《あらすじ》

 第11回シャーロット杯。その一回戦敗退者たち。
 頂を目指した者たちの戦いが、再び、始まる――!

〈作・フミクラ〉

  
   ★ ★ ★ ★ ★

 

《キャラクター協力》

アマデウス・レプター
  ・・・・・・・・【 にっし~☆ 】さん

イーリー・チシル
  ・・・・・・・・【  Toto   】さん

おはぎ
  ・・・・・・・・【 璃月 なお 】さん

ピーキー・ピーキー
  ・・・・・・・・【  レイク  】さん

ヨハネス・バルトロ12世
  ・・・・・・・・【 でぇちゃん 】さん

  
   ★ ★ ★ ★ ★

 

《登場人物紹介》

アマデウス
アマデウス・レプター。周囲に実力を認められながらも、勝利はいまだ無し。3001戦無勝の挑戦者。
二つ名は【不死鳥】。
Dブロック第一試合、【皇帝】ことエレオノーラ・フランボルグに敗北する。
性別未定。

イーリー
イーリー・チシル。原始の魔法を使いこなし、1000人以上の弟子を抱える生きた伝説。
二つ名は【仙樹観音】。
Aブロック第一試合、【超新星】ことソーサラー・デモーニアに敗北する。
性別未定。
【過去出演作品】『冥王のしつけかた』(名前だけ)

おはぎ
おはぎ。伝説の剣を引き抜き、神話級の魔神を使役する勇者の素質をもった召喚師であり、破神級魔導師の元弟子。
二つ名は【おばあちゃんっ子】。
Dブロック第二試合、【獣王無尽】ことウルフズ・ベインに敗北する。
性別未定。
【過去出演作品】『勇者が生まれる前々日譚』『冥王のしつけかた

ピーキー・ピーキー
ピーキー・ピーキー。竜人族の若き勇士。様々な武器を使いこなす白兵戦の天才。
二つ名は【神風】。
Cブロック第一試合、【国取り】ことヨシモト・イマガワに敗北する。
性別未定。

ヨハネス
ヨハネス・バルトロ12世。史上最悪の傭兵国『バルトロ』を治める呪術のエキスパート。人格を多数所有しており、その人格によって使える技が違う。
二つ名は【呪術王】。
Bブロック第一試合、【奈落の残響】ことシナモン・アンブローシアに敗北する。
性別未定。

ヨハネス(ケイミー)
ヨハネスの第二人格。ヨハネスとの兼ね役推奨。
性別未定。

 

   ★  ★  ★

    ★   ★

《 本文 》

  

ヨハネス(ケイミー)
『現在の最強を決める魔法武闘大会――シャーロット杯(はい)』
『その第11回大会』
『本戦トーナメントの初戦――全8試合が終了した』
『大会を終えた初戦敗退者8名』
『そのうちの5名は、自然と会場内にある参加者用の食堂に集い――』
『やがて彼(彼女)らは、1つの疑問につきあたる』
『ここにいる中で1番強いのは誰だ、という疑問に』

イーリー
「師匠(オレ)だろう」

ヨハネス
「すみません。それならぼくです」

おはぎ
「最下位ではないかと」

ピーキー・ピーキー
「テメェらじゃ相手にならねぇよ! 特にテメェは問題外だ! 3000敗の敗戦野郎!」

アマデウス
「3000敗じゃない。3001戦無勝なだけさ。にしても、15秒で敗れたイグアナが、でかい口叩くねぇ」

ヨハネス(ケイミー)
『疑問を解決するために、戦士達は再び戦うことを決める』
『しかし、今は大会の最中。この場で実際に魔法や拳を交わすわけにはいかない』
『そこで』

イーリー
「人の話はちゃんと聞けよお前ら。あんまりひどいと弟子にしちまうぞ?」

アマデウス
「ありゃ、すまないね」

ピーキー・ピーキー
「悪かった」

ヨハネス
「ごめんなさい」

おはぎ
「それだけはご勘弁を」

イーリー
「どれだけ弟子になりたくねぇんだよ。まぁいいや」

ヨハネス(ケイミー)
『1000人以上の弟子を持つ大魔導師、イーリー・チシルが提案したのが――』

イーリー
「コレで、勝負をつけねぇか?」

ヨハネス(ケイミー)
『異世界のカードゲーム――インディアンポーカーだった』

アマデウス
「要は、読み合い、探り合いのゲームということか……やってみようかねぇ」

ピーキー・ピーキー
「数が強い奴が勝つっていうのが気に入った。つきあってやるよ、下等種族(ニンゲン)共」

ヨハネス
「うん、面白そうだね。やろう」

おはぎ
「ケガとかしそうな感じじゃないし、私も参加で」

イーリー
「満場一致か。キュンとしちまうじゃねぇか」

ヨハネス(ケイミー)
『最強になれなかった者たちの』
『最強を決めるための戦いが、今――はじまる』

イーリー
「ドロー!」

ヨハネス
「ドロー!」

おはぎ
「ドロー」

ピーキー・ピーキー
「ドロー!」

アマデウス
「ドロー」

ヨハネス(ケイミー)
『第11回シャーロット杯(はい)幕間(まくあい)』
『アンダードッグス!!』
『是非、最後までお楽しみください』

イーリー
「いくぞ――サヴァイブ・オン!」

 

★ ★ ★ ★ ★

 

アマデウス
 合図とともに、カードに浮遊魔法をかける。
 各々のカードは、持ち主だけに表の数字を見せないよう、縦になって浮遊し、額(ひたい)の正面で止まった。
 自分以外の数字が目に入る。
 今のところの強い順でいくと、イーリー・チシルが【10】、ヨハネス・バルトロ12世が【6】、おはぎが【5】、ピーキー・ピーキーが【3】。奇(く)しくも、あっしを除いた時計回りの順番だ。

イーリー【♥10】
「――なかなかいい手が揃ってるじゃねぇか。
「とりあえず、ひとりずつ自分の札は誰に勝っていて、誰に負けているか推理してみようぜ」
「まずは師匠(オレ)から」
「師匠(オレ)の札は、おはぎに勝って、ピーキー・ピーキーに負けていると思う」

