《あらすじ》

 ヴィランは優秀な仲間を求め、その診療所に足を踏み入れる。

〈作・フミクラ〉

 

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《協力》 チャット生成AI & 画像生成AI

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《登場人物紹介》

グラスハンマー

破壊と力を求める野心的なヴィラン。
超人的な筋力を持っており、一撃で建造物を粉砕したり、鋼鉄をへし折ったりするぞ! 強者を求め、それに力で勝利することを至上の喜びとする戦闘狂だ!
15歳の時に両親を亡くし、当時4歳の妹とともに孤児院に入った過去を持つぞ!
男性。

クラウン

高度な戦闘技術と知識を持つ狡猾なヴィラン。
【サーカス】という名の組織に所属し、まだ20代前半でありながら、幾人ものヒーローの前に立ちはだかってきたぞ!
『仲間』と『平等な平和』をこよなく愛するナイスガイだ!
男性。

ナイトメディカ

闇の力を用いた特殊な医療術を用いて仲間を救う、医者のヴィラン。
かつては優れた医師であり、人々の命を救うことに情熱をかけていたが、ある事件によって闇の力に触れ、その力に魅了されてしまったらしいぞ!
性別不詳。


エコーブレイド

音や振動を武器に戦うヒーロー。
かつてはグラスハンマーと同等の実力を持っていたが、現在はそうでもないぞ!
サンバーストも所属するエンバーバーグのガーディアンヒーローのひとりだ!
この話には出てこないぞ!
女性。

 

《前作紹介》

 

 

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《 本文 》

 

クラウン
 ナイトメディカという名は知っていた。
 姑息(こそく)な手段でアークの新人ヒーローを貶(おとし)めようとしたものの、逆に炎上してしまったぽっと出のケチなヴィラン。
 それが世間一般の評価。
 オイラもその程度の認識しかなかったが……情報屋『バッドスクリプト』によると、そのケチなヴィランは、戦闘力はからっきしではあるものの、他者のどんな怪我でもたちまちのうちに回復させる能力をもっているらしい。
 しかも、その力は控えめに言っても合衆国のヴィランの中でナンバーワンとのこと。
 面白い、と思った。
 強い奴はいくらでもいる。だが、他人を回復させる奴は今まで見たことがない。
 しかもそれがトップクラスの力というのがまたいい。
「メンバーに欲しいなぁ」
 ナイトメディカの居場所を調べ、つきとめ、そのアジトである診療所に足を運んだ。
 すると――

ナイトメディカ
「小麦の種子(しゅし)を買ってきて下さい。詳しい話はそれからです」

クラウン
 突然、買い物を頼まれた。一旦話を合わせて様子を見ることにする。
「小麦の種子(すす)って……どごに売っでるんですか?」

ナイトメディカ
「それを調べるのも含めておつかいですよ」

クラウン
「……わがりますた。あ、でもその前に……心ばかりのものですが、お受け取りください」

ナイトメディカ
「これは……『パティスリーパラダイス』のフルーツタルト」

クラウン
「お医者先生がお好きだとお聞(ぎ)ぎすますて」

ナイトメディカ
「何をそんなところに突っ立っているんですか。腕を怪我しているんですよね? 一刻も早く診察室に」

クラウン
「小麦のすすは?」

ナイトメディカ
「なんですか、それ?」

クラウン
 訳が判らないが、まぁいい。
 ナイトメディカがこちらに背を向ける。
 オイラは素早くジャケットの内ポケットから愛用のバタフライナイフを取り出し、相手の背中に突き立てる。

ナイトメディカ
「ダークバリア」

クラウン
 刃が相手に届く前に、見えない壁がナイフを止めた。
 戦闘力はからっきしと聞いていたが、この程度の攻撃なら捌(さば)けるか。
「安心(あんすん)すますた。実(づつ)は――」
 オイラがナイフを懐(ふところ)に戻し、本題を口にしかけたところで、
「っ――!?」
 右肩を激痛が襲った。
 手からナイフが滑り落ちる。
 それを見送る間もなく、全身に痛みが撃ち込まれる。
 いつの間にかこちらを向いて銃を構えている医者のヴィランによって。
「戦闘(せんどう)はからっぎすだって……」

ナイトメディカ
「ええ。ですから、銃に頼っているんですよ? ああ、安心してください。ゴム弾なんで死ぬことはないですしナイトメディカの名にかけて死なせません。ただ――死ぬほど痛いので覚悟して下さい」

