《あらすじ》
ヴィランたちによる、平凡な日常の1ページ。
〈作・フミクラ〉
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《協力》 チャット生成AI & 画像生成AI
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《登場人物紹介》
グラスハンマー
破壊と力を求める野心的なヴィラン。
超人的な筋力を持っており、一撃で建造物を粉砕したり、鋼鉄をへし折ったりするぞ! 強者を求め、それに力で勝利することを至上の喜びとする戦闘狂だ!
好きなテレビ番組は、老舗の質屋を舞台にしたリアリティ番組だ!
男性。
ネプトゥーン
巨大な槍を武器に戦う凶悪なヴィラン。
その正体は、異世界の魔神『海神クラーケン』!
事故にあって亡くなった青年の身体に、転生し、その身体を乗っ取ったんだ!
海中では無敵の強さを誇るが、コロラドは内陸の州なので、全力の3分の1ほどの力しか出ないぞ!
普段は青年に擬態して生活しているんだ!
男性。
ナイトメディカ
闇の力を用いた特殊な医療術を用いて仲間を救う、医者のヴィラン。
かつては優れた医師であり、人々の命を救うことに情熱をかけていたが、ある事件によって闇の力に触れ、その力に魅了されてしまったらしいぞ!
性別不詳。
バッドスクリプト
拠点を持たない情報屋。
広く深く、様々な情報を握っているぞ!
だけど、その口から出てくるのが真実とは限らない。そう、彼女は気分屋さんなんだ!
幻惑のナショナルジオグラフィック使いでもあるぞ!
この話には出てこないんだ!
女性。
《前作紹介》
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《 本文 》
ナイトメディカ
これは、どうってことのない。
平凡な日常の1ページだ。
――アメリカ コロラド州 エンバーバーグ 某テナントビル3階・診療所
ネプトゥーン
「おはようございます、ドクター!」
ナイトメディカ
「はい、おはようございます」
ネプトゥーン
「グランマは」
ナイトメディカ
「ああ、病室にいますよ」
ネプトゥーン
「失礼します!」
――病室
ネプトゥーン
「グランマ! 生きてっかおい!?」
グラスハンマー
「生きてるけど?」
ネプトゥーン
「畜生……畜生エレイドめ! こんなになるまで痛めつけやがって!」
グラスハンマー
「こんなにも何も、元気だけど?」
ネプトゥーン
「必ず、必ず仇はとってやっかんな!」
グラスハンマー
「ずっとひとりで何やってんだ? 俺は見ての通り元気だし、あいつにも負けてねえよ。今日のは……痛み分けだ」
ネプトゥーン
「見栄はってんじゃねえよウスノロ! 虫の息じゃねえか!」
グラスハンマー
「はぁ?」
ナイトメディカ
「……メガネをかけ直してよく見てくださいネプトゥーン。本当にグラスハンマーはピンピンしてますよ」
ネプトゥーン
「嘘だ! 本当に元気ならここには来ないはずだろ!」
ナイトメディカ
「確かに万全ではないですけどね。エコーブレイドにやられて、顔腫れてるし、全身真っ赤ですし」
グラスハンマー
「こんなの日常茶飯事だろ?」
ナイトメディカ
「最悪の日常ですね」
グラスハンマー
「は? 最高だろ」
ナイトメディカ
「マゾヒストなんですか?」
ネプトゥーン
「……本当に、元気なのか?」
グラスハンマー
「ああ。この通り、な」
ネプトゥーン
「でも……バクリプが瀕死だって……」
グラスハンマー
「からかわれたんだろ」
ナイトメディカ
「この街の住人で、未だにあの羊の言葉を全て信用するのは……君くらいなものでしょうね」
ネプトゥーン
「……あんのクソアマァァァァァァ!」
