《あらすじ》

 全世界3000万人以上のプレイヤーが存在するカードゲーム【ジャッジメントデイ】!

 4年に1度行われる世界大会への切符をかけて、日本代表選抜大会決勝戦が幕を開けた!!

〈作・フミクラ〉

   ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

《登場人物紹介》

獅子王悠真《ししおう・ゆうま》
 主人公。カードバトラー。性別未定。

吉塚ジェイド《よしづか・じぇいど》
 悪の組織『キャピタルパニッシュメント』の首領。『天使降臨デッキ』の使い手。性別未定。
  

▽▼▽一言だけ▽▼▽

納涼耕助《のうりょう・こうすけ》
 獅子王悠真のライバル。『萌え袖デッキ』の使い手。なまりあり。男性。

ドラゴンフライ末長《どらごんふらい・すえなが》
 獅子王悠真のライバル。『バグズデッキ』の使い手。ござるあり。性別未定。

姫島さつき《ひめじま・さつき》
 獅子王悠真のライバル。『暴食賭博デッキ』の使い手。女性。

マダム・シャンデリア《まだむ・しゃんでりあ》
 獅子王悠真のライバル。『マダムデッキ』の使い手。ザマスあり。女性。

MQ-006《えむきゅー・だぶるおーしっくす》
 獅子王悠真のライバル。『フルメタルデッキ』の使い手。ぼらぼらあり。性別未定。

朱雀院天命《すざくいん・てんめい》
 獅子王悠真のライバル。『痴愚神礼賛デッキ』の使い手。性別未定。

渋谷亮太《しぶや・りょうた》
 獅子王悠真のライバル。『フルボッコデッキ』の使い手。男性。

▲△▲一言だけ▲△▲ 

吉塚ジェイド(真)《よしづか・じぇいど・しん》
 警備員のライバル。犯罪者。性別未定。(ジェイドと兼ね役が良いと思います)


   ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
 

《 本文 》
 

獅子王悠真
 『ジャッジメントデイ』は、全世界に3000万人以上のプレイヤーが存在する、対戦型トレーディングカードゲームだ。
 その人気は凄まじく、4年に1度開かれる世界大会は、全世界50カ国以上で放映される。
 そんな、人気カードゲームの世界大会への出場権をかけた、日本代表選抜大会。その決勝。
 そこに、オレ――獅子王悠真(ししおう・ゆうま)はようやくたどり着いた。
 相手は吉塚ジェイド。
 『ジャッジメントデイ』で世界侵略を企む組織『キャピタルパニッシュメント』の首領にして、過去に何度も死闘をくり広げてきた、因縁の相手だ。
 現在5ターン目。
 オレのターン。
 相手のデッキの残り枚数は13枚。バトルエリアには2枚のユニットカード【エレファントス】と【深淵(しんえん)の令嬢(れいじょう)ガブリエラ】。サポートエリアには一枚のカード。
 対してオレのデッキの残り枚数は19枚。バトルエリアには【殉教者(じゅんきょうしゃ)ザッパ】が1体と、サポートカードが1枚。
 デッキの残り枚数では勝っているものの、決して油断できない状況。

獅子王悠真
「【森の賢人(けんじん)コロトックル】召喚!」
 手札からユニットカードを選び、バトルエリアにセット。
 バーチャルシュミレーターがカードを読み取り、目の前に紫の肌に白い体毛のゴリラのようなモンスターが現れる。【森の賢人コロトックル】だ。
「さらにコロトックルの特殊効果【ジャングルの掟(おきて)】発動! ダイスを振って、『1』が出れば、相手フィールドのユニットを1体破壊する!」
 オレの言葉が終わるや、フィールドの中心にバーチャルダイスがどこからともなく落下。コロコロ転がり、やがて止まる。
「ダイスの判定は『5』! 発動失敗! 【森の賢人コロトックル】で【エレファントス】に攻撃! 《フォレストゴング》!」
 【森の賢人コロトックル】は駆け出し、その太い腕を広げ、相手のユニットを撃破にかかる。