ヨハネス【♠6】
「ぼくは、チシルさんに勝って、おはぎさんに負けていると思います」

おはぎ【♦5】
「どういうこと? ……あ、そうか。嘘をついてもいいのか。そういうことなら……」
「えっと、ちょっと皆さんこっち向いてください。あ、はい判りました」
「私は、ヨハネスさんに勝ってイーリーさんに負けていると思います」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「おれっちはもちろん、全員に勝ってる!」

おはぎ【♦5】
「それはないかと」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「あぁン!?」

アマデウス【♣3】
「あっしは……そうだね。お前さん――イーリー・チシルに勝って、ヨハネス・バルトロ12世に負けている……かねぇ」

ヨハネス(ケイミー)
『……まったく、嘘つきばかりだね』

イーリー【♥10】
「そういうゲームだからな。とりあえず、おはぎ」

おはぎ【♦5】
「なんですか?」

イーリー【♥10】
「悪いことは言わねぇ。札、交換したほうがいいぜ。お前の数字じゃあ絶対に勝てねぇ」

おはぎ【♦5】
「絶対に?」

イーリー【♥10】
「ああ、絶対にだ」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「そうでもねぇだろ。1番じゃねぇが、最下位でもねぇ」
「おれっちから言わせれば、テメェがチェンジした方がいいと思うぜ、大魔導師サマよ」

ヨハネス【♠6】
「ピーキー・ピーキーさんの言うとおり、チシルさんと、あと……ピーキー・ピーキーさん」
「おふたりの数字はまともに勝負できるようなものじゃないので、交換をオススメします」

アマデウス【♣3】
「あっしもヨハネス・バルトロ12世の意見に賛同するよ」
「つまらない勝負にしないためにも、ふたりはカードを交換するのがいいんじゃないかい?」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「ハッ! んな安い挑発に乗るわけねぇだろバーカ」

アマデウス【♣3】
「人の親切はありがたく受け取っておくもんだけどねぇ」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「そうかよ、なら、おれっちが最大の親切をくれてやるよ敗戦野郎!」
「てめぇの数字もそこの大魔導師サマとほとんど変わらねぇから、チェンジしろよ」

アマデウス【♣3】
「……あいや、そうかい。それは一大事だ」

アマデウス【♣3】
「その親切、ありがたく受け取るとしようかね――チェンジ!」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「ッ!」

アマデウス【-】
「チェンジを宣言したカードは見てよかったんだよねぇ」

アマデウス【-】
「……『3』か。どうもありがとう、ピーキー・ピーキー」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「ドウイタシマシテ」

アマデウス【-】
「ドロー!」

アマデウス【♣12】
「……少しは表情に変化を出してくれるかと期待したんだが……そんなに都合よくはいかないか」
「それで、あっしはお前さんの親切に応えたわけだが、そっちは……どうだい?」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「言ってろ」

ヨハネス【♠6】
「チェンジ!」

おはぎ【♦5】
「え、急に?」

ヨハネス【-】
「急じゃないですよ。皆さんの言葉や目線の動きで自分の札では勝てないと判断したので……」
「ほら『6』。これじゃあ勝てない」

おはぎ【♦5】
「いや、でも真ん中くらいには――あ!」

ヨハネス【-】
「ハハッ! おはぎさんって、なかなか食えない人ですね」
「ぼくは勝つためにこのゲームに参加したんです。真ん中なんていりません」
「……ところで、引く前に山札をシャッフルしてもいいですか?」

イーリー【♥10】
「問題ない」

ヨハネス【-】
「ありがとうございます。では――シャッフル!」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「長ぇよ!」

アマデウス【♣12】
「確かに、15秒からしたら長いかもしれないねぇ……」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「今度15秒って言ったらガチで細切れにするからな……!」

ヨハネス【-】
「お時間おかけして申し訳ございません。そして、ありがとうございます。では――ドロー!」

 

★ ★ ★ ★ ★

 

おはぎ
 ヨハネスさんが交換したカードは【9】。
 元々【6】だったから数字自体は高くなったものの、【12】のアマデウスさんを頂点として、【10】のイーリーさんと【3】のピーキー・ピーキーさんの間、という順位自体は変わらない。私の数字は判らないが、それを入れたところで最高3位だ。

ヨハネス【♠9】
「……うん。どうやら、さっきよりは良さそうだ」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「……」

アマデウス【♣12】
「それで、だ。天邪鬼は放っておくとして、お前さんはどうすんだい、イーリー・チシル?」

イーリー【♥10】
「そうだな……少し、考えるとするさ」

アマデウス【♣12】
「時間は有限だ。後悔のない選択を」

イーリー【♥10】
「ああ」
「なかなか……」
「(小声)ハートのビートをブーストさせてくれるじゃねぇか。このビースト共」

ヨハネス【♠9】
「……え?」

イーリー【♥10】
「え?」

ヨハネス【♠9】
「いや……え? 今何て言いました?」

イーリー【♥10】
「は? 別に何も言ってねぇけど?」

ヨハネス【♠9】
「…… 『ハートのビートをブーストさせてくれるじゃねぇか。このビースト共』」
「とか言ってませんでした?」

イーリー【♥10】
「……いや?」
「なにそれ? そんな風に言ったこと生まれて1度もないけどね」

ヨハネス【♠9】
「いや、つい今、言いましたよ。ね、ケイミーも聞いてたよね」

ヨハネス(ケイミー)
『うん。ラップを始めて4日目のロナルドかと思った』

イーリー【♥10】
「誰だよロナルド」

ヨハネス【♠9】
「友達です」

イーリー【♥10】
「知らんし。そもそも第二人格の証言は証拠になんねぇよ。」
「っていうか言ってねぇし」

ヨハネス【♠9】
「え、もしかして……カッコつけたんですか?」

イーリー【♥10】
「はァ? カッコつける? 師匠(オレ)が?」

ヨハネス【♠9】
「はい」

イーリー【♥10】
「1000人以上の弟子を抱える大魔導師の師匠(オレ)が?」

ヨハネス【♠9】
「はい」

イーリー【♥10】
「……ないないない」
「ないないないないない! そんなわけないだろ。はァ!? っていうか、それ、カッコいいの?」

ヨハネス【♠9】
「……カッコいいかと問われると、ぼく個人のセンスとしては、ナシかな……って」

イーリー【♥10】
「ぐッ……!」

ヨハネス【♠9】
「それよりも、普段からこういうこと言う人なのかな、と気になったから聞いてみたんですけど」

イーリー【♥10】
「何度も言うけど、そもそも言ってねぇからな。マジ幻聴勘弁してくれよ。夢の国の王様よ。陽気に踊らすぞ」

おはぎ【♦5】
「ジャンボリ?」

アマデウス【♣12】
「なんだい、ジャンボリって?」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「――つーか、そんなのどうでもよくねぇか?」
「もし言ってたんだとして、それがどうしたよ? ゲームに関係ないだろ?」