グラスハンマー
「まぁ、なんだ。心配してくれたんだな。ありがとな、ネプトゥーン」
ネプトゥーン
「べ、べべべべ別にそういうわけじゃねえし! 散歩の途中にウンコしたくなったから寄っただけだし!」
ナイトメディカ
「コンビニに行け」
ネプトゥーン
「でもよドクター、コンビニはただでトイレ借りられないんだぜ?」
ナイトメディカ
「何故うちのトイレはただで借りられると?」
グラスハンマー
「……それで、話はそれだけか?」
ネプトゥーン
「ああ、そう……って、あ!」
ナイトメディカ
「どうしました?」
ネプトゥーン
「これ、コロラドウォーカーのこの号。ドクターも買ったんか?」
ナイトメディカ
「……ああ。それは以前ここに来た子が置いていったんですよ。正直邪魔ですし、来週にでも古紙回収に出すつもりです」
ネプトゥーン
「読んだか?」
ナイトメディカ
「多少は」
ネプトゥーン
「じゃあ、知ってっかな? 実はボク、ここでやってる投票の『凶暴なヴィラン』の第1位に輝いたんだぜ!」
グラスハンマー
「……」
ナイトメディカ
「……おめでとうございます」
ネプトゥーン
「うはは、ありがとうございます!」
「グランマも見たか? テメェは2位だったぜ、お疲れー!」
グラスハンマー
「……よかったな。運に恵まれたじゃねえか。ラッキーボーイ」
ネプトゥーン
「あ?」
グラスハンマー
「投票期間が始まる前日に、俺が運悪くサンバーストに敗れちまったからなぁ。本当は俺に入るはずだった票が、バラけちまって……運よくお前が1位になれたってこった。おめでとう。来年まで玉座を温めておいてくれたまえ、お代理様(だいりさま)」
ナイトメディカ
「うわ、大人げない」
ネプトゥーン
「んなことねえよ。テメェがサンバに勝っていたとしても、凶暴なヴィランの1位はこのボク。ネプトゥーンのはずだ!」
グラスハンマー
「めでてえヤツだな。試してみるか?」
ネプトゥーン
「試す?」
グラスハンマー
「拳で決着つけるかって聞いてんだよ。サカナ野郎」
――ネプトゥーン、メガネを外し、Tシャツを脱ぐ。脱いだTシャツ畳みながら、擬態を解く。
ネプトゥーン
「上等だよ。吠え面かきやがれ、準グランプリ!」
ナイトメディカ
「ストップ」
グラスハンマー
「あ?」
ネプトゥーン
「え?」
ナイトメディカ
「君たちふたりが戦ったら、周りがどうなるか予想はつきますよね? 僕の診療所を壊す気ですか?」
グラスハンマー
「いや」
ネプトゥーン
「だけどよ」
ナイトメディカ
「友達の縁を切って、ここも出禁にしますよ」
グラスハンマー
「……すまねえ」
ネプトゥーン
「ごめんなさい」
ナイトメディカ
「判ったら、ほら、ネプトゥーンは服を着て、元の姿に戻って下さい」
ネプトゥーン
「いや、つうか、これが本来の姿なんだけど」
ナイトメディカ
「元の姿というのは、さきほどまでの擬態に戻れ、ということです」
ネプトゥーン
「あ、はい。ごめんなさい」
――ネプトゥーン、擬態に戻り、服を着て、メガネをかける。
ナイトメディカ
「判ればよろしい。――とはいえ、このままではふたりともすっきりしませんよね? 判りました。ならばこの場で決着をつけましょう」
グラスハンマー
「急ハンドル」
ナイトメディカ
「急ではありません。グラスハンマーがあのランキングに不満を持つ気持ちは僕も痛いほど判ってますから」
グラスハンマー
「いや、正直なところ、俺はお前ほどあのランキング気にしてないんだけど。さっきのも売り言葉に買い言葉なだけだし」
ナイトメディカ
「素直じゃないですね」
グラスハンマー
「いや、本心丸出し」
ナイトメディカ