吉塚ジェイド
「デッキで受ける!」

獅子王悠真
 撃破する寸前、相手のその一言によって、相手のユニットが一瞬で移動。コロトックルの攻撃は直接プレイヤーの命でもあるデッキのカードを2枚破壊する。
「【殉教者ザッパ】で【深淵の令嬢ガブリエラ】に攻撃! 《首刈りのカーテン》!」

吉塚ジェイド
「デッキで受ける!」

獅子王悠真
 再び、オレのユニットの攻撃は、相手のユニットではなく、相手のデッキに直撃した。
 ――どういうつもりだ。
 【エレファントス】も【深淵の令嬢ガブリエラ】も、決してプレイヤーが身を呈して守るようなユニットではない。デッキの総コスト調整や、それこそ、デッキに攻撃を通さないためにとりあえず守備表示で召喚する類のユニットだ。
 しかも、ジェイドはこの行動を前のターンもとっている。
 デッキを犠牲にしてまで、この2体を守る理由はなんだ?
 ――おかしい、何かある。
 オレは不可解に思いながらも「ターンエンド」を宣言。

吉塚ジェイド
「ドロー!」

獅子王悠真
 力強くデッキからカードを引いたジェイドは、そのカードを目に入れた途端、口の端をぐにゃりと歪めてこちらを見た。

吉塚ジェイド
「くはっ」

獅子王悠真
 ぞくり。
 背中に強い寒気が走る。
 間違いない。相手は目的のカードを手に入れた。

吉塚ジェイド
「くははははははははははははは! 来た来た来た来た来た来たァァァ!」

獅子王悠真
 高らかに声を上げる吉塚ジェイド。
 オレや観客の視線を一身に浴びて、悪の組織の首領が芝居がかった動きで口を開く。

吉塚ジェイド
「待たせたな獅子王悠真! 観客、そして我が部下たちよ! 蹂躙(じゅうりん)の鐘の音を聞くが良い!」

獅子王悠真
 言って、ジェイドは、デッキから引いたそのカードをサポートエリアに叩きつけた。

吉塚ジェイド
「変異カード【白百合の目覚め】発動! 自分のバトルエリアに三ターン以上【深淵の令嬢ガブリエラ】と攻撃力1000以下のユニットが存在する場合、それらを生贄(いけにえ)に【天使長ガブリエル】を変異召喚する!」

獅子王悠真
「な、なんだと!?」
 2体のユニットが光となって消える。
 するとその1秒後に、相手バトルエリアの上空に光の穴が開き、そこから1体のユニットが現れた。
 顔や体格は【深淵の令嬢ガブリエラ】だ。しかし、その身にまとっている物が、漆黒(しっこく)のドレスからゆったりとした純白(じゅんぱく)のローブに変わっている。
 さらに背中には、空を自由に羽ばたく6枚の翼。
 【天使長ガブリエル】は、優雅な仕草でバトルエリアに降り立つ。すると、その足下に、白い花を備える植物が生まれた。

吉塚ジェイド
「【天使長ガブリエル】の特殊効果【受胎告知(じゅたいこくち)】発動!」

獅子王悠真
 ジェイドの言葉に反応して、植物が震えた。植物はそのまま凄まじい早さで生長(せいちょう)。【天使長ガブリエル】の隣に巨大な白いつぼみを作ると、

吉塚ジェイド
「毎ターン自らのフィールドに【天使長ガブリエル】と同じ、攻撃力6000のガブリエルアバターを産み落とす!」

獅子王悠真
 つぼみが開いて、そこから背中に2枚の翼がついた【天使長ガブリエル】そっくりのユニットが生まれた。

吉塚ジェイド
「さぁ、天使の裁きを受けるが良い! 【天使長ガブリエル】で【森の賢人コロトックル】を攻撃! 《テムペランスホワイトリリィ》!」

獅子王悠真
 天使の周りに無数の光の花びらが現れ、それが一斉にオレのユニットに襲いかかる。
 【森の賢人コロトックル】は一切の抵抗もできず、光の花びらに切り刻まれ消滅した。