イーリー【♥10】
「そうだ! よく言ったぞピーキー・ピーキー! 前からお前はよく言う子だと思ってた! 弟子にしてやる!」
「言ってたとして、何か問題あんのかよぉ? ゲームに関係ねぇだろうがよぉ!」
「……いや、師匠(オレ)は、言ってないけどね」

ヨハネス【♠9】
「そこなんですよ」

アマデウス【♣12】
「と言うと?」

ヨハネス【♠9】
「普通に『ハートのビートをブーストさせてくれるじゃねぇか。このビースト共、と言った』と言ってくれれば、それで終わったのに『言ってない』って言い張るから」
「あれ、これもしかしてカッコつけたのかな、と」
「やりにいってハズしたのかな、と思って」

イーリー【♥10】
「言い張るって言うか、実際言ってないからね! 師匠(オレ)こんな嘘つかねぇし。オナラしたら正直にオナラしたって言うタイプだし!」

ヨハネス【♠9】
「別に口からハービーブービー出したことが悪いって言ってるわけじゃないんですよ。そういうのを普段から言う人もいますし。ぼくの国にも少なからずいますし。彼らは彼らで芯が通っているから、様になっているし、逆にカッコいいですから」
「ただ、それが普段からじゃなくて、今カッコつけるために吐いた言葉だった場合……ねぇ?」

イーリー【♥10】
「なんだ『ねぇ』って」

ヨハネス【♠9】
「何て言うか――惨敗したけどナイスガッツっていうか」
「うん! チシルさん、ナイスガッツ!」

イーリー【♥10】
「惨敗してねぇし! っていうか言ってねぇし!」

ヨハネス【♠9】
「ぼくのほかにハービーブービー聞いた人いませんか?」

イーリー【♥10】
「性格悪いぞお前!」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「おれっちは聞いてねぇ。あと、弟子にもならねぇ」

おはぎ【♦5】
「残念ながら私も」

イーリー【♥10】
「ほら! ほらほらほら! 聞こえてねぇだろ! そりゃあそうだよ言ってねぇんだから!」
「はい、この話は終了! ていうか、お前、このゲーム終わったら耳鼻科いけよ!」

アマデウス【♣12】
「……少し言いづらいんだが」

イーリー【♥10】
「……あ?」

アマデウス【♣12】
「あっしにも、聞こえたし、実際見ていた」
「お前さん――イーリー・チシルが『ハートのビートをブーストさせてくれるじゃねぇか。このビースト共』と言うのを」

イーリー【♥10】
「何見てんだ殺すぞ」

おはぎ【♦5】
「怖っ!」

イーリー【♥10】
「ああ、言ったよ。言いましたよ! え、何ですか? あれは呪いの言葉だったんですか?」
「お前ら言葉狩りですか? 言論弾圧(げんろん・だんあつ)団体ですか? ああ、やンのね! 殺し合いね! ――こいこいこいこいこい!」

ヨハネス【♠9】
「いや、だから。別に責めては――」

イーリー【♥10】
「うるせぇ、やンだろ? やるってことだろ! こいこいこいこいこいこい!」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「いや、テメェがこいよ」

イーリー【♥10】
「おう、15秒。まずお前がやんのね。こいこいこいこいこいこい!」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「……喧嘩を売ったのはテメェだ。後悔すんなよ、ロートル!」

イーリー【♥10】
「上等だ! 大魔導師ナメんなよ、ハナタレ!」

ヨハネス【♠9】
「ごめんなさい!」

アマデウス【♣12】
「おいおい」

ヨハネス【♠9】
「こんなつもりじゃなかったんです!」
「自分の数字を推理するため、皆さんの反応を見るために、仕掛けただけだったんです!」
「こんな空気になるなんて思ってなくて……ごめんなさい! ――ごめんなさい!」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「(ため息)別にテメェが謝る必要はねぇし……本当にやるわけねぇだろ。なぁ、魔導師」

イーリー【♥10】
「……」

ヨハネス【♠9】
「チシルさん……」

イーリー【♥10】
「(ため息)あいつの言うとおりだ。戦ったりなんてしねぇよ。ただ……我ながらムキになりすぎた。……すまねぇな、変な感じにして」

ヨハネス【♠9】
「チシルさん……!」

おはぎ【♦5】
「……は?」

アマデウス【♣12】
「ん?」

おはぎ【♦5】
「すまねぇな、じゃないでしょ」

ヨハネス【♠9】
「おはぎさん?」

おはぎ【♦5】
「相手が『ごめんなさい』って言ってるんですから、同じように『ごめんなさい』もしくは、『申し訳ございませんでした』でしょ」

イーリー【♥10】
「え、あ、えっと……申し訳ございませんでした」

おはぎ【♦5】
「もっとちゃんと頭を下げて」

イーリー【♥10】
「申し訳ございませんでした」

おはぎ【♦5】
「声が小さい」

イーリー【♥10】
「申し訳ございませんでした!」

おはぎ【♦5】
「いいでしょう。許してあげましょう」

イーリー【♥10】
「……なんか、おかしい気がする」

おはぎ【♦5】
「気のせいですよ」 

ヨハネス【♠9】
「……いいよね、ケイミー」

ヨハネス(ケイミー)
『ヨハンが決めたことだもん。そこに間違いはないよ』

ヨハネス【♠9】
「ハハッ! ありがとう」

――ヨハネス、カードをテーブルに伏せる。

ヨハネス【♠9】
「――フォールド!」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「フォールドだァ!?」

