよね。坊さんなわけないもんね……えっと、熊手……」
三村あかり
「ヒント。頭に金の輪っかつけた奴と、首にドクロのネックレスつけた奴の仲間です」
峯口結衣
「……頭に金の輪っかつけた? …………孫悟空(そんごくう)?」
三村あかり
「おっ?」
峯口結衣
「そのリアクションは、正解? ってことはドクロのネックレスは、河童の、えっと……あ、沙悟浄(さごじょう)で、熊手は――判った! 猪八戒(ちょはっかい)だ!」
三村あかり
「正解!」
峯口結衣
「やったー! そして、うん。ブタ呼び確定ですね! ブタ呼び罪ですね! ブタさん警察を呼んで下さい!」
三村あかり
「えー、それだけはご勘弁(かんべん)をー」
峯口結衣
「そういうわけにはいきません。さあ、電話して」
三村あかり
「うう……もしもし、ブタさん警察ですか」
峯口結衣
「はい、ブタさん警察です。事件ですか? 事故ですか?」
三村あかり
「私は、親友の彼氏さんをブタさん扱いしてしまいました。自首します」
峯口結衣
「承知しました。ブタ箱で反省してください」
三村あかり
「あーあ、明日からクサい飯かー」
峯口結衣
「3食全て、背脂(せあぶら)マシマシの豚骨ラーメンです。スープもきちんと残さず飲み干してくださいね」
三村あかり
「丼(どんぶり)の底にメッセージとか書いてあったりしますか?」
峯口結衣
「それは飲み干してからのお楽しみです。ブッヒッヒ――じゃなくて、マジメにやろう?」
三村あかり
「……ごめんなさい」
峯口結衣
「いくら仲良しと言っても、人の彼氏の見た目をイジるのは駄目だからね?」
三村あかり
「全くもってその通りです。ふざけすぎました」
峯口結衣
「判ればよろしい。さぁ、気を取り直して、探せ! この世の全てを!」
三村あかり
「あいあいさー。と、その前に、もう1度写真見せて」
峯口結衣
「いいよ、はい」
三村あかり
「……写真見たら何かヒントになるかなと思ったけど……難しいね」
峯口結衣
「だよねー……何が好きなんだろう」
三村あかり
「思い切って電話で聞いてみたら?」
峯口結衣
「え、それじゃあサプライズにならないじゃん」
三村あかり
「大丈夫! 男ってのは2時間前の出来事も忘れる生き物だって、前にテレビでうさんくさいママタレが偉そうに語ってたから。きっとプレゼント渡す時には、すっかり忘れちゃってるよ」
峯口結衣
「そうなんだ、じゃあノっちゃおうかな☆」
三村あかり
「……買い物が面倒くさくなってるでしょ」
峯口結衣
「ちょっとね。とにかく電話してくる」
❃
峯口結衣
「お待たせ」
三村あかり
「聞けた?」
峯口結衣
「……うん」
三村あかり
「で、彼氏さんは何が好きって?」
峯口結衣
「それがね……」
三村あかり
「ん? どうしたのモジモジして……トイレ我慢してる?」
峯口結衣
「してない。何が好きか彼に聞いたらね――『僕が好きなのは、結衣だ』――って! うへへへへ」
三村あかり
「……へぇ」
峯口結衣
「素敵じゃない? あたしの彼氏素敵すぎじゃない!?」
三村あかり
「……」
峯口結衣
「もう、あかりんったら、またナマズみたいな顔して! でも、うん。そういうことじゃないもんね。聞きたいのは欲しいものだもんね」
三村あかり
「あ、良かった。友人がのろけ犯になったのかと思った。のろけ警察に電話させるところだった」
峯口結衣
「のろけ犯って何? とにかく、だからその後聞いてみたの。欲しいものは何か? って」
三村あかり
「……嫌な予感がするんだけど」
峯口結衣
「すると彼――『僕が欲しいのは、結衣の心』だってー! キャー、盗まれちゃうー! っていうかもう盗まれてるー! あたしの彼氏は16代目イケメン怪盗ー!」