「皆まで言わずとも判ってます。どちらの方が凶暴なヴィランなのか、あんなカス雑誌のランキングなんて気にせず、きちんと勝負して決着をつけましょう」
グラスハンマー
「……まあ、俺はいいけどよ……お前はいいのか?」
ネプトゥーン
「ん? あ、ああ。えーっと……おう、望むとこだぜ!」
グラスハンマー
「聞いてなかっただろ」
ネプトゥーン
「い、いや? ボクほど話を聞く奴はいないって、巷(ちまた)ではもっぱらの噂だけどな。うん」
グラスハンマー
「……そうかよ。で、勝負ってのは何すんだ? 殴り合いは駄目なんだろ?」
ナイトメディカ
「当然です。医者である僕が、そんな野蛮な行為を許すわけないでしょう」
ネプトゥーン
「じゃあ、どんな勝負を?」
ナイトメディカ
「どちらの方が凶暴なのかを決めると言ったら、このバトルしかないでしょう。皆さんご存知――『スピンクラッシュバトルアリーナ』です」
グラスハンマー
「いや、知らない。生まれて初めて聞いた」
ナイトメディカ
「え、知らない? あの『スピバト』を?」
グラスハンマー
「そんな風に略(りゃく)されても、知らんものは知らん」
ナイトメディカ
「ネプトゥーンは知ってますよね?」
ネプトゥーン
「お、おおおう! 懐かしいなー、前の世界ではロックの奴とよくやったなぁ『スプーンフラッシュバレリーナ』!」
グラスハンマー
「その知ったかぶりグセ、いい加減直さないと、いずれ身を滅ぼすぞ?」
ネプトゥーン
「ガチで知ってるし!」
グラスハンマー
「……で、その『なんたらアリーナ』っていうのは、何をして勝敗を決めるんだ」
ナイトメディカ
「コマです」
グラスハンマー
「コマって……あのコマか? 回して遊ぶ」
ナイトメディカ
「はい、そのコマです。必要なものを取ってくるので少々お待ち下さい。あ、元気なネプトゥーンは運ぶのを手伝っていただけますか」
ネプトゥーン
「ん、おう! 任せろ!」
――ナイトメディカ、コマが入ったダンボールを運んでくる。
――後ろに続いてネプトゥーン、コマを回すバトルアリーナを運んでくる。
ナイトメディカ
「よっこいしょっと」
ネプトゥーン
「これは、ここでいいんか?」
ナイトメディカ
「いえ、ちょっと右――はい、オーケーです」
「では、この中から自分のコマをひとつ選んでください」
グラスハンマー
「コマって、投げゴマか……このブリキの感じ、懐かしいな」
ナイトメディカ
「おや、珍しいですね。やったことあるんですか?」
グラスハンマー
「ガキの頃にうちの学校で流行ってたんだよ……にしても、こんな大量に、どっから持ってきた?」
ナイトメディカ
「以前オークションで落としたコンテナの中に入ってたんですよ。このダンボールごとね」
ネプトゥーン
「ドクター、これ、どれ選んでもいいんか?」
ナイトメディカ
「勿論。自分に合うものを選んでください」
ネプトゥーン
「よーし、どれにすっかなー」
グラスハンマー
「合うものっつってもよ、色や模様が違うくらいで……どれを選んでも同じなんじゃねえか?」
ナイトメディカ
「そんなことありません。心を傾(かたむけ)けて、コマの声を聞いてみてください。きっと自分を呼ぶ声が聞こえるはず。その声の主こそが君と一番相性のいいコマ――つまり、君の相棒となるコマです」
グラスハンマー
「コマの声ってお前……」
ネプトゥーン
「テメェには聞こえねえのか?」
グラスハンマー
「あ?」
ネプトゥーン
「ボクには聞こえたぜ、この『ウルトラバイオレット』の声がな!」
グラスハンマー
「紫外線?」
ナイトメディカ
「さすがネプトゥーン。グラスハンマーとは覚悟が違いますね」
グラスハンマー
「何の覚悟だよ。適当にコマを選んでヘンテコな名前をつける覚悟か?」
ナイトメディカ
「この戦いを、本気で戦い抜く覚悟です」