クラウン
「ちょ、まっで――!」
 オイラの声など気に留める素振りもなく、引き金が引かれる。
 何度も何度も。
 硝煙で前が見えなくなるほど。
 銃声が重なって聞こえるほど。
 容赦のない銃弾の雨を浴びて、オイラはやがて気を失った。

 

   ▽

 

クラウン
「――んがっ! ん? こごは……?」

ナイトメディカ
「おはようございます」

クラウン
「ナイトメディカ――!」

ナイトメディカ
「会って間もなくで呼び捨てとは、フレンドリーですね」

クラウン
「っ!? 手錠!?」

ナイトメディカ
「暴れられても迷惑なので、拘束させてもらいました。それで、君の目的はなんですか? あるんですよね、目的」

クラウン
「その前に、この拘束(こうそぐ)を解いでもらうこどは」

ナイトメディカ
「刃物をぶんぶん振り回す相手と膝を突き合わせて談笑できるほど、僕は大物でも馬鹿でもありません」

クラウン
「すみませんですた。えっど……」
「ナイトメディカ先生の力を見込(みご)んで、お願いすます。オイラたつのチームに入っでください!」

 

――グラスハンマー、隣のベッドから。

 

グラスハンマー
「なんだ、チームって」

クラウン
「グラスハンマー!!? ほ、本物ですか!?」

グラスハンマー
「本物だが……なんだ? 俺の偽者でも出たのか?」

クラウン
「めっそうもありません!」

ナイトメディカ
「何が?」

クラウン
「オイラ、クラウンといいます! ケチなヴィランをやっどります! 握手をすても、いや、サインをいただいてもよろしいでしょうか」

グラスハンマー
「俺らは同じヴィラン。いわば同業だろ? んな相手にサインなんかねだるんじゃねえよ。それに、自分を安く言うのもやめとけ。本当に安くなるぞ」

クラウン
「す、渋(すぶ)い……! これが、トップクラスのヴィラン……!」

ナイトメディカ
「……なんでもいいですけど、チームっていうのは何なんですか?」

クラウン
「あ、そうですた。オイラは『サーカス』つうチームに入っているんですが、ご存知(ぞんず)ありませんか?」

グラスハンマー
「……メディカ、知ってるか?」

ナイトメディカ
「最近よく耳にしますよ。ヒーロー狩りを行っている愚連隊(ぐれんたい)だって」

グラスハンマー
「愚連隊?」

クラウン
「えっど、ナイトメディカ先生。オイラのカバンに今月の『コロラドウォーガー』があるんで、とっでもらっでもええですか?」

ナイトメディカ
「え、嫌です。自分でとってください」

クラウン
「先生の手錠に繋がれだせいでそれがでぎないんですけど!?」

ナイトメディカ
「手のかかる……」

グラスハンマー
「手錠外せばいいんじゃねえか?」

ナイトメディカ
「急に攻撃してくる危険人物じゃなければそれでも良いんですけどね」

グラスハンマー
「流石にもうやらねえだろ。な?」

クラウン
「へ、へい! 勿論(もつろん)です!」

ナイトメディカ
「……少しでも妙な動きをしたら折りたたみますからね。グラスハンマーが」

グラスハンマー
「俺かよ」

クラウン
「へい! 神に誓(つが)っで2度と刃(やいば)は向げません!」

 

――ナイトメディカ、クラウンの手錠を外す。

 

ナイトメディカ
「はい、全部外しましたよ」

クラウン
「ありがとうございます。カバンは……」

ナイトメディカ
「受付前の落し物ボックスに入れてますので、自分でとってきて下さい」

クラウン
「へい!」

 

――クラウン、小走りで病室を出る。

 

グラスハンマー
「……それで、サーカスっていうのはどういう連中なんだ?」

ナイトメディカ
「何で僕に聞くんですか?」

グラスハンマー
「こういうのは当事者よりも、第三者に聞くほうがいいんだよ。ちょっとは知ってんだろ? 教えてくれ」

ナイトメディカ
「……僕も人伝(ひとづた)いで聞いた話なので、詳しくは知らないんですが……何でも、複数人でひとりのヒーローを襲う戦法を得意とする集団らしいです。それでアイアンハートやネイキッドなどのヒーローを引退に追い込んだんだとか」