アマデウス【♣12】
「降りるのかい?」

ヨハネス
「はい。先ほどのやり取りのおかげで、この数字でも勝つことができないと判断できました。なので、少しでも順位を高く保つために、ぼくはこの勝負――降ります」

イーリー【♥10】
「……あの謝罪も判断材料にしてたのか」

ヨハネス
「すみません」

イーリー【♥10】
「お互い様だ。気にすんな」

ヨハネス
「ありがとうございます。ゲームを降りたので、カードは見てもいいんですよね」

イーリー【♥10】
「ああ」

ヨハネス
「……『9』か。うん……」

イーリー【♥10】
「……フォールドは敗北宣言じゃない。自分と周りを冷静に見つめることのできる、強い者しかできない選択だ」
「胸を張れ。ヨハネス・バルトロ12世。――お前は強かった」

ヨハネス
「……ハハッ! 知ってます。この中で僕は2位ですから」

おはぎ【♦5】
「あ、そうか。最初にフォールドしたから2位になるのか」

イーリー【♥10】
「そういうことだ。今言ったとおり、フォールドは敗北宣言じゃねぇからな――どうする? お前も降りるか?」

おはぎ【♦5】
「それもいいかもしれませんが……その前にひとつ、イーリーさんにお願いがあるんです」

イーリー【♥10】
「お願い?」

おはぎ【♦5】
「この中で、現在最も強い数字を持っているのはイーリーさんです」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「……」

イーリー【♥10】
「先ほど3人から、弱い手だからチェンジしたほうが良いと言われたが?」

おはぎ【♦5】
「あれは嘘ですよ。っていうか、気付いてたでしょ?」

イーリー【♥10】
「なんとなく、な。……それで?」

おはぎ【♦5】
「ですから、このゲーム――降りていただけないでしょうか?」

 

★ ★ ★ ★ ☆

 

ピーキー・ピーキー
 おはぎのブッこみを、イーリー・チシルは笑顔で迎えた。
 イーリーの数字は【10】。強い数字ではあるものの、決して一番強い数字ではない。
 敗戦野郎は【12】だし、おれっちの数字はおそらくそれよりも上だ。
 おはぎは【5】で確かにイーリーよりは弱いものの、自分でそれが見えるわけないので、奴が見えている中ではイーリーの数字が一番弱い数字といって間違いないだろう。
 つまり、ブラフだ。

イーリー【♥10】
「一番強いから降りてくれ……か」
「捻(ひね)りなしでぶっこんできたのはいいが、そんな『願い』が通るとでも?」

おはぎ【♦5】
「もちろん、タダでとは言いません」

イーリー【♥10】
「交換条件か。何だ、話してみろ」

おはぎ【♦5】
「その前に……イーリーさんは私の初戦見ましたか?」

イーリー【♥10】
「初戦? ウルフズ・ベインとの試合のことか?」

おはぎ【♦5】
「はい」

イーリー【♥10】
「悪いな。その時は野暮(やぼ)用があって、見てねぇわ」

おはぎ【♦5】
「別に悪くはないですよ。……じゃあ、説明しますね。」
「私は、大昔にイーリーさんが封印した魔神――冥王(めいおう)グラボロスの現マスターです」

イーリー【♥10】
「冥王グラボロス……だと……!? それは本当か?」

おはぎ【♦5】
「はい。とあるルートから入手した冥王の封印石の封印を解き、調伏(ちょうぶく)の儀によって、マスターとなりました」

イーリー【♥10】
「……あの封印を解くには、原始(げんし)魔法の理解が。調伏の儀を成功させるためには、冥王を倒すだけの力がなければならないはず」
「それを、お前が?」
「……」
「……それを、お前が?」

おはぎ【♦5】
「なんで2回言ったんですか?」

イーリー【♥10】
「いや、なんか、そんな風に見えないから」

おはぎ【♦5】
「普通に失礼」

イーリー【♥10】
「だって……」

ヨハネス
「おはぎさんの言ってることは事実です」

イーリー【♥10】
「バルトロ12世」

ヨハネス
「ぼくは試合を見ました。その時召喚された魔神は、確かに冥王グラボロスでした」

おはぎ【♦5】
「あ、良かった。証言者いた。他に見てた人はいませんか?」

アマデウス【♣12】
「あっしも見た。確かにべらぼうに強い魔神を使ってはいたが……それが何故、冥王グラボロスだと?」

ヨハネス
「ああ、それは……」

イーリー【♥10】
「昔、師匠(オレ)と共に冥王を封印したのが、お前の5代前――ヨハネス・バルトロ7世だったから……だろう?」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「ヨハネス・バルトロとイーリー・チシルの2人がかりで封印した魔神だと!?」

イーリー【♥10】
「正確にはあと1人いたけどな。と、そういうことだろう12世」

ヨハネス
「はい。画家としても名を上げた7世。彼が残した資料に描かれた『冥王グラボロス』。おはぎさんが召喚した魔神は、その資料に描かれた姿そのものでしたので」

イーリー【♥10】
「……あいつの描いた冥王の特徴と一致していたのなら、疑う余地はねぇか」
「それで、おはぎ」

おはぎ【♦5】
「はい」

イーリー【♥10】
「お前が冥王グラボロスの現マスターだということは判った。で、それが、どうした?」

おはぎ【♦5】
「はい。ここからが重要なんですが、もし、イーリーさんがこのゲームを降りていただければ」
「イーリーさんの前で、冥王を召喚しないことを誓います」

イーリー【♥10】
「ゲームを降りれば冥王を召喚しない?」

おはぎ【♦5】
「はい」

イーリー【♥10】
「詳しく説明しろ」

おはぎ【♦5】
「実は、私がこの大会に参加したのって、冥王から『イーリーを全力で滅(めっ)したい。エクレアおごるから大会に参加してくれ』と土下座でお願いされちゃったからなんですよ」

イーリー【♥10】
「滅すって……あいつは、そんなに師匠(オレ)のこと恨んでんのか?」

おはぎ【♦5】
「そりゃあもう、ぞっこんに」
「名前見ただけで、目は血走り、額には迷路みたいな青筋が浮かんでましたよ。あと、小声で『滅す』って何度も呟いてたし」

イーリー【♥10】
「……あの時」
「あの時、ミニマリストに憧れなければ……!」

ヨハネス
「へ? ミニマリスト?」

イーリー【♥10】
「いや、なんでもない。こっちの話だ」

おはぎ【♦5】
「イーリーさんが試合に負けて、対戦が叶わなくなったと知ったときなんて、ヒドいもんでしたよ。『ではもうルールに従う必要はないな』とイーリーさんの控え室に向かおうとしてましたから。モテモテですね☆」