吉塚ジェイド
「【森の賢人コロトックル】粉砕! デッキ4枚トラッシュ! さらに、ガブリエルアバターで【殉教者ザッパ】に攻撃! 《テムペランスホワイトリリィ》!」
「【殉教者ザッパ】撃破! デッキ3枚トラッシュ! ターンエンド」

獅子王悠真
「ドロー!」
 引いたカードは、残念ながらガブリエルに勝てるものでも、対抗できるものでもない。
「【ホッパー】を召喚。守備表示。ターンエンド」
 オレのターン終了を受け、ジェイドが口元に笑みを浮かべ、デッキのカードを引く。

吉塚ジェイド
「ドロー。【天使長ガブリエル】の特殊効果【受胎告知】によって、2体目のガブリエルアバターが生誕。まずは【天使長ガブリエル】で【ホッパー】を攻撃《テムペランスホワイトリリィ》!」

獅子王悠真
 出したばかりの【ホッパー】が砕け散る。
 その様(さま)を見て、ジェイドが自慢気に喋り出す。

吉塚ジェイド
「いいか、獅子王悠真。貴様のデッキ残り枚数は11枚。対して、私にはあと2体のアバターがいる」
「アバターは攻撃力6000! つまり、1体につき貴様のデッキを6枚破壊できるので、2体合わせて12枚。ゲームオーバーだ!」

獅子王悠真
 完全に勝った気でいるのか、語気も強めだ。むかつく。

吉塚ジェイド
「断末魔(だんまつま)を上げる準備は出来たか? さぁ、とくと叫ぶが良い! 《テムペランスホワイトリリィ》!」

獅子王悠真
「まだだ!」
 こんなところで、こんな風に負けるわけにはいかない!
 相手の攻撃に合わせて、伏せていたサポートカードをオープン。
「SNSカード発動! 『盛りだくさん』! デッキへの攻撃を1回につき2枚分防ぐ!」
 2体のガブリエルアバターに破壊されかかったデッキは、どうにか3枚だけ残った。

吉塚ジェイド
「首の皮一枚繋げたか。まぁいいだろう。ターンエンドだ。これで貴様のデッキは残り3枚。さぁ、獅子王悠真、貴様の最後のターンだ!」

獅子王悠真
 むかつく。
 むかつくが、相手の言うとおりだ。
 手札には逆転の手段はなく、このターンでどうにかできない限り、オレは負ける。
 負ける?
 イヤだ。
 負けたくない!
 いや、最悪負けるとしても、こういう、デッキに直接攻撃食らって負けるのは、なんかイヤだ。
 なんか……なんか、イヤだ。
 しかも、日本の代表選抜の決勝で、というのが特にイヤだ。
 こんな感じの負け方は……なにがどうって具体的に説明はできないけど、なんかイヤなんだ!
 だから、オレは賭ける!
 次のドローカードにすべてを賭ける!
 しかし、攻撃力6000のユニット3体相手に逆転できる手段など、オレのデッキに残されているだろうか。
 と、考えたところで、1枚のカードが頭に浮かんだ。
 それは、この大会が始まる前まで持っていなかったカード。
 とある人物との出会いによって手に入れた、魂のユニット!
 ――できる!
 あの時の、あのカードなら!
 この状況を打破することができる!
 頭の中で、今まで戦ったライバル達の声が蘇る。
 