グラスハンマー
「ヒーローにもヴィランにも、徒党を組んで戦う連中はいるが……お前、そいつらに対して愚連隊なんて言い方したことないよな」

ナイトメディカ
「ああ、それは単純にメンバーのほとんどが10代から20代の若者で、中にはヴィランでもない一般市民――ただの非行少年も含まれているからですよ」

グラスハンマー
「なるほどな……」

クラウン
「お待たせすますた!」

 

――クラウン、カバンを手に病室に戻ると、先ほどまで拘束されていたベッドに腰掛け、カバンの中から1冊の雑誌『コロラドウォーカー』を取り出す。雑誌をめくり、目的のページを発見すると、2人に見えるように開く。

 

クラウン
「こご見てください! 『今、勢(いぎお)いのあるヴィラン組織』第2位――サーカス!!」

ナイトメディカ
「……」

グラスハンマー
「おー」

クラウン
「こんな風にオイラたつのチームはとでも勢(いぎお)いのあるチームで――あれ、どうすたんですかナイトメディカ先生。なんが驚いた顔すでますけど……あ、もすかすて、こんなに勢(いぎお)いがあることを知(す)らなかったとか?」

ナイトメディカ
「いや、こういうのに一喜一憂するヴィランが実際にいるのか、と思いまして」

クラウン
「え?」

ナイトメディカ
「だってそれ見て盛り上がるのってパンピーだけですよね? 実際にヒーローやヴィランが買って読んでるの見たことないですよ」

クラウン
「そ、そんなこどないですよ! グラスハンマーさんも読んだこどありますよね!」

グラスハンマー
「最近は読んでねえけど……若い頃は、年イチで出る、そのヒーロー&ヴィラン特集号の『コロラドウォーカー』は欠かさず買って読んでたぜ?」

ナイトメディカ
「え、グラスハンマーってそういう人だったんですか? 幻滅です」

グラスハンマー
「言ってろ」

クラウン
「オイラたつのチームは、もっど大ぎぐ、もっど強ぐなります。だがら、お2人ともチームに入っでいただけませんか?」

ナイトメディカ
「その前に、君たちの組織の目的はなんですか?」

クラウン
「目的(もぐてぎ)?」

ナイトメディカ
「どんなに将来性のある組織であっても、その目的が不透明であったり、自分の思想と合致(がっち)しなければ、加入なんてできませんので」

クラウン
「目的(もぐてぎ)は……ヒーローたつの殲滅(せんめつ)です」

ナイトメディカ
「目的がヒーローの殲滅? 手段じゃなくて?」

クラウン
「手段(すだん)であり、目的(もぐてぎ)です。オイラたつサーカスのメンバーは全員、ヒーローが嫌いです。その理由はメンバーによって様々ですが、共通すてみんな、ヒーローのことが気に食わない。いや、それ以上にヒーローを信奉(すんぽう)する市民(すみん)が許せないし、虫唾(むすず)が走(はす)る。だから、ヒーローたつを殲滅すたいんです」

ナイトメディカ
「……子供じみた理由ですね」

クラウン
「ヴィランですから」

ナイトメディカ
「……なるほど」

クラウン
「目的(もぐてぎ)は話すますた。お願いすます。オイラたつに力(つがら)を貸すでください」

ナイトメディカ
「丁重(ていちょう)にお断りします」

クラウン
「りょーがいです」

ナイトメディカ
「え?」

グラスハンマー
「俺もパスだ」

クラウン
「そんな! オイラたつにはグラスハンマーさんの力(つがら)が必要(ひづよう)なんです! どうか! どうかお願いします……!」

ナイトメディカ
「……」

グラスハンマー
「気持ちは嬉しいが、俺はどんな組織であろうと所属するつもりはねえんだ。悪いな」

クラウン
「そごを何どが! 最悪(さいあぐ)名前だけの所属でもええんで! 考え直すてもらえませんか?」

ナイトメディカ
「ラリー多くない?」

グラスハンマー
「いくら考えても答えは同じだ。俺は不器用だからよ。そんな簡単に考えを変えることはできねえんだ。すまねえな」

クラウン
「お、漢(おどご)! 漢の中の漢だぁ……!」

ナイトメディカ
「……そうですか?」

クラウン
「判(わが)りますた。誠(まごど)に残念ではありますが、今回(こんがい)は引ぎます。もっどチームを大ぎぐすて、もっど名前を売っで――その時(とぎ)また、勧誘すに来でもよろしいでしょうか?」