グラスハンマー
「あ?」
ネプトゥーン
「適当に選んだわけじゃねえよ。コイツがボクを呼んだ。名前もボクが付けたんじゃねえ。コイツから直接聞いたんだ」
ナイトメディカ
「スピバトで戦うと覚悟を決めたプレイヤーは、当然のように皆そうなるんです。それなのに君ときたら……ともに戦ってくれる相棒の声も聞こえない。どころかどれが相棒かも判らない」
グラスハンマー
「……そうは言うけどよ」
ナイトメディカ
「コマで戦うのは下らないですか?」
ネプトゥーン
「殴り合いじゃなきゃ本気になれねえか?」
ナイトメディカ
「戦いの種類に貴賎(きせん)があるのですか?」
ネプトゥーン
「テメェは、そんなつまんねぇヴィランだったんか?」
グラスハンマー
「……おい、ウベパンケーキと黒蜜かき氷」
ネプトゥーン
「あ?」
ナイトメディカ
「なんですか、ブラックサンダー抹茶味」
グラスハンマー
「ナメんなよ」
――グラスハンマー、ダンボールに手を突っ込み、底の方にある緑のコマを引き抜くと、それを正面に掲げる。
グラスハンマー
「位置につけよネプトゥーン。どっちが凶暴なヴィランか、俺と『グリーンユグドラシルⅢ(スリー)』が直々に教えてやる!」
ナイトメディカ
「三代目なんだ」
ネプトゥーン
「その台詞、ボクと『ウルトラバイオレットⅥ(シックス)』と戦った後でもホザけるかな?」
ナイトメディカ
「超高速代替わり。……ところで、おふたりは投げゴマの回し方は?」
ネプトゥーン
「え、い、いや、し、知ってんぜ? だってボクだぜ? 知んねえわけねえだろ、うはははは――だけどよ、グランマはきっと知んねえだろうから――」
グラスハンマー
「ガキの頃にやってたし、まぁ、大丈夫だろ」
ネプトゥーン
「……だってよ!」
ナイトメディカ
「では、『3(スリー)、2(ツー)、1(ワン)』と、ボクがカウントするので、その後すぐに『自分のコマの名前』プラス『スピンバースト』と言って、このアリーナに投げ入れてください」
ネプトゥーン
「お、おう。スピン、スピンバースト、だな」
ナイトメディカ
「勝利条件は言うまでもなく、このアリーナで1秒でも長く回っていること。もし、相手のコマに弾き飛ばされた、などしてアリーナの外に飛び出てしまった場合、どんなにそこで長く回っていたとしても場外負けとなります」
グラスハンマー
「判った」
ナイトメディカ
「説明はここまで。では、早速はじめましょうか。おふたりとも、準備はいいですか?」
グラスハンマー
「俺はできてるが……」
ネプトゥーン
「な、何だその言い方……当然ボクも準備万端だっつうの!」
ナイトメディカ
「では、いきますよ。――3(スリー)、2(ツー)、1(ワン)――」
グラスハンマー
「グリーンユグドラシルⅢ(スリー)、スピンバースト!」
ネプトゥーン
「ウルトラバイオレットⅥ(シックス)、スピンバースト! ――ってあああああああー!」
――グラスハンマーが投げ入れたコマはアリーナで回っているが、ネプトゥーンのコマは、うまく投げることができず、アリーナの外に。
ナイトメディカ
「……ウルトラバイオレットⅥ(シックス)、場外。よってこの勝負――」
ネプトゥーン
「ちょちょちょちょっと待て! 今のは練習だから! 本番じゃなくて練習だから! なし! 今のなし!」
グラスハンマー
「……あー」
ネプトゥーン
「なーし! 頼むドクター、なーし! 5ドル、いや、30セントあげっから! お願いドクター! な! この通り!」
ナイトメディカ
「……(ため息)無しにしてもいいですが」
ネプトゥーン
「本当か!?」
ナイトメディカ
「その代わり、正直に答えて下さい」
ネプトゥーン
「な、なんだよ」
ナイトメディカ
「投げゴマ。回したことないですよね?」