イーリー【♥10】
「はは、笑えねえ」

おはぎ【♦5】
「そのせいで、こちらの初戦はボロボロです」

イーリー【♥10】
「ボロボロ?」

おはぎ【♦5】
「冥王が鬱憤(うっぷん)を晴らすように魔法使うもんだから、その衝撃波で私吹き飛ばされて、結果、場外負けっていうね」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「……アホなのか?」

おはぎ【♦5】
「15秒だけにはイジられたくなかった!」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「おれっちも、テメェにはイジられたくねぇ!」

おはぎ【♦5】
「気が合いますね。イースタやってますか? 私をフォローして、フォロワーになってよ」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「やってねぇし。やっててもテメェをフォローはしない」

おはぎ【♦5】
「またしても気が合いましたね。私もやってないんです」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「テメェ何が言いたいんだよ!」

おはぎ【♦5】
「え、無粋(ぶすい)なイジりを入れてきたのはそっちなのに? まぁいいや。イーリーさん」

イーリー【♥10】
「なんだ」

おはぎ【♦5】
「私は冥王の味方であり、冥王は、私の味方なんです」
「私はね、イーリーさん。私の味方の願いは、できるだけ応えてあげたいと思ってるんですよ」

イーリー【♥10】
「――調子に乗るなよモブ面」
「3人がかりとは言え、未熟な頃に封印した魔神に、今の師匠(オレ)が負けるとでも?」

おはぎ【♦5】
「……万全のイーリーさんならば、正直判りません」

イーリー【♥10】
「……」

おはぎ【♦5】
「ただ、その『今』の、イーリーさんではどうでしょうか」

イーリー【♥10】
「……何?」

アマデウス【♣12】
「どういうことだい?」

おはぎ【♦5】
「先ほど、イーリーさんは、野暮用で私の試合は見なかった、と言ってましたよね」

イーリー【♥10】
「それが、なんだ」

おはぎ【♦5】
「その野暮用って、医務室で手当てを受けていた、ってことですよね?」

イーリー【♥10】
「……違う」

おはぎ【♦5】
「すごい闘いでしたもんね」
「どっちかが。いや、どっちも死んでもおかしくないくらいに」

イーリー【♥10】
「……」

おはぎ【♦5】
「実はそこに座っているのだって……ギリギリだったりして?」

イーリー【♥10】
「……」

おはぎ【♦5】
「そんな、数時間前に激しい死闘を繰り広げた『今』のイーリーさんと、大して戦わず試合を後にした『今』の私と冥王グラボロス」
「その状態で戦ったとき――果たして勝つのはどっちだと思いますか?」

イーリー【♥10】
「……師匠(オレ)を、脅してんのか?」

おはぎ【♦5】
「いいえ。言いましたよね。『お願い』だって」

イーリー【♥10】
「……」

おはぎ【♦5】
「私のお願い、聞いてくれますか?」

イーリー【♥10】
「……万が一、この勝負が流れたとき、お前はまた、同じ『お願い』をしてくるか?」

おはぎ【♦5】
「まさか。今回限りです」

おはぎ【♦5】
「これでも、大魔女バニラ・アンブローシアの元弟子ですからね。そんな仁義のないことはしませんよ」

イーリー【♥10】
「……シャーロットと同門――あの狐(きつね)の門下だったか。どうりで、強(したた)かなはずだ」

おはぎ【♦5】
「破門されたので、元、ですけどね」

イーリー【♥10】
「……判った」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「ッ!」

イーリー【♥10】
「……だが、さっきも言ったようにフォールドは敗北じゃない。敗北じゃないからな!」

おはぎ【♦5】
「はいはい。それくらい判ってますよ」

イーリー【♥10】
「……師匠(オレ)、お前苦手だわ」

おはぎ【♦5】
「昔、バニラ様のご友人にも同じこと言われました」

イーリー【♥10】
「……」

イーリー【♥10】
「………………フォールド」

 

★ ☆ ★ ★ ☆

 

ヨハネス
 チシルさんがフォールドし、残りは3人となった。
 最も強い数字を所持しているのは【12】のアマデウスさん。
 だが、【5】のおはぎさんと【3】のピーキー・ピーキーさんも、チェンジが残っているので、まだ逆転の目はある。

アマデウス【♣12】
「まさか、お前さんがイーリー・チシルを落とすとはねぇ」

おはぎ【♦5】
「人聞きの悪い言い方しないでくださいよ。それよりも――アマデウスさんはフォールドしないんですか?」

アマデウス【♣12】
「というと?」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「確かになァ。敗戦野郎はどうせ今回も負けるわけだし、その前にゲームを降りたらどうだ?」

アマデウス【♣12】
「言うねぇ。じゃあ聞こうか。どんな根拠があってあっしが今回も負けると?」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「だってそうだろ? あ、そうか。自分では見えねぇから自覚がねぇか。仕方ねぇからおれっちが特別に教えてやるよ! テメェの数字は『5』より小さい!」
「1度交換したから、もう交換もできねぇし、勝ち目がねぇんだよ! なァ、魔神使い」

おはぎ【♦5】
「……」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「なァ! 魔神使い!」

おはぎ【♦5】
「あ、魔神使いって私のことですか? うん。フォールドしたほうがいいと思います」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「聞いたか? さっさとフォールドして、ビリから逃れるのが得策だぜ!」

アマデウス【♣12】
「名前の通りキーキーわめくじゃないか、ピーキー・ピーキー。竜人と聞いていたが、エテ公の間違いだったかねぇ?」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「ンだと、この敗戦野郎!」

おはぎ【♦5】
「ちょっと待って下さい」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「あ゛ァ?」

おはぎ【♦5】
「さっきアマデウスさんの数字が『5』より小さいって言ってませんでした?」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「ん……ああ、それが(どうした)」

おはぎ【♦5】
「(被せて)それって、私の数字が『5』。もしくは『6』ってことじゃありません?」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「……え」