納涼耕助
『お前なら、優勝できるべさ!』

ドラゴンフライ末長
『勝って勝って勝ち抜いて、拙者が強かったと、証明してほしいでござる』

姫島さつき
『アタイ以外の相手に負けんなよ!』

マダム・シャンデリア
『どうか、あたくしの気持ちも持って行ってほしいザマス』

MQ-006
『ぼらぼらぼらぼらぼらぼらぼら!』

朱雀院天命
『あなたの行く末に、大いなる祝福を』

渋谷亮太
『勝てよ、ユーマ!』
  

獅子王悠真
 ライバル達の激励を思い返しながら、デッキの一番上のカードを引いた。
  

   ■■■
  

吉塚ジェイド
 獅子王悠真は勢いよくデッキからカードを引くと、それをほとんど確認することなく、バトルフィールドに置いた。まるで、そのカードが来ると判っていたみたいに。

獅子王悠真
「【レジェンドシンガー春島テツオ】召喚!」

吉塚ジェイド
「【レジェンドシンガー春島テツオ】? 【レジェンドシンガー春島テツオ】だと!?」
 獅子王悠真は私の天敵だ。
 何度も計画を邪魔されてきた。
 故(ゆえ)に、対策を徹底し、持ち札も全て知っているはずだった。
 なのに、何だそのカードは?
 大会が始まるまで、そんなカード――!
 ……いや、思い出した。
 獅子王悠真の4回戦。
 教育ママプレイヤー、マダム・シャンデリアとの対戦の後、獅子王悠真に対して、シャンデリアがカードを1枚渡していた!
 ……それが、あれか!
 相手のバトルフィールドに現れた白い詰め襟を着た70代くらいの男性ユニットの姿に、私は奥歯を噛みしめた。

獅子王悠真
「春島テツオの特殊効果【拍手喝采(はくしゅかっさい)】発動! 自分のフィールドや墓地にある【ファン族】【取り巻き族】【信者族】の数だけ、攻撃力を1000ポイントアップ!」
「それよって、春島テツオの攻撃力は5000上がり、ガブリエルの攻撃力を2000ポイント上回る8000となる!」

吉塚ジェイド
 【レジェンドシンガー春島テツオ】の身体の周りをオーラのようなキラキラした光が包む。
「チッ……!」

獅子王悠真
「これだけじゃ終わらないぜ! さらに、春島テツオの第二特殊効果【誰も知らない歌い方(オンリーワン)】発動! 召喚ターンのみ、相手フィールドにいる全てのユニットへの攻撃が可能となる!」
「お前のユニットは全て攻撃表示! つまり、一体撃破するごとにデッキから2枚トラッシュさせることになる。2×3で6! 丁度お前のデッキと同じ数だ!」
「覚悟はいいか、吉塚ジェイド!」

吉塚ジェイド
 獅子王悠真が声を張り上げる。
 確かに【レジェンドシンガー春島テツオ】は厄介(やっかい)なカードだ。
 その能力は、私の天使達を殲滅(せんめつ)できるものだと言えよう。
 ――しかし!
「そうはさせるか!」
 その程度では、私は負けない!
 3ターン目から伏せていたサポートカードをオープンし、獅子王悠真に、そして会場に向けて力強く咆哮(ほうこう)を上げる。
 
「SNSカード発動! 【魔女狩り】! 1ターンのみ、相手のユニット1体の攻撃力を、ダイスを振って出た数分の1に下げる!」
 
 フィールドの中心にダイスが落下し、転がる。
 やがて止まって出た目は『6』!
「ダイスの数字は『6』だ! よって、【レジェンドシンガー春島テツオ】の攻撃力は……えっと、せんーさんびゃく、さんじゅうさん? くらいになる! 返り討ちだ! くはっ! くはははははははははははははは――!」
 私は勝利を祝って高笑いを上げた。
 私の高笑いを受け、獅子王悠真は顔を曇らせ、絶望する――はずだった。