グラスハンマー
「勝手にしろ」

クラウン
「ありがどうございます!」

ナイトメディカ
「話はまとまりましたね。では、治療費を払ってお帰りください」

クラウン
「え、でも腕の治療は……あれ、傷がふさがっでる? いづのまに!?」

ナイトメディカ
「君が気を失っている間に治療は終えました。今頃気づいたんですか?」

クラウン
「すっげえ……ナイトメディカさん、うつのチームに」

ナイトメディカ
「入りません。そして治療費は40ドルです」

クラウン
「……今月ピンチなんですけど、まげでもらうこどは?」

ナイトメディカ
「普通の病院なら、こんな額じゃすみませんよ」

クラウン
「ですよね。……あ、電子(でんす)決済は?」

ナイトメディカ
「うちはそういうのやってません」

クラウン
「そうですか……へい、40ドル」

ナイトメディカ
「はい、丁度。お大事に」

クラウン
「あ、そうだ。これ、置いていぎますね。興味があっだら読んでみでぐださい」

ナイトメディカ
「読まないので持って帰ってください。それよりも、多少気になったのですが、君たちが次に狙うヒーローは誰ですか?」

クラウン
「次ですか? 一応(いつおう)機密情報なんですけど、聞ぎたいですか?」

ナイトメディカ
「いや、そこまでは」

クラウン
「次は――大物です」

ナイトメディカ
「言うんだ」

グラスハンマー
「大物?」

クラウン
「といっでも、かづての、ですが」

ナイトメディカ
「過去の人気者ということですか」

クラウン
「そうです。あぁ、でも人気(にんぎ)という意味では今もあります。なんせエンバーバーグのガーディアンヒーロー。そのリーダー格(かぐ)にあだる奴ですから。市民(すみん)が選ぶ好ぎなヒーローランキングでも確(たす)か18位ぐらいには入っでいだんじゃないがな」

グラスハンマー
「……」

クラウン
「エコーブレイド。かづてはグラスハンマーさんとすのぎを削った、スーパーヒーローです」

 

   ▽

 

ナイトメディカ
「持って帰れって言ったのに……」

グラスハンマー
「いいじゃねえか。善意でくれたんだから読んでみれば。結構面白えよ」

ナイトメディカ
「そうですかねー」

 

――ナイトメディカ、興味がなさそうに、クラウンが置いていった『コロラドウォーカー』のページをパラパラめくる。

 

グラスハンマー
「それで、どう思う?」

ナイトメディカ
「何がですか?」

グラスハンマー
「サーカス」

ナイトメディカ
「クラウン君のことは特に好きでも嫌いでもありませんが、その組織のあり方としては、あまり好みではありませんね」

グラスハンマー
「同感だ」

ナイトメディカ
「でも、クラウン君が言うように大きく強くなることは確実でしょうね。彼の語った組織の目的も、幼稚ではありますが――いえ、幼稚で単純であるからこそ、同調するヴィランも多く現れることでしょうし」

グラスハンマー
「……それも、同感だ」

 

――ナイトメディカ、ページをめくる手を止める。

 