おはぎ【♦5】
「……」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「い、いや~、そういうことじゃないと思うけどな~」

おはぎ【♦5】
「思う?」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「いや、違う! じゃない! そういうことじゃない! あれはただの例!」
「テメェの数字はもっと上! 『13』! じゅうさん!!!」

おはぎ【♦5】
「へぇ~」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「本当だから! 『5』じゃないから!」

おはぎ【♦5】
「本当ですか?」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「本当!」

おはぎ【♦5】
「嘘じゃありませんか?」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「嘘じゃない!」

おはぎ【♦5】
「じゃあ、嘘だったら罰金として7万マダルですね」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「それズルイだろ!」

おはぎ【♦5】
「はい。『5』で確定しました。ありがとうございます」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「なんでだ!」

イーリー
「……ハタから見てたらお前が1番の『なんでだ』だけどな」

ヨハネス(ケイミー)
『ヨハン、あの人バカなの?』

ヨハネス
「違うよケイミー。ちょっとアンポンタンなだけさ」 

アマデウス【♣12】
「天然はおいといて」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「誰が天然だ!」

アマデウス【♣12】
「確かお前さんはまだだったよねぇ。するんだろう? カードのチェンジ」

おはぎ【♦5】
「チェンジですか? あ、はい。やりません」

アマデウス【♣12】
「やらない?」

おはぎ【♦5】
「『5』なんですよね。ならやる必要ないじゃないですか。だって、それなら普通に勝てるし」

アマデウス【♣12】
「……揺さぶってくるねぇ」

おはぎ【♦5】
「いや、揺さぶりって言うか、本心ですよ? どうします? もうそろそろ時間もあれですし、ラストフェイズに移りたいんですけど……その前にチェンジやフォールドします?」

アマデウス【♣12】
「……お前さんもチェンジはまだだったんじゃ?」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「おれっちもチェンジは無しでいい。最初の札で勝ってこそ真の勇者だからな!」

アマデウス【♣12】
「……傲慢だねぇ」

おはぎ【♦5】
「じゃあ、ラストフェイズ?」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「そうだな。と、その前に最後のチャンスだ敗戦野郎」

アマデウス【♣12】
「チャンス?」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「ゲームを降りろ。テメェじゃ勝てねぇ」

アマデウス【♣12】
「何を……」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「テメェ今までずっと負け続けてきたんだよな」

アマデウス【♣12】
「そうだねぇ。0勝(しょう)2823敗(はい)178分(わけ)、我ながらイカした戦績さ」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「なのに、今回は勝てる。そんな夢見てんのか?」

アマデウス【♣12】
「……」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「それに――もし、万が一。いや、億が一、この勝負に勝ったとして……テメェはそれでいいのか?」

アマデウス【♣12】
「……それでいい?」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「そんな3000回近くも敗戦を重ねてきて辿りついたモノが、こんなチンケなゲームのつまらない1勝でいいのか、って聞いてんだよ」

アマデウス【♣12】
「つまらない……ねぇ」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「悪いが、これが記念すべき勝利にふさわしいものとは、思えねぇ」
「優しさで言ってやってんだ。さっきと同じようにな」
「ゲームを降りろ、アマデウス・レプター」

アマデウス【♣12】
「へへっ、へへへ、へへへへ――はははははは――!」

おはぎ【♦5】
「……」

アマデウス【♣12】
「ほざきやがれ」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「あ?」

アマデウス【♣12】
「ヨハネス・バルトロ12世――傭兵(ようへい)国『バルトロ』において、最強の名『ヨハネス・バルトロ』を継いだ、呪詛(じゅそ)魔法のエキスパート」

ヨハネス
「……」

アマデウス【♣12】
「イーリー・チシル――高名な魔導師を何百と育て上げた、伝説の魔導師」

イーリー
「……」

アマデウス【♣12】
「おはぎ――神話級の魔神を使役する、底知れぬ力を持った召喚師」

おはぎ【♦5】
「……」

アマデウス【♣12】
「そして、ピーキー・ピーキー――4000年にひとりと称される、竜人族の若き戦(いくさ)の天才」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「……」

アマデウス【♣12】
「カードゲームだろうとなんだろうと、こんな怪物たちを相手に収めた勝利がつまらないものなわけ、ないだろう?」
「それと……お前さんに聞きてぇことがある」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「ンだよ」

アマデウス【♣12】
「あっしが頷(うなず)くと思ったのかい?」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「あ?」

アマデウス【♣12】
「大人しくフォールドすると思ったのかい? 勝利を捨てると、本気で思っていたのかい?」
「だとしたら――見くびってんじゃねェよ、小童(こわっぱ)」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「……」

アマデウス【♣12】
「あっしはねぇ、今まで一度として思ったことがないんだよ」
「どんな小さな勝負でも『負けていい』なんて思ったことは――たったの一度もないんだよ!」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「――ッ!」

アマデウス【♣12】
「喉から手が出るほど、全身の毛穴から血が噴き出るほど欲しいんだよ」
「何をしても、何を捨てても欲しいんだよ! 勝利が!」

イーリー
「……!」

アマデウス【♣12】
「ずっと、ずっと、ずっと求め続けたんだ! 何度も手が届きかけて、何度も涙を流して、やがて涙も枯れて――それでも、それでも恋焦がれたんだよ! 焦がれちまったんだよ! この気持ちが、お前さんに判るか!?」
「なぁ、くれよ」

ヨハネス
「……」

アマデウス【♣12】
「いらないんだったら、くれよ。この哀れな敗戦野郎に。テメェら怪物が『つまらない』と吐き捨てた――その勝ち星をよォ……!」

おはぎ【♦5】
「これは、魔力……じゃないか」

イーリー
「ただの気迫だな」

ヨハネス
「気迫でこれって……十分、怪物じゃないですか」

イーリー
「キュンさせてくれるじゃねぇか。まったく」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「……つまらない1勝と言ったことは取り消す。――必要ならば、後で正式な謝罪もする」
「のらりくらり眠てェ奴だと思っていたが、勘違いだった。そして、ようやく面白くなってきた!」
「おれっちは勝つ! テメェを倒して、最強の称号を手に入れる!」

おはぎ【♦5】
「じゃあ、ラストに移っても?」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「ああ! 決着をつけようぜ! 負け犬共(アンダードッグス)!」