獅子王悠真
「フフフ」

吉塚ジェイド
 笑った。
 獅子王悠真は、この状況で、確かに笑ったのだ。
「何がおかしい?」
 眉をひそめて訊ねる。
 私の疑問に、獅子王悠真は微笑で返した。

獅子王悠真
「残念だったな、ジェイド。よく見ろ【レジェンドシンガー春島テツオ】の種族名を」

吉塚ジェイド
「あ? ……ああ――!」
 言われて、ようやく気付いた。
 気付いた瞬間、首から汗が噴き出し、奥歯が震え出した。

獅子王悠真
「そう! 【レジェンドシンガー春島テツオ】は大御所族(おおごしょぞく)!」
「大御所族は――SNSカードの効果を受け付けない!」

吉塚ジェイド
 私の絶望を見ながら、天敵が口を開く。
 私に向けて、とどめの言葉を発する。

獅子王悠真
「断末魔を上げる準備は出来たか? さぁ、とくと叫べ! 《沈丁花(じんちょうげ)が咲く夜に》ィィィィィィ!」

吉塚ジェイド
 歌う。
 歌う。
 【レジェンドシンガー春島テツオ】が歌い上げる。
 その歌声は見た目年齢よりも大分若く、力強く。
 その歌を聴いたことがない者からしても、変なところで節を切っていたり、音をのばしていたり、不自然で。
 私の天使達は、まとめてそれらに飲み込まれ、蹂躙(じゅうりん)され、粉々に破壊される。
 天使達では受けきれなかった歌唱の残滓(ざんし)は、私のデッキに到達し、その残る全てを破壊した。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁァァァaaaaa――!」
 獅子王悠真の希望通り。
 喉が枯れるほどの断末魔を上げ――私は、敗北した。
 

   □□□

  

獅子王悠真
 試合終了後。
 表彰式。
 トロフィーを受け取った後の写真撮影の場面で。

吉塚ジェイド
「……良いバトルだった」

獅子王悠真
 表彰台の1番高い場所にいるオレにだけ聞こえるような声で、表彰台の2番目に高い場所に立つライバルがそう言った。
 オレはその言葉に、鼻を鳴らして応える。
「いやー、正直もっと圧勝したかったけどねー。今回は引きが悪かったなー」

吉塚ジェイド
「……アァ?」

獅子王悠真
「だってー、お前に負けかけてるって、ヤバいじゃん」

吉塚ジェイド
「ヤバくねぇわ。こっちも決勝行ってるんだわ」

獅子王悠真
「いや、それ、裏口でしょ? 裏口決勝でしょう?」

吉塚ジェイド
「どこの世界に決勝戦裏口参加できる大会があンだよ!? あんまナメたこと言っているとやっちまうぞ、シャバ僧が!」

獅子王悠真
「うわぁ、怖いですわぁ。悪の組織の首領の言葉遣い怖いですわぁ。あ、ほら、写真とられてるよ。その顔ネットニュースに載っちゃうよ?」
 その一言で、無理矢理笑顔に戻る吉塚ジェイド。世界侵略を企む組織の首領とは思えないほど外からの評判に弱い。
「冗談。確かに、いいバトルだった」
 正面のカメラを見ながら発したオレの言葉に、ジェイドは小さく舌打ちして、こちらを睨(にら)み上げた。

吉塚ジェイド
「次は、負けないからな」

獅子王悠真
「いつでもどうぞ」

吉塚ジェイド
「余裕こ……き?」

獅子王悠真
 そこで、ジェイドの言葉が途切れ、目の前のカメラマンがざわつき、会場から悲鳴が上がった。
 何があったのか、と右下のジェイドを見ると、その胸の中心から手が生えている。
 いや、手は生えているのではない。いつの間にかジェイドの後ろに立っていた人物が、その背中から貫通させたのだ。