ネプトゥーン
「い……いやー? よく回してたけどなー。地元にいるときは回しちゃ投げ、回しちゃ投げの大立ち回りで――」
ナイトメディカ
「ネプトゥーン」
ネプトゥーン
「……なんだよ」
ナイトメディカ
「正直に答えて下さい。回したことないですよね?」
ネプトゥーン
「だから、あるって――」
ナイトメディカ
「正直に答えなければ君の負けになりますよ」
ネプトゥーン
「うッ……!」
ナイトメディカ
「投げゴマを回したこと――」
ネプトゥーン
「ありません!」
グラスハンマー
「やっぱりか」
ナイトメディカ
「……いいですかネプトゥーン。知らないことは恥ずかしいことかもしれません。ですが、知ったかぶって失敗をすることは、もっと恥ずかしいことなんですよ」
ネプトゥーン
「ぐぅ……」
ナイトメディカ
「現在君は、世界恥ずかしいランキングぶっちぎり堂々の1位です。全身恥部です。君の名前も放送禁止用語になっていますし、警察に見つかれば逮捕は確実。州によっては裁判を待たずに終身刑です」
ネプトゥーン
「そんなに!?」
ナイトメディカ
「そんなに。常人であれば、君の近くに立つだけで共感性羞恥(きょうかんせいしゅうち)によって、死んでいることでしょう」
グラスハンマー
「いや、お前生きてんじゃん」
ナイトメディカ
「ヴィランですからね」
グラスハンマー
「何も言えねえ」
ナイトメディカ
「ともあれ、僕としても友人がそんな状況に陥っているのを見るのは心苦しい。ですので、チャンスを与えてあげましょう」
グラスハンマー
「あ?」
ナイトメディカ
「投げゴマの回し方を教えて下さいと、僕に頭をお下げください。そうすれば、知ったかぶりの罪は軽くなり、ランキング圏外(けんがい)に戻れますよ」
ネプトゥーン
「ほ、本当か?」
ナイトメディカ
「人より嘘をつく方ではありますが、これまで友達に嘘をついたことは一度もありません」
グラスハンマー
「どうやら俺はお前のダチじゃなかったらしい」
ネプトゥーン
「――ドクターお願いします。投げゴマの回し方を教えて下さい」
グラスハンマー
「あ、信じるんだ……」
ナイトメディカ
「順位は下がりましたが、まだ百位圏内です。もう少し頭を深く下げて、もっと大きな声で請うて下さい」
ネプトゥーン
「お願いします! 投げゴマの回し方を教えて下さい!」
ナイトメディカ
「駄目ですね。もっと情熱を込めて、何言ってるのか聞き取れないくらい必死になって」
ネプトゥーン
「おさささす! なごまままわしたっ、さい!」
グラスハンマー
「なんて?」
ナイトメディカ
「もっと」
ネプトゥーン
「ひぽぽたます! わっ、さい!」
グラスハンマー
「カバだろ」
ナイトメディカ
「もっと」
ネプトゥーン
「ばーいしくる!」
グラスハンマー
「自転車がどうした?」
――ナイトメディカ、拍手を送る
ナイトメディカ
「おめでとう。これで君の恥ずかしいランキングは圏外となり――」
グラスハンマー
「恥の上塗りをしただけな気がするが」
ナイトメディカ
「モザイクも外れました」
ネプトゥーン
「本当か!? ありがとうドクター!」
ナイトメディカ
「どういたしまして。では、グラスハンマー、回し方を教えてあげて下さい」
グラスハンマー
「俺かよ」
ナイトメディカ
「そうですよ?」
グラスハンマー
「わざわざ敵に塩を送れってか?」
ナイトメディカ
「相手の実力を引き出した上で叩き潰すのが君の流儀でしょ? それとも、ほぼ不戦勝がお望みですか?」
グラスハンマー
「……いいかネプ。まず、紐(ひも)の巻き方だが――」
ナイトメディカ
30分後。
「おふたりとも、今度こそ準備はいいですか?」
グラスハンマー
「ああ」
ネプトゥーン