アマデウス【♣12】
「フォールド!」

イーリー
「は?」

ヨハネス
「は?」

おはぎ【♦5】
「は?」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「ハァァァァァァ!??」

イーリー
「降りるのか?」

アマデウス
「時間切れだったかい?」

イーリー
「いや。だが、いいのか?」

アマデウス
「ああ」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「ちょっと待て!」

アマデウス
「何だ?」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「何だ、じゃなくて、は? え、テメェ何なの?」

アマデウス
「勝負には流れがあり、勝負師は、それを見極めることが大切だ」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「で?」

アマデウス
「チュートリアルを含めて、あっしが今回引いた数字は『3』『2』『3』」
「これはダメだ。どう見ても流れが来ていない。どうやら今日は、そんな日なのさ」
「そんな日だからねぇ、今持っているこの数字も同様に低いに決まっている……だろ?」
「ならば、最下位にならないために、フォールドするのは自明(じめい)の理(り)というわけさ」

おはぎ【♦5】
「じゃあ、さっきの威勢がいいやつは?」

アマデウス
「それは何か……ノリ? ノリっていうやつかい?」

ヨハネス
「いや、ぼくに聞かれても……」

アマデウス
「まぁ、そういう勢いで言っちまったのさ」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「こいつ……!」

アマデウス
「さて、ゲームを降りたから、数字は見てもいいんだよねぇ?」

イーリー
「……ああ」

アマデウス
「どれどれ、っと――は?」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「……バカが」

アマデウス
「『12』?」

おはぎ【♦5】
「残念でしたね」

アマデウス
「残念、か……へへっ。やっちまったなぁ」
「……また、しくっちまったなぁ」

ヨハネス(ケイミー)
『ヨハン、あの人』

ヨハネス
「うん。レプターさんは途轍(とてつ)もなく……勘が悪い」

 

☆ ☆ ★ ★ ☆

 

イーリー
 残りはふたり。
 【5】のおはぎと【3】のピーキー・ピーキー。
 このままおはぎが勝つか、それともどちらかが、もしくはどららもチェンジして別の結果になるか……。

ピーキー・ピーキー【♠3】
「残りは、テメェだけか」

おはぎ【♦5】
「ですね。もう1度聞きますけど、どうします? カードをチェンジしますか?」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「しねぇ」

おはぎ【♦5】
「フォールドは?」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「もっとしねぇ!」

おはぎ【♦5】
「でも、それだと、普通に私に負けるだけですよ?」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「ハッ、判ってんだよ」

おはぎ【♦5】
「何がですか?」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「それがテメェの手だ」

おはぎ【♦5】
「はい?」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「ハッタリで、自分より数字の強い相手をチェンジやフォールドに追い込む。さっきの敗戦野郎の時みたいにな!」

おはぎ【♦5】
「いや、どちらかと言うと、それやってたのそちらじゃありませんでした?」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「おれっちはお前の作戦に乗ってやったに過ぎねぇよ。」
「あと、魔導師に話したあの冥王うんぬんの話も……ブラフなんだろ?」

イーリー
「え、嘘だったのか?」

おはぎ【♦5】
「嘘じゃないですよ。ややこしいこと言わないで下さい。……ていうか、チェンジに促(うなが)すのは理屈としてまだ判りますけど、この場面でフォールドに促すのは意味判らないでしょう」
「どっちがフォールドしてもゲームは流れて仕切り直しになるだけなんですから」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「どうかな」

おはぎ【♦5】
「どうかな?」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「もし数字で勝っていたにも関わらず、自らフォールドでゲームを流してしまったとき、そいつは精神的なダメージを負うことになる」

おはぎ【♦5】
「……」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「そして、そんな状況に追い込むことに成功したテメェは、他のプレイヤーよりも精神的に優位な立場に立てるってわけだ」

おはぎ【♦5】
「……」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「相手がチェンジをして、その数字が自分の『5』よりも低くなれば万々歳(ばんばんざい)。そうでなくても、フォールドを取れれば、それはそれで上出来。そんな風に考えてんだろう?」

おはぎ【♦5】
「考えてないし、考えすぎですよ。そして普通にもう『5』って言っちゃうんですね」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「取り繕(つくろ)っても仕方ねぇからな」

おはぎ【♦5】
「じゃあ、ピーキー・ピーキーさんはこのままでいいんですね?」
「チェンジもフォールドもしないでラストフェイズに移っていいんですね?」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「ああ。さっきからそう言ってる」

おはぎ【♦5】
「……じゃあ、そうだ。皆さんはどう思いますか?」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「あぁん?」

イーリー
「……師匠(オレ)らの意見を言ってもいいのか?」

おはぎ【♦5】
「はい、どうぞ」

イーリー
「……ピーキー・ピーキー」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「なんだ」

イーリー
「悪いことは言わねぇ。フォールドしろ」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「はァ?」

ヨハネス
「ぼくも同じ意見です。ピーキー・ピーキーさん、フォールドしてください」

アマデウス
「左に同じだ。今のお前さんじゃ勝てねぇよ。チェンジもしたくねぇみたいだし、フォールドしな」

おはぎ【♦5】
「ですって。どうします?」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「まったくよぉ」

おはぎ【♦5】
「……」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「そりゃあ、コイツらからしたらそう言うしかないだろうさ。おれっちがフォールドしたら、ゲームが仕切り直しになるんだからなァ!」

ヨハネス
「……ッ!」

おはぎ【♦5】
「では、皆さんの助言は受け入れなくていいと?」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「ああ。決着をつけようぜ。ラストフェイズだ!」

おはぎ【♦5】
「――判りました。では、イーリーさん、セットの宣言を」

イーリー
「……やられたな」
「(ため息)――セット!」

イーリー
「オープンするのはおはぎからだ。自分のタイミングでやれ」

おはぎ【♦5】
「はい」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「ハッ! 顔が青ざめてるんじゃねぇか?」

おはぎ【♦5】
「元々こんな顔色ですよ。じゃあ、いきますね」
「オープン!」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「今、どんな気分だ?」