吉塚ジェイド(真)
「今までご苦労、だが貴様はもう用済みだ」

獅子王悠真
 ジェイドを貫いた人物は、そう言って血まみれの手を抜き取ると、ジェイドの背中を蹴って、表彰台から落とした。
 地面に激突する準優勝者。
 オレも含めた会場の人達は、ジェイドと突如現れた危険人物を交互に見て、混乱する。
「ジェイドが、2人……?」
 加害者の見た目は、被害者である吉塚ジェイドと瓜二つだった。
 ジェイドにそっくりなそいつは、社交界の主役のように、こちらの呟きに優雅にお辞儀で返す。

吉塚ジェイド(真)
「初めまして、といったところかな、獅子王悠真くん。とりあえずは日本代表おめでとう」

獅子王悠真
「ふざけるな。お前、誰だ!?」
 オレの質問に、それはクツクツと笑った。

吉塚ジェイド(真)
「本物さ。『キャピタルパニッシュメント』の真の首領。本物の吉塚ジェイドだよ」
「君が今まで戦っていたのは、私のクローン。ジェイド11号。本体よりも大分劣る、できそこないだがね」

獅子王悠真
 そう言って、自称本物の吉塚ジェイドは、一度わざとらしいため息を吐くと、

吉塚ジェイド(真)
「とはいえ、私のクローンを倒したのだ。君を正式に敵として認めてあげようじゃないか」

獅子王悠真
 両手を広げて笑った。
 その笑みに、総身(そうしん)が鳥肌を上げる。
 頭で考えるより先に、身体が警戒態勢をとった。
 そんなオレの姿を見て取って、本物の吉塚ジェイドは首を横に振った。

吉塚ジェイド(真)
「焦ることはない。どうせ君と私は近いうちに戦う運命にあるのだから」

獅子王悠真
「どういうことだ?」

吉塚ジェイド(真)
「世界大会」
「私は、ポーランドの代表選手として、そこに参加する」

獅子王悠真
「……いや、こういう時の相場って、アメリカの代表なんじゃないか?」

吉塚ジェイド(真)
「そんな細かいところをつつくガキは嫌いだよ」

獅子王悠真
 と、そのとき。5名の警備員がこちらに向かって走ってきた。
 警備員は一斉に、本物の吉塚ジェイドに飛びかかる。
 いいぞ、警備員!
 まけるな警備員!
 ぼくらのヒーロー警備員!

吉塚ジェイド(真)
「では、世界大会でまた会おう!」

獅子王悠真
 そう余裕の表情で言い残し、ポーランドの代表を名乗った人物は、警備員に連れて行かれた。
  
 世界大会……!
 どんな奴らが待っているんだ!?
 いや、どんな奴が相手でも負けない!
 負ける気がしない!
 オレ達のカードバトルは、始まったばかりだ!
 
 

――次回予告
  

吉塚ジェイド
「突如現れた本物の吉塚ジェイド! 勝つことができるか、獅子王悠真よ!」

獅子王悠真
「誰が相手でも負ける気はしない! それよりも、胸に穴開いてたけど、大丈夫なのか11号」

吉塚ジェイド
「問題ない。医者のすすめでお酢を多めに使った食生活に変えたら、3日で塞がった!」

獅子王悠真
「お酢ってすごいんだな、11号」

吉塚ジェイド
「……」

獅子王悠真
「ん? どうした? 11号」

吉塚ジェイド
「いや、急にフレンドリーだし、すごい11号って呼ぶし」

獅子王悠真
「だって11号だろ? クローンの11号だろ? クローンの中でも11番目だろ? それはフレンドリーになるよ」

吉塚ジェイド
「急激にナメてきてる!」

獅子王悠真
「そんなことないよ11号(笑)」

吉塚ジェイド
「11号って呼ぶな!」

獅子王悠真
「次回『傷害事件! ポーランド代表権剥奪!』」
「(ニヤけながら)じゃあ、イレブンって呼び方はどう? 格好良くない?」

吉塚ジェイド
「貴様嫌い!」