ナイトメディカ
「あ、『最も凶暴だと思うヴィラン』2位に君の名前ありますよ」

グラスハンマー
「お、1位は誰だ?」

ナイトメディカ
「ネプトゥーンですね」

グラスハンマー
「あ゛ァ!? 順位逆だろ!」

ナイトメディカ
「うわ、こんなのにマジになっちゃってるよこの人。クレバーにいこうぜ」

グラスハンマー
「あれだ。1度サンバーストに負けちまったせいだ。クソったれ……!」

ナイトメディカ
「確かにクラウン君の言っていたとおり、『好きなヒーロー』の19位に入ってますね、エコーブレイド。……かつてのライバルとして、どう思いますか」

グラスハンマー
「どうって、ランキングのことか?」

ナイトメディカ
「まさか。聞いていましたよね、彼女がサーカスの次の標的だって話」

グラスハンマー
「ああ、そっちか」

ナイトメディカ
「どちらが勝つと思いますか?」

グラスハンマー
「そりゃあお前、十中八九(じっちゅうはっく)サーカスだろ」

ナイトメディカ
「断言しましたね。かつてのライバルなのに」

グラスハンマー
「さっきから『かつての』つってるけど、かつてじゃねえからな。今もライバルだからな」

ナイトメディカ
「おや、そうなんですか?」

グラスハンマー
「そりゃあそうだろ。1度ライバルと認めた奴は、三流に落ちようが何だろうが、俺にとっては死ぬまでライバルだ」

ナイトメディカ
「そういうものですか」

グラスハンマー
「そういうもんだ」

ナイトメディカ
「そんな相手なのに、サーカスに負けると?」

グラスハンマー
「サーカスっていうのは、集団でひとりと戦うんだろ? 全盛期のエコーブレイドなら可能性はあるが、今の三流ヒーローのあいつじゃあ……ひいき目に見ても勝率は限りなくゼロに近いだろ」

ナイトメディカ
「ほーん、冷静なことで――はァ!?」

グラスハンマー
「どうした!?」

ナイトメディカ
「ここ。見てください、ここ!」

グラスハンマー
「ん? 『来年消えそうなヴィラン』1位……ナイトメディカ」

ナイトメディカ
「誰だ。こんなクソみたいなランキングに僕の名前を入れやがったゲボカスは……絶対に許さない。ひとりひとり探し出して――いや、一番悪いのは、一番許せないのは、こんなゴミランキングを作った『コロラドウォーカー』編集部!」

グラスハンマー
「うわ、こんなのにマジになっちゃってるよこの人。クレバーにいこうぜ」

ナイトメディカ
「おい、もりのくまさん」

グラスハンマー
「なんだ、おさるのかごや」

ナイトメディカ
「コロラドウォーカー編集部を物理的にブッ潰してきてください。連中にナイトメディカを侮辱したらどうなるのか、教えてやりましょう」

グラスハンマー
「何で俺が。てめえで行ってこいよ」

ナイトメディカ
「僕の戦闘力が羊にも劣ることは知ってますよね? それに僕がこんな風に辱(はずかし)めを受けているんですよ? 怒りに震えるでしょう? 編集部を潰さないと気がすまないでしょう? 友達なんだから」

グラスハンマー
「いや、全然」

ナイトメディカ
「ガッデム!!」

 

   ▼▽▼

 

――3日後
――コロラド州 エンバーバーグ ジャズ喫茶『ハイノート』

 

クラウン
 お気に入りのジャズ喫茶の扉を開けると、68個の目玉がこちらを向いた。
「オーケー、どいつもこいつも力が入りすぎだ。リラックスだよ、リラックス。いつも通り、楽にいこうぜ」
 ちょっとは肩の力が抜けただろうか。メンバーのひとりがオイラに問いかける。何故そんな喋り方をしているのか、と。
「あっぶねえあっぶねえ。都会(とがい)に染まるとごだった。サンキューな、スグリュード。やっぱり、オイラはこの喋(さべ)り方(かだ)じゃねえどな」
 何人かが吹き出し、それにつられてまた何人かが笑う。いい感じだ。これなら、今日もうまくいくだろう。
「作戦(さぐせん)は頭(あだま)に入っでいるな? ターゲットはエコーブレイド。旬(すん)の過ぎた落つ目のヒーローに、引導を渡すてやろうぜ」

「さあ、英雄退治(えいゆうたいず)の始(はず)まりだ」

 

   ▽

 

――翌日
――ナイトメディカの診療所

 

ナイトメディカ
「今日のニューバブルタイムズの一面、見ましたか?」

グラスハンマー
「……駅で買ったわ。ほら」
 さきほど購入した地方紙を診療所の受付台の上に広げる。
 広げた一面の大見出しには『サーカス壊滅』の文字。
 その下には、サーカスの連中と戦うスーパーヒーローの雄姿を収めた写真が大きく、この件で捕縛されたサーカス構成員の顔写真が小さく載っていた。
 無論、その中にはクラウンの写真も。
 記事によると、どうやら奴はサーカスのトップだったらしい。

ナイトメディカ
「……僕らのせいじゃないですよね?」

グラスハンマー
「違うだろ。単純に連中よりも、エコーブレイドの方が強かった。それだけだ」

ナイトメディカ
「……グラスハンマーさ」

グラスハンマー
「ん?」

ナイトメディカ
「なんか、嬉しそうですね」

グラスハンマー
「……はッ、ほざきやがれ」

 

《次の話》