おはぎ【♦5】
「どんな? いや『5』だなぁって」

ピーキー・ピーキー【♠3】
「この期(ご)に及んでもそのスタンスを崩さないのは褒めてやるよ。次はおれっちが開く番だな」
「(深呼吸)テメェら目に焼き付けろよ。この中の最強が決まる瞬間を……このピーキー・ピーキーの雄姿を!」
「オープン!」
『3』じゃねぇか!」

イーリー
「……そうだよ。『3』なんだよ」

ヨハネス
「だから言ったのに……」

アマデウス
「最後まで、天然だったねぇ」

 

☆ ☆ ★ ☆ ☆

 

おはぎ
「はい、というわけでこの中で一番強いのは――おはぎさんで決定でーす」
「さすがですね。キラリン☆」
「いやぁ、いい勝負でしたね。――じゃあ、閉めましょうか」

ピーキー・ピーキー
「ちょ、ちょっと待て!」

おはぎ
「どうしたんですか? 最下位のひと」

ピーキー・ピーキー
「ぐっ……こんなので!」

おはぎ
「こんなので?」

ピーキー・ピーキー
「こんなので順位を決めるなんておかしいだろ!」

おはぎ
「えぇ、今更? マジで言ってるんですか?」

ピーキー・ピーキー
「マジだ!」

おはぎ
「うわ、目力強っ!」

ピーキー・ピーキー
「おかしいおかしいおかしい! おれっち認めない! みーとーめーなーいー!」

おはぎ
「あのー、誰かこの駄々っ子注意してくれませんか」

ヨハネス
「……」

アマデウス
「……」

イーリー
「……確かに」

おはぎ
「あ、イーリーさんお願いします」

イーリー
「確かに師匠(オレ)たちは、シャーロット杯で自らの力を証明するために集まった実力者だ」

おはぎ
「はぁ」

イーリー
「そんな実力者の順位をただのインディアンポーカーで決めるっていうのは、おかしな話だったな」

おはぎ
「……え?」

イーリー
「こんなカードゲームじゃあ、本当の力は計りきれない!」

おはぎ
「は?」

アマデウス
「ああ。これで勝ったから強いなんて、そんな馬鹿げた話はないよねぇ」

おはぎ
「どういう流れ?」

ヨハネス
「せめて、魔法を使うのがアリのインディアンポーカーだったら話は違うんでしょうけどね」

おはぎ
「……」

イーリー
「それだ! ナイスだ、バルトロ12世。魔法使用可能なインディアンポーカー。それならば、順位を決めるにうってつけだ!」

ピーキー・ピーキー
「ってことは!」

イーリー
「ああ、仕切り直しだ! そうだろ、お前ら!」

ヨハネス
「ハハッ、そうですね!」

アマデウス
「異論なし!」

ヨハネス(ケイミー)
『そうだね!』

ピーキー・ピーキー
「よし。よし! よし! 本当の決着をつけようぜ、もっちゃり野郎!」

おはぎ
「え、嫌ですよ?」

イーリー
「え?」

ヨハネス
「え?」

アマデウス
「え?」

ピーキー・ピーキー
「え?」

おはぎ
「え? 4人とも、どうしてそんな顔ができるんですか?」

ヨハネス
「誰か呪い殺したい人はいませんか? 1度だけならタダで承(うけたまわ)りますよ」

おはぎ
「いません」

アマデウス
「効くと噂の必勝祈願のお守りを――」

おはぎ
「多分その噂、ガセですよ」

イーリー
「仕方ない。弟子にしてやるから、仕切り直しといこうぜ!」

おはぎ
「勘弁してください」

ピーキー・ピーキー
「うるせぇ! やろう!」

おはぎ
「海賊王は船に帰ってください」

おはぎ
「そんなに、やり直したいですか?」

ピーキー・ピーキー
「当たり前だ!」

おはぎ
「ちょっ、近いなぁ……」
「……」
「仕方ありませんね」

アマデウス
「……おや、やってくれんのかい?」

おはぎ
「その前に、ちょっと雑談してもいいですか?」

ヨハネス
「雑談?」

おはぎ
「うちの魔神は、私に心からの頼みごとをするとき、土下座をするんですが」

イーリー
「……師匠(オレ)たちに、土下座しろって言うのか?」

おはぎ
「そんなこと言ってませんよ?」
「土下座なんてしないでいいです」
「言いましたよね。今のはただの雑談です」
「うちの滅茶苦茶強い魔神は、滅茶苦茶強いにも関わらず、私に頼みごとをするとき、土下座をするって、それだけの雑談です」
「ヒザと掌(てのひら)と額(ひたい)を床につけて、『お願いします!』と懇願(こんがん)するって、それだけの雑談です」
「土下座なんて――絶対にしないでいいんですからね?」
「絶対に」
「しないで」
「いいんですからね?」
「ね?」
「絶対に」
「絶対に」
「ね?」

イーリー
「お願いします!」

ヨハネス
「お願いします!」

アマデウス
「お願いします!」

ピーキー・ピーキー
「お願いします!」

おはぎ
「しなくていいって言ってるのにー」
「でも、そこまでされたら仕方ありませんね。いいでしょう。再戦してあげましょう」

おはぎ
「前回私が勝ったので、私が親ですね」

イーリー
「……ああ。さっさと始めようぜ」

ヨハネス
「やっちゃっていいかな、ケイミー」

ヨハネス(ケイミー)
『うん。やっちゃおう、ヨハン』

アマデウス
「今度は、勝つ……!」

ピーキー・ピーキー
「絶対ブチのめしてやる……!」

おはぎ
「何か、みんな目が怖いなぁ」
「あんまり気合入れすぎて、うっかり自滅しないように気をつけて下さいね」 
「――ドロー!」

ピーキー・ピーキー
「ドロー!」

アマデウス
「ドロー!」

イーリー
「ドロー!」

ヨハネス
「ドロー!」

おはぎ
「では、尋常(じんじょう)に――サヴァイブ・オン!」

 

★ ★ ★ ★ ★

 

アマデウス
「アマデウス・レプターだ」
「うちの近くの駄菓子屋に、じゃんけんのメダルゲームがあるんだが……アレ、勝てるやつっているのかねぇ?」
「次回『開始3秒、フォールドおはぎ』」

ピーキー・ピーキー
「いざ、尋常(じんじょう)に、ご照覧(しょうらん)あれ!」