「バッチリだ!」
ナイトメディカ
「では、いきますよ。――3(スリー)、2(ツー)、1(ワン)――!」
グラスハンマー
「グリーンユグドラシルⅢ(スリー)、スピンバースト!」
ネプトゥーン
「ウルトラバイオレットⅥ(シックス)、スピンバースト!」
ナイトメディカ
「両者ともに今回はアリーナに着地。最後まで回っていた方が勝ちとなります」
ネプトゥーン
「うははははは! 勝つのは当然ボクのウルトラバイオレットⅥ(シックス)だ! その証拠にほら、その場で安定しているボクのウルバに比べて、アイツのグリシルはフラフラ動いてやがる」
ナイトメディカ
「確かに、ネプトゥーンに比べてグラスハンマーの方は忙(せわ)しなく左右に動いてますね。これは調整失敗でしょうか」
グラスハンマー
「……はっ! んなわけねえだろうが。初心者のネプトゥーンには悪いが、これは勝負なんでな。一切手加減せず、ブッ潰させてもらう。――輝け、グリーンユグドラシルⅢ(スリー)」
ネプトゥーン
「――っ! グリシルの周りに緑のオーラのようなものが……!?」
ナイトメディカ
「あれは……覚醒したスロウスピナーだけが引き出せるコマのオーラ。あらゆる相手を破壊する――ディスカバリーチャンネル!(ドドン!)」
ネプトゥーン
「スロウスピナーって何だ!?」
グラスハンマー
「投げゴマ使いのことだよ。言ったろ、俺はガキの頃からスロウスピナーだ。ディスカバリーチャンネルも、12の頃には体得してる」
ナイトメディカ
「12の頃から!? これだから戦闘狂ってやつは……ネプトゥーン、気をつけて下さい。大技がきますよ」
ネプトゥーン
「え?」
グラスハンマー
「審判がバラすんじゃねえよ。……まあいいや。どうせ判っていたところで避けられねえんだからな」
ネプトゥーン
「緑のオーラが、ディスカバリーチャンネルが、その輝きを増していく……!」
グラスハンマー
「叩き潰(つぶ)せ――トールハンマー!」
ネプトゥーン
「ああっ――!」
――オーラを纏ったグリーンユグドラシルⅢが勢いよくウルトラバイオレットⅥに衝突する。弾き飛ばす。弾き飛ばれたウルトラバイオレットⅥは、アリーナの縁に衝突。場外に落ちることはなかったが、回転は弱まる。
グラスハンマー
「場外勝ちを狙ったんだが……アリーナの壁に阻まれたか」
ネプトゥーン
「急にスピードあげてぶつかってきた……何だよ今の!?」
グラスハンマー
「メディカの奴が言ったろ。大技だよ大技。俺くらいのスロウスピナーになるとな、自分のコマを手足のように扱えるのさ」
ネプトゥーン
「くっ……!」
グラスハンマー
「次でしまいだ。返してもらうぞ、最凶(さいきょう)の玉座(ぎょくざ)」
ネプトゥーン
「いやだ……ボクが――」
グラスハンマー
「叩き潰せ」
ネプトゥーン
「ボクが、ボクが――!」
グラスハンマー
「トールハンマー!」
ネプトゥーン
「ボクが一番、凶暴なヴィランなんだあああああ!」
ナイトメディカ
「――っ! ネプトゥーンのウルトラバイオレットⅥ(シックス)が紫のディスカバリーチャンネルを纏(まと)って……まさか、覚醒したんですか!? この短期間で……!?」
グラスハンマー
「いや、よく見ろ。あれは、ディスカバリーチャンネルじゃねぇ。あれは、破壊のディスカバリーチャンネルと対(つい)をなす、鉄壁の――」
ナイトメディカ
「アニマル……プラネット……!(ババン!)」
ネプトゥーン
「波に呑まれろぉ! ブルージャムウェーブ!」
グラスハンマー
「強度を上げろ、トールハンマー!」
ネプトゥーン
「(同時に)うおおおおおおおおおおおおおお!」
グラスハンマー
「(同時に)うおおおおおおおおおおおおおお!」
――2つのコマが勢いよく激突し、その勢いで宙を舞う