三村あかり
「……で?」
峯口結衣
「で?」
三村あかり
「いや、その後は?」
峯口結衣
「その後って……終わりだけど」
三村あかり
「は? じゃあ、結局何が欲しいのか判らずじまい?」
峯口結衣
「いや、だから言ってるでしょ。彼が欲しいのは、私の心なんだって!」
三村あかり
「……」
峯口結衣
「……」
三村あかり
「これは悪質なのろけ犯ですね。のろけ警察に電話して下さい」
峯口結衣
「の、のろけ警察!? ごめんなさい、それだけは」
三村あかり
「問答無用です。さぁ早く」
峯口結衣
「うう……もしもし、のろけ警察ですか?」
三村あかり
「違います」
峯口結衣
「え?」
三村あかり
「のろけインターポールです」
峯口結衣
「のろけインターポールだった!」
三村あかり
「あなた達のことはすでに通報を受けており――あなたとその彼氏は凶悪なのろけカップルとして、全世界に指名手配されています。逃げられると思うなよ。地の果てまで追いかけて、必ず捕まえてやるからな」
峯口結衣
「なんてこったー! いつの間にかあたしは、あたし達は、世界的な犯罪者になっていたのかー! ルパンになっていたのかぁぁぁぁ! そうと判れば、こうしちゃいられない! 予告状書かなきゃ! 羽根ペン羽根ペン!」
――結衣、店員に注意される
峯口結衣
「……あ、はい。すみません。静かにします。あ……ええ。そうです。別に、犯罪とかは……ええ。はい。ルパン、はい。……ありがとうございます。すみませんでした」
「怒られちゃったじゃん」
三村あかり
「あれだけ大声出してたらね」
峯口結衣
「何かテンション下がっちゃった。もう買い物とかどうでもよくなってきちゃった」
三村あかり
「奇遇だね、私も」
峯口結衣
「いや、あかりんは最初からでしょ」
三村あかり
「ばれた?」
峯口結衣
「ばればれだよ」
三村あかり
「……そう言えばさ、彼氏さんの誕生日っていつなの?」
峯口結衣
「んっとね、9ヶ月後」
三村あかり
「へー、きゅうか……は?」
峯口結衣
「ん?」
三村あかり
「え?」
峯口結衣
「あ?」
三村あかり
「え?」
峯口結衣
「あぁん!?」
三村あかり
「いや、なんでメンチ切ってんの?」
峯口結衣
「誰が腰抜けのシャバ僧だってぇぇ!?」
三村あかり
「そんなこと言ってないし――いや、それより、彼氏さんの誕生日9ヶ月後なの?」
峯口結衣
「そうだよ?」
三村あかり
「……だったら、買うの早すぎじゃない?」
峯口結衣
「どうゆうこと?」
三村あかり
「9ヶ月もあれば彼氏さんの好きなものも段々判ってくるだろうし……今じゃなくて、それから買いに来ても遅くないというか、そっちの方がいいんじゃない?」
峯口結衣
「……目から鱗(うろこ)!」
三村あかり
「(ため息)帰ろうか」
峯口結衣
「そうだねー。あ、綿棒買おうか?」
三村あかり
「いいよ。近くのスーパーで買うから」
峯口結衣
「そう? あと、本屋もう1回寄っていい?」
三村あかり
「いいけど、何か買うの?」
峯口結衣
「ほら、さっきあかりんが薦(すす)めてくれたマンガ」
三村あかり
「『三度の飯よりジャンバルジャン』?」
峯口結衣
「そう、それ。ネットでの評判もいいんでしょ? 絵も結構キレイだったし、試しに1巻買ってみようかなと思って」
三村あかり
「……いや」
峯口結衣
「いや?」
三村あかり
「ネットでの評判は別に良くなかったよ。というか悪かったよ。最低評価のレビューが山のように」
峯口結衣
「そんなもの薦めてきたのか!? これは凶悪なオススメ偽装犯ですね。レビュー警察に通報して下さい」