グラスハンマー
「……さすがだな、ネプ」
ネプトゥーン
「そうだ。ボクは、さすがなんだ」
――両者のコマが、診療所の床に音を立てて落ちる。
ナイトメディカ
「……両者場外。この戦い――ドロー!」
――ふたりは、自分のコマを拾い、再び元の場所に立つ。
グラスハンマー
「良い勝負ではあったが……引き分けだ」
ネプトゥーン
「そうだな。引き分けだ」
グラスハンマー
「……まさか、こんな温(ぬる)い決着をよしとはしないよなぁ? ネプトゥーン!」
ネプトゥーン
「トーゼンだ。白黒ハッキリさせようぜぇ、グラスハンマー!」
グラスハンマー
「そうと決まれば第2ラウンドだ! ゴングを鳴らせ、ナイトメディカ!」
ナイトメディカ
「盛り上がっているところ悪いですが、おふたりの戦いはもうおしまいです」
グラスハンマー
「え?」
ネプトゥーン
「なんで!?」
ナイトメディカ
「やってる分には楽しいでしょうが、見てる分にはそれほどでもなかったので」
ネプトゥーン
「テメェで提案してきた勝負なのに!?」
グラスハンマー
「理不尽!」
ナイトメディカ
「ヴィランですからね」
ネプトゥーン
「なーんも」
グラスハンマー
「言えねえ」
ナイトメディカ
「――ですので……ここからは、僕も参戦します」
――ナイトメディカ、黒のオーラを纏った投げゴマをふたりに見せるように突き出す。
ネプトゥーン
「ドクターが持っているコマから黒いオーラが……! まさか、テメェもディスカバリーチャンネルを!?」
グラスハンマー
「いや、あれは……破壊のディスカバリーチャンネルでも、鉄壁のアニマルプラネットでもねえ。あれは――」
ナイトメディカ
「瞬殺の――ヒストリーチャンネル(シャキーン☆)」
グラスハンマー
「……ハハッ、前々から、お前とはもう一度戦いたいと思っていたんだ。望んでいた形式とは違うが――まとめて叩き潰してやるよ、親友共(ヴィランズ)!」
ネプトゥーン
「うははははははは! なんかよく判んねぇけど面白えじゃねぇか! やろうぜぇ、ドクター! いや、呑みこんでやんよ、親友共(ヴィランズ)!」
ナイトメディカ
「のんきに笑っていられるのも今のうち。真に恐ろしいのは誰か、とくと味わい下さい。沈めてあげますよ――親友共(ヴィランズ)!」
グラスハンマー
「誰が勝っても恨みっこなし……いや、末代(まつだい)まで恨んでくれていいぜ」
ネプトゥーン
「こっちの台詞だ。いつまでもボクを恨み続けてろ!」
ナイトメディカ
「勘弁して下さい。恨むなら、負けた自分を恨んで下さい」
グラスハンマー
「行くぞ――3(スリー)、2(ツー)、1(ワン)――!」
ネプトゥーン
「ウルトラバイオレットⅥ(シックス)、スピンバースト!」
グラスハンマー
「グリーンユグドラシルⅢ(スリー)、スピンバースト!」
ナイトメディカ
「ダークダークネスダーク、スピンバースト!」
ネプトゥーン
「ネーミングセンス!」
グラスハンマー
「クドくてダサい!」
ナイトメディカ
冒頭で言ったとおり。
これは、平凡な日常の1ページだ。
走馬灯には収録されないだろうし、年末に一年を振り返ったとしても思い出さないであろう――人生という分厚い本の中の、ただの1ページ。
だけど。
こんなどうでもいいページが、僕は結構、好きだったりする。
グラスハンマー
「叩き潰せ――トールハンマー!」
ネプトゥーン
「波に呑まれろ――ブルージャムウェーブ!」
ナイトメディカ
「闇に沈め――ダークナイトミッドナイトナイトメアアンドプレミアムレイトショー!」
ナイトメディカ
3つのコマが勢いよく衝突し、2つのコマが宙に舞う。
やがて場外に落下したコマの音とともに、最も凶暴なヴィランが、天に拳を突き上げた。